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アマルナへの扉  作者: 田丸 彬禰


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ラムセス2世王墓

ラムセス2世。

最近はラメセス2世と呼ぶのが主流だそうですが、ラムセスと呼び、この名がすっかり馴染んでいる身としては今さらラメセスと呼び直すのはなかなか難しいのでご容赦を。


さて、今回はルクソール西岸、王家の谷にある第7号墓ラムセス2世王墓についてです。


この王の名は博物館と限定しなくてもエジプトの遺跡があるところでは必ず見ることができるくらいに多いです。

ついでに言っておけば、たしかに自前の建造物も多いのですが、他人の記念建造物に名前を書き加えることも頻繁にやっていたのがこのお方です。


そして、非常に多いこの王の記念建造物のレリーフの出来に対する、古代エジプトの遺跡を比較的丹念に見る者の評価は高くないといえるでしょう。

数が多いという理由があるのかもしれませんが、ハッキリ言えば、雑です。

これは父親のセティ1世のものと比べれば一目瞭然です。


具体的にどういうものかといえば……。

古代エジプトの記念建造物のレリーフの装飾方法は大別すれば、浮かし彫りと沈み彫りがあるわけですが、セティ1世は手間のかかる浮かし彫りを多用しているのに対し、ラムセス2世は時間のかからない沈み彫り一辺倒。


では、この出来の差を見比べるのに最適な場所はということになりますが……。


おすすめは、やはりアビドスのセティ1世神殿となるでしょうか。

神殿の手前部分はラムセス、奥は父親セティとの装飾なのですが、古代エジプトの壁面装飾の最高傑作と称されるこの神殿のレリーフはもちろん父親の時代のものの評価となります。

さらにこの神殿なかでもその差を間近で確認できるのは、有名な王名表の部屋となります。

多くの場面でアビドスの王名表として登場するセティ1世が王子ラムセスを伴って先祖を敬うレリーフですが、これは父親の時代のもので浮彫り、その対面にあるラムセス時代のものである王が王子と共に狩りをする様子を描いたレリーフは沈み彫りとなります。


さて、王墓の話と言いながら、ここまで他の場所のことを延々とやっていましたが、いよいよ本題です。


先日エジプト学者の河江肖剰氏のSNSから移動して辿り着いたホームページでラムセス2世の王墓の近況を見ました。


実を言えば、この王墓は一般公開されていません。

つまり、観光客レベルでは中に入って見ることができないのです。

まあ、そこはエジプト。

とりあえず偶然ということにしておきますが、以前一度だけ入口付近のみ中を眺めることができました。

そして、そこは、ラムセスのレリーフの代名詞のようなものであり、先ほど散々こき下ろしていた沈め彫り、それとは対照的な丁寧な浮かし彫りで装飾されていました。

さすがのラムセスでも自らも墓はこれくらいはやるのかと思ったものです。


ただし、最深部にある埋葬室まで同じようにやっているのかは大いに疑問を持っていました。


これは、王家の谷にある第19王朝や第20王朝の墓を見るとわかるのですが、入口部分は、王の意気込みを感じられる丁寧な浮かし彫りで装飾されている、ものの、半ばまで来る頃には、面倒になったのか、軍資金が尽きたのか、それとも王の死期が近づいたのかは知りませんが、荒い沈み彫りにその手法が変わり、第14号墓のようにペイントで済ませるものまで現れます。


ですから、ラムセスもこのパターンということは十分に考えられると思っていたのですが、公開されたラムセス2世王墓の画像を見るとなんと、最後までしっかりと浮かし彫りで仕上げています。

治世年数も長く、軍資金も豊富だったのですから、当然といえば当然ですが、これは驚きとともに新たな発見でした。


まあ、劣悪な保存状況と、長くかかりそうな修復作業から考えて一般公開されるのは遥か先になるでしょうが、せめて頻繁に画像を公開してもらいたいものです。


それからもうひとつ。

以前はラムセスの記念建造物で浮き彫り装飾が見られないのは、ラムセス時代の装飾職人の技術レベルが急激に下がったのか、建造物の数が多すぎてレベルの劣った職人を使わざるを得なかったのかのどちらかだろうと考えていました。

ですが、もしかしたら、自らが頻繁におこなっていた名前の書き換えを防ぐために見栄えはいいが書き換えが容易な浮き彫り装飾を敢えて封印した。

それこそが正しい答えのように思えてきました。

そういう気持ちにさせるくらいに非常に出来のよい浮彫レリーフでした。

ラムセス2世王墓の装飾。

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