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妖光  作者: 村上蘭
1/45

プロローグ



  一

 




  何処までも続く、鉄の道に線路の継ぎ目の「ガタ


 ン、ゴトン」と聴こえる軋み音が、車体の振動と共


 に身体に心地よく伝わる。車窓から見える景色の右


 手は急峻な山肌に、張り付いている濃い緑の樹木の


 群れ左側に顔を向ければ日本三大急流の一つ球磨川


 の流れが嫌でも眼に飛び込んで来る。その水の勢い


 は、三大急流と呼ばれてる割にはやや緩やかに見え


 るがそれは上流に有るダムの放流制限の影響かも知


 れない。そんな考えに、耽っていると俄かに車内が


 騒々しくなった。




 「あれって、人じゃない?」




 「えっ!」




 「ほら、あそこ」




  後ろの席に座っている若い女性の、グループの一


 人が、指さす方に目を向けると確かに川の流れに合

 

 わせて、プカプカと浮いている物が見える。遠過ぎ


 て、判別しずらいが一見して流木のようにも思え目


 を凝らそうと思った矢先にいきなりフェードアウト


 になった。どうやら、この路線はトンネルが多いみ


 たいで列車がトンネルを抜ける頃には車内は元の平


 穏に戻っていた。例の彼女達も「キャッ、キャッ」


 っと快活な笑い声を上げながら世間話に興じふざけ


 合っている。その様子を、見ていたら先程の人とも


 流木とも見えた漂流物の事などは次第に忘れそうに


 なっていた。球磨川に、顔をやると所々水面から顔


 を出しているゴツゴツとした岩に水流が当たり水し


 ぶきを上げている。この景色を、眺めているだけで


 六月の末だと言うのに例年通りの猛暑の兆しが感じ


 られ今年の暑さを和らげてくれる気がするのだが僕


 の思いなどにはお構いなしに列車は目的の駅に近づ


 いていた。


 「一勝地駅に、間もなく停車いたします」


 車掌の、アナウンスが車内に流れてさっきの若い女


 性たちもそそくさと手荷物をまとめているから僕と


 同じに一勝地駅に降りるのかも知れない。彼女達が


 ここに来た目的はだいたい想像できる。熊本県の中


 でも、山深い球磨村一勝地この過疎で悩む村はまた


 県内有数のホタルの生息地でもある。昔なら、何処


 にでもいたホタルであるが近年の河川の汚染で都会


 はもとより殆どの地方でホタルはその姿を消して全


 国的にその数は激減してホタルを鑑賞できる場所は


 ここ球磨村を入れても数える程になってしまった。


 電車は、滑り込むように一勝地の駅に入りながら静


 かに止まり乗降口の扉が少し間をおいて開いた。


 「あーっ、やっと着いたわね」


 田舎の駅にしては、少々目立ち過ぎの大きめのキャ


 リーバッグをゴロゴロと転がして歩いて行く三人の


 女性たちの後を追う様に僕もショルダーバッグの重


 みを感じながら駅舎に向って歩いていた。一勝地駅


 が、出来たのは古く明治四十一年である。時は流れ


 て、国鉄から民営化の大騒ぎがあり現在はJAが管


 理する簡易委託駅になっている。御多分に、漏れず


 この駅も無人駅で人がまばらで淋しい感じは否めな


 いが駅舎は手直しはして有るものの何処かしら風情


 を感じさせる作りである。駅舎には、備え付けの木


 製のベンチが向かい合わせにあり坐ってみたときの


 感触が心地良かった。ガラス張りの、窓の向こう側


 には多分JAの職員だろうと思われる四十年配の女


 性が座っている。同じ並びの、やはりガラスのドア


 を開けて中に入ると観光のパンフレットが置いてあ


 りそれを見るともなく眺めていたら宿の迎えのマイ


 クロバスが駅前の駐車場にバックしている。例の彼


 女達は、早速マイクロバスに乗りこんでいたがバス


 の運転手が、駅舎の中を覗き込んで僕の姿を認める


 とこちらに歩いて来た。


 「あの、ご予約の村上様でしょうか?」


 運転手は、おずおずと尋ねて来る。


 「あっ、そうです村上です」


 駅前で、マイクロバスを見送り今夜泊まる予定の温


 泉センターに向って歩き出した。運転手には、少し


 この辺を散策したいからと断って置いた。ネットで、


 調べたら駅から宿の温泉センターまでは歩いても三


 十分程しか掛からないとあった。駅を出て、直ぐの


 下り坂を降りた先に小さな商店があり右手に球磨川


 を見ながら歩くと川ではラフティングのゴムボート


 がパドルを自在に操り球磨川の早瀬を勢いよく下っ


 ている。先程の、一勝地駅から八代駅に続くJR九


 州肥薩線のガードが見えて来るとガードの下からガ

 

 クッと左に折れまた右に曲がるクネクネとした道に


 なっていた。その先の、左手に酒屋があったが人の


 姿は見えず積み重ねてあるビールケースの中の空き


 瓶を見たら急に冷えたビールが飲みたくなってきた。


 ここまで、歩いて来てやっぱりバスに乗れば良かっ


 たかなと少し後悔していた。季節は、六月とは言え


 日射しは、結構強くて梅雨時だと言うのにピーカン


 で晴れている割に湿気が結構あって暑さを益々辛い


 ものにしているし聞いた所によるとこの暑さと湿気


 がピークになった時がホタルが出るのに最高の条件


 らしいのだけど僕はホタルを観にここまで来た訳で


 はない僕の名前は村上蘭と言い東京を拠点に活動し


 ているネット小説家な訳だけどそんな僕のマンショ


 ンに姉が突然たずねて来たのは二週間前の事だ。









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