幼なじみ
想いは言葉にしないと
相手には伝わらない。
きっとそうだと思う。
でもたった2文字の
「スキ」って言葉なのに、
それを伝えるのは
なんでこんなに難しいんだろう。
思い切って書いた
love letterも
結局渡せないまま。
バレンタインのチョコも
思いっきり手作りなのに
「義理チョコだから」
と毎年同じセリフ。
どれだけ長く一緒にいても、
あたしたちの関係は
何も変わらないまま。
アイツとあたしは、
ただの幼なじみ。
今日こそ今日こそは
自分の想いを
彼に伝えよう
毎日そう思っていた。
もうすぐ卒業だから。
離ればなれになるから。
それまでには―
「バイバーイ」
「うん、また明日ね。」
他の教室から聞こえた声が、
廊下に微かに響く。
放課後の教室。
授業中の耳障りな先生の声もない。
休み時間のあの笑い声と
騒がしさも嘘のようだ。
音楽室からは、
心地よいピアノの音。
そのピアノのメロディーにのって
春を知らせる暖かい風が、
カーテンを揺らした。
開いていた窓を閉め、
日直の仕事を終わらしたあたしは
ひとり教室を見渡す。
たったひとりの
だだっ広い教室。
そこには行儀よく並んだ
机と椅子たち。
そのなかで
あるひとつの机と椅子だけ、あたしには特別で
愛おしく見える。
それは
1番後ろの窓際の
―アイツの席。
息をのみ、
彼の席の椅子にそっと触れた。
触れた指先が
熱くなるのがわかる。
高鳴る胸の鼓動。
静まり返った教室に
椅子を引く音だけが耳に入る。
そこは彼がいつも座る場所。
彼の瞳に映るのと同じ景色、
意味のない机の上の落書きも
なんだか愛おしい。
机に顔を伏せ、
そっと目を閉じる。
彼がいつもつけている香水の香りが
微かに残っている。
時計のときを刻む音。
それよりも早く
あたしの心臓から流れる血液が、
大きく脈を打つ。
きっと彼は
あたしの気持ちなんて
気づいていないのだろう。
今日こそ告白するつもりだったのに...。
「あーぁ...今日も言えなかったなぁ。」
「何してんのー?」
あたしの鼓動をかき消す声。
その聞き覚えのある声に
目を開けると
―アイツがいた。
「なんでここにいるの!?」
「俺、忘れ物取りに来た。」
驚くあたしに彼は、
「ってか、ここ俺の席〜。」
そう言って、
あたしの頭にポンっと軽く触れながら、
その触れた手で
髪をくしゃっとした。
そして
いたずらっ子みたいに彼は笑う。
「ま、窓際の一番後ろの席って、
どんな感じだろ〜って思っただけ。」
とっさに出た嘘。
ほんとの気持ちなんて
とても言えない。
耳の先まで熱くなり
さっきよりもさらに早くなる脈を、
気づかれないように必死でごまかした。
「ふ〜ん。」
きまづい雰囲気が漂う。
絶対変に思われてる...。
彼の視界から逃げるように席から立ち、
黒板に書いてある
日直のあたしの名前を消した。
黒板消しで消すように
さっきの出来事も消せればいいのに。
「なぁ、昔みたいに
一緒に帰んない?」
背中から聞こえた彼の言葉。
「うん、・・・いいよ。」
あたしは俯いたまま返事をした。
「明日も、あさっても
その先もずっとな」
「えっ…」
実は俺おまえのこと
す・・・
キーンコーン
カーンコーン
下校を知らせるチャイムの音が、
彼の声を遮るように
教室に鳴り響く。
「俺、タイミング悪ッ」
「実はあたし好きな人が
いるんだ・・・」
「そっか...そうだよな。」
「今日、あたしと一緒に帰る人。
ずっと前からスキだったよ。」
やっと言えた
ずっと伝えたかった
2文字の言葉