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アマルナへの扉  作者: 田丸 彬禰


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消されたファラオ列伝

消されたファラオというタイトルは、私がよく使うフレーズなのですが、これはグレアム・フィリップスの「消されたファラオ―エジプト・ミステリーツアー」という本から拝借したものとなります。


せっかくですから、この本について少しだけ触れておきますと、この本の主題はアクエンアテン治世末期の混乱のなか現れた謎のファラオについてと、ユダヤ教がいかにアクエンアテンに影響を与えたかということになります。

個人的には後者について書かれた部分にはあまり興味はなくおもしろくなかったのですが、前者について書かれた本の前半は内容に異論はあるものの非常におもしろかったという感想を持っています。

ついでに言えば、この本は私が本格的にアマルナをやりだしたきっかけを与えたものでもあります。

中古本は比較的簡単に手に入るので興味のある方は一読ください。


さて、いきなり長々と思い出話を書いたので、今回もアマルナかと思ったでしょうが、少し違います。

たしかにアマルナ時代の諸王はアビドスの王名表からは抹殺されてはいますが、ネフェルネフェルウアテン王以外は墓や建築物によってその活動は確認できますし、唯一の例外であるネフェルネフェルウアテン王も各地で発見された名前入りの多くの遺物によってその痕跡は確認できます。

今回取り上げるのは、彼ら以上に謎。

もう少し言えば、いたように思える程度の王となります。


古代エジプト第4王朝。

それはいうまでもピラミッド時代の最盛期。

つまり、クフ王やカフラー王の時代です。

記録によればこの王朝はクフの父スネフルから始まり、クフ、ジェドエフラー、カフラー、メンカウラーと続き、シェプスセスカフで幕を閉じ、第5王朝に引き継がれます。

ですが、ここにアビドスの王名表には名前が残らぬ王がいました。

少しでも古代エジプトの知識がある人はこう言われて思い浮かぶ人名があることでしょう。

ケントカウエス。

ギザのピラミッドエリアにある大きなマスタバの被葬者で女性です。

ピラミッド時代にマスタバに埋葬されたのだから王ではないだろうと即座に断言できそうですが、シェプセスカフの例もあるのでそこでは否定できません。

ですが、同じマスタバでもシェプスセスカフのものは構造がピラミッドそのものであるのに対して、彼女のものは入口をはじめとして多くの点で違うといえます。

では、なぜということになりますが、それは入口近くに残されたブロックに刻まれた彼女が所有するタイトルが読みようによっては王ともいえるからで、これを根拠に彼女の王の列に加えるべきと主張する専門家もいます。


しかし、ここで取り上げる消されたファラオは彼女とは別の人物です。


まず、彼が存在した痕跡を紹介します。

ギザとサッカラの中間地帯にあるザウィヤト・エル・アリヤーンの未完成ピラミッド。

この地には未完成ピラミッドが2基あります。

ひとつは第3王朝期の典型的階段ピラミッド。

そして、もうひとつが謎の王のピラミッドとなります。

日本でこのピラミッドを取り上げられることはほとんどないのでご存じない方がほとんどでしょうが、これが完成していればカフラーのピラミッド並みの大きさを誇るものになっていました。

たった今完成していれば、と書きましたが、どの程度まで工事が進んでいたのかといえば、アブラワシュのピラミッドと同じような巨大ピットの掘削は完了し、あとは石を積み上げるだけ、となります。

現在は貴重な資料となるピラミッド建造工事に従事する労働者たちが残した落書きはここでも多数発見されているのですが、カルトゥーシュ内に記されたこのピラミッドの持ち主の名は前述した王たちのものではありませんでした。

バーカ。

またはカーバ。

それがその名となります。

では、この謎の王がなぜ第4王朝時代の人物と言えるのかといえば、ピラミッドの様式にあります。

さらにいえば、ジェドエフラーがアブラワシュに建造したピラミッドにきわめて似ています。

そのためこの謎の王はジェドエフラーとカフラーの間に即位していたジェドエフラーの息子の誰かではないかと推測できます。

彼がこの王の息子である可能性があるのは、ピラミッド建設場所からも伺えます。


他の王によって完成したピラミッドの近くにはピラミッドを造らない。


おそらく存在したはずのこの不文律によってそれまでピラミッドの建設地はサッカラから始まり、メイドゥムを経由したダハシュール、ギザ、アブラワシュと移動していました。

そして、理由はわかりませんし、そのおかげで現在まで残る見事な光景が出来上がったわけですがそれを破ったのはカフラーとなります。

それに対してこの謎の王も伝統に倣ってギザでもアブラワシュでもない場所にピラミッド建設を始めた。

つまり、十分にジェドエフラーの後継者である可能性があるわけです。


ですが、結局このピラミッドは未完成に終わり、彼はどこに埋葬されたのかもわからぬままとなり、いつしか名前も忘れ去られることになったのかもしれません。


ただし、彼の存在を忘れていない者もいた。

トリノ王名表パピルスには彼を示すと思わせる一文が残されています。

ついでにいえば、前述したケントカウエスと思われる人物を示すのではないかと思われる王も記されています。


ということで、尻つぼみ感はありますが今回はここで終わりです。

何しろ資料が少ないもので妄想して書くのにも限界がありますから。

なお、消されたファラオについてはまだ取りあげたい人物もいますので、そのうちまたやりたいと思います。


最後にトリノ王名表でのこの部分の確認の仕方をオマケとして加えておきます。


第3コラムで名前が確認できる第4王朝の王は始祖スネフル。

第5王朝の王はメンカウホル。

さらに部分的に確認できるのは第5王朝の始祖ウセルカフ。

この結果、第4王朝はスネフルからウセルカフの前の人物までの計8人。

知られている第四王朝の王は6人。

よってこの王名表には第4王朝の知られていない2名が存在することになります。

さらにスネフルから数えて4人目の名の一部にカァの文字が確認できます。

ひとり飛ばしてスネフルから数えて6人目の王の治世は少なくても18年の治世年数が確認できますので、おそらくこれはメンカウラーを示すものと思われます。

もし、4人目の王がカフラーを示すのであればここで取り上げた謎の王はカフラーとメンカウラーの間に即位したということになります。

メンカウラーの後に即位したふたりの王の治世年数は4年と2年になっています。

さすがにシャプセスカフよりも名もなき王の方が治世年数が長いということはないでしょうから、治世年数4年の王が彼で、治世年数2年の王がもうひとりの王ということになると思われます。


トリノ王名表の原文は崩し文字で書かれています。

ですが、ありがたいことにヒエログリフに直されたものも出版されています。

「The Royal Cannon of Turin」

ヒエログリフの大家であるA・ガーディナーによるものなので安心して使用できます。

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