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アマルナへの扉  作者: 田丸 彬禰


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古代エジプトで使用された石材の重さ

石の重さを求める計算式をご存じでしょうか?

改めて問われると、少々考えてしまいますが、答えは体積×密度です。

そして、もちろん体積を求める基本形は縦×横×高さです。

ここまではそれほど難しいものではありません。

そう。

問題は密度となります。

では、石の密度は?となるわけですが、その前に古代エジプトの建造物で使用された石について。


古代エジプトでは多くの石種をその建築資材として利用しましたが、主なものは石灰岩と砂岩。

そこにひとつつけくわえるのであれば花崗岩、日本では御影石と呼ばれている石になるでしょうか。


石灰石はピラミッドの核、そして、大部分の外装石に使用されたほか、新王国時代中期までの多くの建造物の資材になっています。


砂岩は新王国時代の中期以降の建造物の主要建材となっています。


花崗岩を使ったもので有名なものはオベリスクと石棺なのですが、建造物ということであれば、ギザにあるクフ王のピラミッドの「王の間」、カフラー王とメンカウラー王のピラミッドの外装石の下部に使用されたものが、簡単に見ることができるものということになるのでしょうか。


さて、簡単に説明したところで、その三種の石材の密度はどれくらいでしょうか。

同じ石種でも採石地や質により密度には違いが出るようですが、私が見つけた資料の数値を紹介すれば、石灰岩は2.5から2.7、砂岩は2.2から2.7、花崗岩は2.5から2.8となります。


さて、必要な数値がわかったところで実際にそれを使って計算してみましょう。


たとえば長さ、奥行き、高さが、それぞれ200センチ、100センチ、100センチで、密度2.5の石灰岩ブロックの重さがどうなるかといえば、200×100×100×2.5。

その数値をキロ換算にするため、1000で割ると5000キログラム。

すなわち5トンとなります。


これは、ギザの大ピラミッド建造の話をするときにしばしば登場する「平均2.5トンのブロックを230万個使い~」という話のブロックの重さの倍となります。

では、その2.5トンのブロックはどの程度の大きさのものなのかといえば、実際に使用されたものではそのようなフォルムのものはあまりお目にかかることはありませんが、縦横高さすべて1メートルの立方体がそれに該当するものとなります。


この数値を見てどう感じましたか?


おそらく多くの方が重さから想像するものよりサイズがかなり小さいと思ったのではないかと思います。

もちろん、大ピラミッドの最下段に並ぶ石材ブロックは最初に例として出した5トンまではいかないもの3トンにはなる大きさがありますし、外装石として使用された石灰岩は現在むき出しになっている核石より圧倒的に質が良いので当然密度は高くなります。

ですが、「平均2.5トン」を信じれば、そういうことであれば当然積み上げられたブロックのなかには1トン未満のものもあることも十分に考えられます。

そして、そうなればその大きさの石材は上部に据えられていたのは容易に想像できます


それから、もうひとつ。

これは専門家がピラミッドの石材積み上げの話を語るとき触れられることがほとんどないものです。

それは……。


約150メートルの高さがあるギザの大ピラミッドですが、実はその3分の1の高さになった時点で資材の半分は積み上げられ、半分の高さになったころにはそのほぼ4分の3の石は積み上がっていた。

そして、それはどのピラミッドでも同じである。


これは、テレビに出演した専門家がピラミッド建造の話をするときに説明内に加えるべき重要な項目だと私は思うのですが、彼らは頑なにそれを拒みます。

その理由はまったくわかりませんが、もしかしたら、それが考古学というよりも算数の世界に属するものだからかもしれません。

ですが、この知識を頭の片隅に入れておくと、いくつかの話を聞いたとき、まったく違う風景が見えてきます。


例を挙げましょう。


フランス人建築家ジュン・ピエール・ウーダン氏が大ピラミッドは高さが3分の1に達したところで、運搬路を単純な直線状の傾斜路から、ピラミッド内部を通るトンネルをはじめとした複雑な仕掛けを施した螺旋式傾斜路に変更して残りの石材を積み上げたという新たなピラミッド建造説を発表し話題になりました。


私もその本を読み、面白いと思いました。

ですが、それは石材の積み上げ作業の半分が終わっている状況下でその面倒な作業を始めるということを意味します。

前王スネフル時代に100メートル超えのピラミッドをそのような手間をかけずひたすら人力だけでつくる技術とノウハウを持っているうえ、意外に保守的で確実性がある使い込んだ技術を重宝する彼ら古代エジプト人がその時点でその方法を本当に採用したのかは疑問符をつけざるを得ません。

そう。

私自身はこのウーダン氏の説は商業目的の話題づくり、そうでなければ妄想話の類だと思っていました。

ウーダン氏はその後もあちらこちらで熱弁を振るってその説の有用性を説いて回っていたものの、大ピラミッド完成から約十年後に建造が始まった大ピラミッドとほぼ同じ大きさのカフラーのピラミッドにはその痕跡はまったくなかったことについて彼が言及したことはないようです。

大ピラミッドにおけるいくつかのデータを彼はその痕跡だと主張していましたが。


ついでにというか、そもそも今回のエピソードをやろうと思ったきっかけとなったある動画で語られていた「巨大石材を150メートルの高さまで持ち上げることなど現代の機械を持たない古代エジプト人にはできない」という主張にも触れておきましょう。


まず、その動画について。

そこではそれを引く人間の大きさから考えて、長さは10メートル、奥行き、高さもそれぞれ5メートルと3メートルはありそうな石材を引いている絵をその証拠としているのですが、先ほどの計算式に当てはめればその重さは375トン。

それは実際にピラミッドを構成していた平均的石灰石の100倍以上、大ピラミッドで一番重い石材といわれる「王の間」で使われた花崗岩ブロックの約10倍となります。

そして、そこだけは正しい「ブロックのおおよその数」と「クフ王の治世年数」を引用し、その数の巨大ブロックを王の治世年数で割れば1時間に10個以上据え付けなければならない、すなわちそれは不可能と主張しています。

ですが、彼らがその前提を示しているその石材は実際のものの100倍もの重さというとんでもない代物。

そんなものを見せながら声高にそれを主張されれば、純粋に古代エジプトを遺跡が好きな者であれば黙っていられず、「そもそも前提が違っている。つまらん主張をする前に他人を間違った方向に誘導する間違いを訂正せよ」と言ってしまうのは当然のことです。

もっとも、人間と大して変わらぬ大きさしかない石材を20人がかりで引っ張る絵を見せて、これだからピラミッドを構成する石は人力では運べませんと主張してもあまり説得力はなく、そうかといって「現代の技術がなければ石材を運び上げるのは無理である」という自らの主張を引っ込めるわけにはいかない彼らはどんなに要求されてもそれを訂正することはないでしょうが。


ちなみに、日本の石舞台古墳は、30数個の石材の総重量は2300トン。

40個してもひとつ平均約58トンになります。

それを離れた場所にある採石場から運んだわけです。

そして、天井石として使ったものは1個でなんと77トン。

どれをとっても、彼らが無理と言った古代エジプトのピラミッドを構成した石材の平均2.5トンなど微々たる数字に思えるものなのです。


そう。

「現代の重機がなければ巨大な石材は動かせない。つまり、あれは超古代文明の遺産」と主張したいのであれば、ピラミッドではなく石舞台古墳を選択したほうが彼らの言葉が正しく思えるのです。

まあ、それをやったらどうなるかわかっているからダンマリを決め込んでいるのでしょうが。


ということで、個人的にスッキリしたところで今回はここまで。

予定にはありませんでしたが、ふたたび少しだけ数字を使った話をしました。


本来なら、テレビに出る機会が多いエジプト学者が番組内でこのような説明をするべきなのですが、なぜかやりません。

差しさわりのない話ばかりやっていないで、たまにはこういうものをやっても面白いと思うのは私だけでしょうか。


では。

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