表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマルナへの扉  作者: 田丸 彬禰


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/129

アマルナの幻想は本当なのか

アマルナの幻想とその顛末。

それは簡単に言ってしまえば、このようなものです。


アクエンアテンがアマルナにつくろうとしたのは愛と平和に満ちた理想郷。


だが、実際はまるで違った。

なぜなら、そこは恐怖と暴力が支配する世界だったのだから。


当然のようにその物語には失敗、独善的などなど負の言葉が続くわけです。

そして、今世紀になってそこにもう1ページ追加されました。


王族や貴族ではない一般市民の墓地の発見。

そこに埋葬されていた被葬者の骨の分析をすると、その多くから過酷な労働の痕跡が見つかったことから、アクエンアテンはアマルナに移住してきた者に重労働を強要していたという意見が溢れました。


たとえば、これが刺激的なタイトルが欲しいテレビ局の謳い文句なら、顔を顰めるだけで済ませることはできます。

ですが、ここにエジプト学者が加わるということであれば、看過できない。

これが私のスタンスとなります。


まず、事実。

新しく発見された一般市民の墓地での調査結果。

これは間違いなく正しい。

ですから、アマルナの市民は厳しい労働環境下で作業をおこなっていたのは事実ですし、若年齢者も労働力であるとみなされ、その結果多くの命を失った可能性が高いことも間違いありません。

では、何を主張したいのかといえば、これ。


古代エジプトにおいてこの労働環境がアマルナだけのことだったのか。


古王国時代から新王国時代において建設事業が盛んにおこなわれていた他のサイトではそのようなことはなく、アマルナに住む者だけが過度な労働を強いられていたということであるのならその主張は正しいということになります。

ですが、実際はどうなのかといえば……。


答えられない。


これが正しいのです。


たとえば、アマルナよりも大規模な建設工事がおこなわれていたピラミッド時代の労働者はどうだったのか?

もっとも有名なピラミッドがあるギザにはピラミッド建造に携わった者たちが住んでいた町や彼らの墓が発見されています。

そういうことなら、簡単に比較できるのではないかと思う方も多いでしょう。

さらに言えば、この地の調査に参加していたエジプト学者河江肖剰氏が多くの場所でピラミッドの建造に携わった労働者は非常に優遇されたと言って回っていたので、この地の労働者の労働者の骨にはアマルナの市民に見られた重労働の痕跡がなかったように考えている方も多いのではないでしょうか。

ですが、残念ながらそこで見つかっている墓は労働者の監督官や職人レベルのもの。

重い石を運んでいた単純労働者のものではありません。


同じく多くの神殿の造営工事がおこなわれていたルクソール。

ここには「デル・エル・メディーナ」、いわゆる労働者の村というものがあり、そこの住人たちの墓もあります。

ですが、これも王家の墓をつくるという特別の仕事をおこなう者たちが集められ形成されたものであり、カルナック神殿の石材を石切り場から運搬した者とは無縁な場所です。

さらにいえば、ルクソール西岸には多くの岩窟墳墓がありますが、皆貴族のものです。


そう。

建設工事が盛んだった他の場所ではどうだったのかという比較ができないのです。

それにもかかわらず、その発掘調査の結果だけを見て、アマルナの市民だけが特別ひどい労働環境にあったと断言するのはあまりにも短絡的といえます。

まあ、私が病的なアマルナマニアであるからそう思うだけなのかもしれませんが。


そして、もうひとつ。

そもそもアマルナの幻想なるものは本当に存在したのか?

遷都したからにはアクエンアテンがアマルナをルクソール以上の都にしようと考えていたのは間違いないでしょう。

また、アマルナに王墓を造営したのですから、アマルナを気に入っていなかったということは絶対にないですし、アマルナは一時的な都でありいずれルクソールに戻ろうと考えていたこともないと断言できるでしょう。

ですが、それはすべて自らのためであり、末端臣民にまで理想郷の恩恵を与えるつもりだったという主張には疑念を持たざるを得ません。

まして、アクエンアテンが愛と平和の使徒でその理想を実現するためにアマルナに都を移したなど、何を見てそう解釈したのかは知りませんが、妄想の類でしかないといえるでしょう。


ついでに言えば、アクエンアテンがアマルナに住む者たちにアテン信仰を強要し、アテン神以外の神々を信仰することを禁止し、それを秘密警察的なものを使って取り締まったかのような話もあるようですが、これも怪しいと言わざるをえないことです。

本当にそこまでやったのかと。

まあ、これについてはおもしろいネタが多数ありますのでまた別の機会にやることにします。


とりあえず、そういうことで、その提唱者の勝手な思い込みでアクエンアテンのキャラクターを決定し、現実を知ってこれまた勝手に失望し非難をした。

これがこの件に関する私の意見です。


さて、話はこれで終わりですが、今回せっかくアマルナで発見された一般市民の墓地について触れる機会となったので、最後にこれについてひとつつけ加えておきます。

もちろん他のサイトで同じようなものが発見されていないので確定的に話すわけにはいきませんが、アマルナで発見された名もなき者たちが埋葬された墓地が特別なものだったとは私には思えません。

私の考え。

それはこうです。

おそらくどの都市にもこのようなものは存在した。

そして、その方法も観光客が見学する多くの装飾が施された貴族の墓からは想像できない簡素な土葬だった。

今後ギザやルクソールで庶民の墓が見つかることがあれば、最初のテーマを含めてすべてが解決します。

楽しみに待つことにしましょう。


と蛇足を書き加えたところで、今回はここまで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ