表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマルナへの扉  作者: 田丸 彬禰


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/129

赤字と黒字

赤字と黒字。

この言葉を聞けば、たいていの日本人は、家計、企業、または国家の収支の話だろうと思うでしょうが、違います。

今回は、言葉どおり、赤色で書かれた文字と黒色で書かれた文字の話です。


習字授業。

字が汚い私はこの授業が大嫌いでした。

たしかにお世辞にも上手とは言えないのは自分でもわかっている。

だが、おかしな香りのする赤い墨汁ですべてを直されだけではなく、タップリと嫌味を言われる。

そして、最後に顔に朱入れをされる。

これがこの授業での私の日常でした。

今は教師の横暴が簡単に許されないのでこんなことはないとは思いますが。


なぜ、ここでそんなどうでもいいことを言いだしたのかといえば、教師が使用していた墨汁の色の話がしたかったからです。

つけ加えれば、すべてを直された私が書いた文字に使用された墨の色も。

そう。

赤と黒です。

それだけではなく、試験で生徒の答案に〇×をつけ、点数を書き込む、某業界用語の「朱入れ」に使うのも当然赤ペン。

日本人のイメージからすれば、生徒が使うものは黒色、教師が修正するものは赤色ではないでしょうか。


ところが、古代エジプトはこれが逆だったのです。

壁画。

まず、弟子が下書きをするのは赤色の塗料でおこないます。

そして、出来上がった下書きを、師匠は文言の訂正やデザインの修正をしながら最終的な構図を書き込むのですが、それは黒色の塗料でおこないました。


ルクソールの墓に残るペイントによる装飾は図像の縁取りやそこに書かれた碑文は黒色でおこなわれています。

ですが、稀にあきらかに下書きと思われるものが見えるものがありますが、それは皆赤色です。


ツタンカーメン王墓の壁画にはその様子が比較的ハッキリと見ることができます。

特に、猿、というかこの世界ではヒヒですが、その猿的生き物と船が描かれている部分はそれがよく確認できます。

そこでは、絵の隣に文字が書かれているのですが、右側に赤字で、左側には黒字でほぼ同じ意味の言葉が書かれています。

ですが、弟子のものを見た師匠が、大きさやデザイン、それにもちろん意味を考えて配置や文字を訂正しながら書き直していく過程がわかります。


この壁画、というか、この墓の装飾自体その完成がかなり急がれていたのか、消されずに残ったばかりか、同じ壁面では、弟子によって書かれた碑文がそっくり書かれなかった部分もあります。

その部分は、師匠が弟子による碑文を不要なものと判断したのか、時間がないためやめたのかは判断が難しいのですが、他の状況を考えれば、後者の可能性も十分にあると思います。

もし、エジプトに訪れ、ツタンカーメン王墓に行く機会があるようなら、是非じっくりとご覧あれ。


と、話がきれいにまとまったところなのですが、実はこの話にもオチのようなものはあります。

一応、ここまで書いた話は古代エジプトのやっている者にとっての常識のようなものに則った話です。

ですが、ルクソール西岸にある貴族の墓をを見ると、縁取りが赤色でおこなわれているものが意外にあります。

では、先ほどまでの話は間違いだったのかといえば、おそらく間違っていない。

墓職人たちにとっては王墓よりも格下の仕事である貴族の墓の装飾はその程度だったということなのでしょう。

文字的な記録があるわけではないので、断言はできませんが。


ということで、今度こそ終了。

今回は文字の色の話でした。

この色、というか材料についても少々おもしろい話があるのですが、それはまた別の機会に。

では。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ