ねがい
弐の太刀を繰り出してから、二人は静止している。
相手の手の内の読み合いと探り合い。
もしくは次善の策の練り合い。
その間、一秒に満たず。
そして、二人は再び駆け出す。
「参の太刀……」
重なる声は先ほどと同じに。
「緋炎」
「氷声」
全体重を乗せた渾身の一撃が大地を揺らす。
「そうか、これを凌ぐか。力も付けたようだな」
「そりゃそうだ。この日のために生きてきたし、この日のために技を磨いてきたからな」
「……そうか」
青崎は飛び退いた。悲しそうな笑みを浮かべている。
「そのために何人もの命を奪って、か」
「そうだ。……この世界では、命なんて北海道に降る雪よりも軽いだろ。金で命が売り買いされる世界だ。知らないとは言わないよな?」
「言わないさ。だからこそ、この力を使うべきだと思わないか? 人々を救うために、世の中の安寧のために」
「なあ、本気でそう思ってんのか? このおぞましい力が世界平和のために作りだされたものだと? 俺たちが世界の守護者になりえる存在だと」
青崎は薄々気付いていた。
自分たちは、アカガネハルキの子どもたちは災厄を振りまくものになる、と。
「思いたいよ。アカガネハルキの子どもだという事実に抗って、父の用意した人生に逆らって、己の生き様を貫いていきたいって」
「そうかよ」
吐き捨てた弟の表情は苦しそうだった。それは憐みを含んでいる。
「兄貴も俺も同じ……いずれは晶具に“食われる”」
「例外の一つや二つはあっていいだろう」
「そんな例外を作れるほど、人生が長ければいいな……」
この先が長くないことを二人とも知っている。知った上で兄は抗おうと、弟は願いをかなえようと足掻いている。
二人の身体も命も、晶具に蝕まれて、いつ崩れ落ちてもおかしくないことを二人は知っている。
「なあ、兄貴……」
「遺言なら聞かんぞ」
「俺さ、普通の人間になりたかったな……」
青崎は一瞬だけ驚愕の表情を浮かべた。その声音は、その貌は、弟が兄に初めて見せた心の底からの願いに聞こえたからだ。
「命の価値がこんなに軽くない、殺しのない世界でさ、生き方を決められないでさ、ろくでもない大人に翻弄されないでさ……自由に、俺の責任で、俺の生きたいように、俺の行きたいところに行きたかったな……」
「お前……気付いているんだろう? もうそんな優しい世界はどこにもないんだよ」
「分かってるぜ、そんなことは」
だから、と刀を握る掌に力を込める。
「俺は俺の願いを、今叶えられる願いを叶える。もう戻れないからこそ。もう長くは生きられないからこそ。ロクデナシだけど、ここで生きた証が欲しいんだ」
こんにちは、星見です。
ボーナス下がりましたとほほ。いや、私の勤務成績が悪いのではなくて、です。
さて、そろそろこの物語も終わりです。この年のうちに終わらせたいと思っています。
結婚は諦めかけています(余計な情報)。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




