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妖光  作者: 村上蘭
10/45

柴立姫伝説





 九




 柴立姫伝説




 「おーい、こっちこっち」




  そう言って、手を振っているのは佐久間の幼馴染


 で友達でもある役場職員の遠崎賢治だ。待ち合わせ


 の場所に決めたのは、球磨川沿岸にある喫茶店とレ


 ストランを合わせた様なドライブインだった。




 「待ったか?」




  言ったのは、佐久間でその後ろには村上蘭が控え


 ていた。




 「いや、俺も今さっき来たばかりだ」




  佐久間は、蘭にイスを進めた後自分も坐りながら


 遠崎に紹介した。




 「こちらは、東京でネット小説家として活躍されて


 いる村上蘭さんだ」




  活躍なんて、おこがましいと思った蘭だったが取


 り敢えず挨拶をした。




 「どうも、村上と言います宜しくお願いします」




  オーソドックスな、モダンジャズが流れている店


 内に客は、蘭達の他には観光できたのか年配の夫婦


 がいるだけだったが、あらためて店内を見渡してみ


 ると雰囲気は悪くなかった。一番の見どころは、蘭


 も入店した時「オー」と思った窓からパノラマ写真


 のように見える球磨川の展望だった。マスターは、


 三十代と言う所だろうか一見して若く見える。多分


 夫婦で営んでいるのだろうクリッとした眼が印象的


 な奥さん?が持って来てくれたコーヒーの香と音楽


 で、いささか気持ちが和んだところで蘭はこちらに


 来た目的を話した。




 「そうですか、取材と休養を兼ねて一カ月ほど滞在


 という事ですね」




   蘭は、この際と思って遠崎に訊ねてみた。




 「遠崎さん、出来ればこの辺りに伝わる伝説とか


 伝承みたいな話を教えて欲しいのですが?」




  遠崎は、佐久間をチラッと見て話し出した。




 「一勝地には、柴立姫の伝説と言われるものがあり

 

 ますけど」




  そう言うと、意味有り気に遠崎は蘭の顔を見なが


 ら言った。




 「そうですか、柴立姫の伝説ぜひ聞きたいですね」



 

  蘭がそう答えると、そのやり取りを黙って聞いて


 いた佐久間が口を開いた。




 「じゃ、今から行きますか?車で行けば20分程し


 か掛からないし、小さな祠みたいな神社だけど歴史


 はかなり古いみたいですよ。なあ、遠崎」



 

  そう言いながら、立ち上がった佐久間を遠崎が手


 で制した。




 「佐久間、実はもう一人ここで待ち合わせしてる人


 がいるんだよ」




  その時、店のドアが開いた。




 「いらっしゃいませー、あら景子ちゃん!」



 

  マスターの奥さん?が、親しそうに声を掛けたの


 は遠崎と同じ役場で仕事をしている同僚の中川景子


 で、人懐っこそうな顔をみせて笑って挨拶をした。




 「こんにちは、中川景子と言います。宜しくです」




  球磨川沿岸には、たくさんの桜が植樹されてい

 

 るが今の時期は、薄ピンク色の花はすでに落ちて


 しまって眼にも鮮やかな若葉の緑で覆われている。


 その緑の中を、佐久間が運転するRV車が窓を全


 開で風を切り疾走していた。




 「村上さん、この先の一勝地橋を渡ったら10分程


 で着きますから」



  佐久間は、風の音に負けないくらいの大きな声


 でそう喋った。




 「そうですか、楽しみです」




  答えた蘭に、佐久間が少し遠慮がちに言った。




 「でも、本音を言えば柴立姫神社に女性同伴で行く


 のは、出来れば避けたかったんですけどね」




 「え、それはどういう事ですか?」




  後ろの、座席には遠崎とその隣には後から合流し


 た中川景子が乗っている。蘭が素朴な疑問でそう聞


 くと、佐久間が答える前に景子が喋りかけて来た。




 「佐久間さん、仰りたいことは解ります。私も最初


 見た時は、ちょっと引きましたけど役場の仕事で何


 回か言ってるうちに、今はもう慣れましたから心配


 ないですよ」




  中川景子の、言葉の意味は蘭には解らなかったが


 そんな事にお構いなしに擦れ違うのにも、容易では


 なさそうな道路をRV車は進んで行った。現場の柴


 立姫神社に着くまでに対向車とは一台も擦れ違わな


 かった。




 「ここですか」



  神社に着くと、蘭に遠崎それと中川景子の三人は


 道路沿いで先に降りた。佐久間は駐車場に、車を置


 きに行ったので、その間に神社に行くと直ぐ裏手に


 は球磨川が下の方に見えていた。駐車場の入り口は、


 ロータリーになっているが、舗装されてないロータ


 リーの中心には樹齢二百年くらいだろうか、樹木の


 種類は解らないが一本の木が堂々と立っていた。そ


 の奥に車が、5,6台はおけるスペースの空地があり


 周りには、樹木が丁度良い具合に涼しげな影を作っ


 ていた。道路を隔てた向こう側には、一勝地の山並


 みが眼前に迫って見えている。景色と環境は、佐久


 間ではないが、最高と言っても良いかなと蘭は思っ


 た。肝心の神社は、と言うとこじんまりと言うより


 は、最初見た時「チッチャ」と言うのが正直な感想


 だった。

 



 「どうですか、小さい神社でビックリしたでしょ」




  神社の前に、立っていた蘭の横に知らない間に来


 ていた中川景子が声を掛けた。




 「はい、神社と聞いて勝手な思い込みでもう少し大


 きな建物を想像してました。それと、正直あれにも


 驚いています」




  蘭が眼をやった先には、男性器を模した置物が幾


 つも飾ってある。中川景子が車の中で言ったことの


 意味がそれを見てやっと解った。




 「中川さんが、車内で佐久間さんと話していたのは


 これの事だったんですね。聞いていたときは、意味


 が解らず何を喋っているんだろうと思ってました」




  蘭は、話しながらも少し気恥しい思いがあった。


 そんな、蘭を見ながら中川景子は屈託なく笑ってい


 る。柴立姫神社の由来は、立て看板を見るとこう言


 う事が書いてあった。昔、武士(公卿とも)の父娘


 の長旅の途中、父は、旅につかれ人の道にはずれた


 娘を斬り、道ばたに埋め柴を立てて立ち去った。村


 人は娘をあわれみ、み堂を建てて祀った。これより


 婦人病や腰から下の病気が治った。伝え聞いて遠く


 からお参りする人も多くなった。


                 (原文のまま)




 「それで、いつの頃からか柴立姫と呼ばれ特に女性


 に親しまれたんですが、途中から婦人病に効くのな


 ら男も元気になるのではないか、と言う事で現在で


 はあの様な物まであります」




  説明してくれたのは遠崎だったが、彼の指さす先


 には高さが6m胴まわり1mはあろうかと思われる


 巨大な男性の、シンボルのモニュメントがそびえ立


 っていた。




 「これじゃ、柴立姫もビックリですね。いつの間に


 か方向性が変わったんだから」




  蘭が、そう言って隣にいる中川景子に喋りかける


 とさっきまで、気さくに笑っていた彼女の顔から笑


 顔が消え鋭い眼を蘭に向けるといきなり胸に手をか


 ざした。


 

  凄まじい妖気が、電撃のように走りそのまま体を


 貫くと意識は朦朧となり、魂が抜かれ異世界に連れ


 て行かれる感覚を感じながら蘭の魂は、錐揉みしな


 がら光の中を空中に舞い上がって行った。









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