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虚ろな境界【哭冷凍土戦線】  作者: 星見流人
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幕間:終わりまでの景色の途中

  Interlude in


 気付けばジンは札幌コタンの中を歩き回っていた。そこかしこに殺気が充満している。誰かが、戦っている。

 背負った大剣はそれに反応するように鼓動を打つ。

 早く戦いたい。

 強敵を倒したい。

 大剣は強靭な意思でジンにそう訴える。

 狂気とすら思えるその意思は少しずつジンを蝕んでいる。そのことに今のジンは気づいていない。

 晶具はその所有者の性格を変える。

 これはかつて、アカガネハルキの下で働いていた科学者の一人から上げられた情報だ。

 晶具の所有者は一人の例外もなく、所有者の性格を変えた。より正確に言うならば、所有者の思考を支配した。

 それが絶大な力の代償。

 それはアカガネハルキが遺した人類への呪い。

 すべての人類を駆逐すべく作り上げた仕掛け。

 子どもたちの多くはそのことを知らない。何も知らされないまま、人工的に作られ、人間社会に放り込まれた。

 時限爆弾は待ってくれない。

 晶具を与えられた時点で、その時は刻一刻と近づいてくる。

 たった一人で、いつ来るかも分からない、その時を待つ。恐怖に震えながら、絶望に沈みながら、あるかどうかも分からない希望に縋りながら。

 ただひたすら彼らは待つことしかできない。

 いつか彼らはこのことに気付く。

 その多くが生みの親を怨むだろう。その多くが生みの親を憎むだろう。

 彼らは人間を殺し尽くすための道具でしかなかったのだから。

 雪の中を歩くジンの前に、美しい少女が突如現れた。

 かつて、巫女と呼ばれ、畏れ敬われていた少女。大人びたその貌は黒いヴェールで覆われていて、ジンからは見えない。

「この地における実験は終わりました」

 口元に微笑みを浮かべて、彼女は一方的にジンに告げる。

「次に会うときは……歴史が動いているかもしれませんね」

 心底嬉しそうに、そして楽しそうに彼女は言う。

「アカガネハルキが遺した希望は私が必ず形にします。どうか、もうしばらく待っていてください。いずれ、あなたの力も必要となるときが来ますから」

「人の命を奪うだけの力が必要、か。そりゃ、アンタの考えていることはろくでもねえことなんだろうな」

「……何も知らない人からすれば、そうかもしれませんね。でも、私たちはアカガネハルキの子どもたちです。人々を救うだけの力があります」

 人々を救う、と彼女は何度か口にしていた。それが何を意味するのかジンはまだ知らない。

「救う、とはまた大仰だな……。他人を救う前に自分が救われたいとか思わねえのかよ、テメエはよ?」

「私はそんなに救われたいように見えますか?」

「見える」

 予想していなかった返答に一瞬、彼女は固まった。

「聖女だか巫女だか知らねえが、今のアンタはそう見える。確証も何もない。ただの俺のカンだ。何となくだけどよ、アンタは……」

「そこまでです」

 残響は吹雪にかき消された。

「その先を言えば、あなたはここで命を落とします」

 舌打ちするジン。確かに、この得体のしれない女を相手にするには準備が足りない。

「わあったよ。葉村にもオヤジにも言わねえよ」

「葉村さんのこと、ちゃんと守ってあげてくださいね」

「……アンタに言われる筋合いはねえけどな」

 辛辣な返答に苦笑しながら、彼女の身体は白い空間に溶け込み、消えていった。

「あーあ。女ってのは本当に面倒だ」

 言いたいことも言わせてくれやしない。

 あの空っぽな少女がそれに気付いているかは分からないが。ジンはその言葉を胸にしまって、再び歩を進めた。

 彼の任務はまだ終わっていない。


  Interlude out

こんばんは、星見です。

2週間前には書き終えていたのですが、色々ありまして、やはり遅筆になっております。

年内にはこの物語を終わらせたいと思っていますが、どうなるか分かりません。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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