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アマルナへの扉  作者: 田丸 彬禰


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花崗岩は高級品

私が初めてエジプトに行ったときの日本人ガイドさんがルクソールの王家の谷の墓の前でこう説明しました。


墓の天井に星を描くことができるのは王のみ。

墓の壁面にケケル・フリーズを描けるのは王のみ。


もちろん、その頃はまだ純真だった私はその言葉をそのまま信じました。


それから数年後、中部エジプトの遺跡ベニハサンにある中王国時代の貴族の墓を訪れたときに私はとんでもないものを目にしました。

そう。

その墓の壁にはあってはならないものが描かれていたのです。


そのときに私はこう思いました。


たとえそれがどのような肩書がある人物のものであっても簡単に他人の言葉を信じてはいけない。

聞き流してよいものならともかく、そうでなければ裏を取るべき。


それから、もうひとつ。


自分の目で見たものを一番に信じるべきだ。


こうして現在の私が出来上がったのです。


ちなみ、ケケル・フリーズとは、壁面装飾の技法のひとつで束ねられた葦を模したものとされています。


今回のタイトル「花崗岩」とは無縁に思えるケケル・フリーズをなぜ持ちだしたのかといえば、ベニハサンの話をしたかったからです。

この遺跡の装飾で有名なのは、古代のレスリングがモチーフの壁画なのですが、それらを眺めながら、その壁面をさらにじっくりと見ると、あることに気づきます。


壁面に花崗岩が使用されている。


この時代の貴族たちは力があったと伝わっているので、岩窟墳墓にわざわざアスワンから切り出した赤色花崗岩、……日本人の馴染みがある言葉で言い直せば、御影石、または赤味を帯びた墓石、を壁面に張り付けたのかと感心……ん?

どうもおかしい。

見た目はたしかに花崗岩なのですが、平面的なのです。


それもそのはず。

実はこれ、描かれたものなのです。

つまり、よく描けてはいるものの、花崗岩風な絵。

さすがに花崗岩を墓の壁面に張り付けることは無理だったようで、花崗岩風の絵で代用したようです。

まあ、当然といえば当然です。

質さえ問わなければベニハサン周辺でも採石できる石灰岩とは違い、花崗岩は遠く離れたアスワン周辺でしか採れないうえに、それを切り出すのは一苦労。

つまり、花崗岩とは国家事業の神殿、どんなに頑張っても石棺か石像などになるものであって、地方貴族の墓の壁面に使うようなものではないのです。

それとともに、見栄を張って描いたものであっても墓の内張りに使いたいくらいの高級品かつ憧れの品だったともいえるのではないでしょうか。

花崗岩とは。


ちなみに、石の切り出しに使える金属製品といえば銅くらいしかなかった古代エジプトの道具をつかって花崗岩に長さ60センチ、深さ2センチの溝を掘るのに5時間かかったという実験記録が残っています。

これをそのまま当てはめると以前別のエピソードで取り上げた巨大オベリスクを切り出すのには気が遠くなるような時間が必要となります。

そして、それだけの時間をかけて切り出すということは、当然それを運搬できる手段を持っていたことを意味します。

伊達と酔狂だけでお金と時間をかけて花崗岩の切り出し作業に挑むほど古代エジプト人は暇でも優雅でもないのです。


ということで、今回はここまで。

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