絶対部活戦線
「ああ、まずな、北海道っていう地方の独自性を理解せなあかんな。あそこは一年中冬なんや。四季がない。こっちはまだ暑いけど、四季あるやろ。あっちは一年中雪が降り続ける永久凍土の地や。こっちと大分勝手が違う。それを最初に頭に叩き込んどけ」
この神戸でも異常気象は度々観測されるが、北海道のそれはとびっきりのものである。何しろ、ある年を境に気温が零度を上回らなくなったのだから。
「知ってると思うけど、北海道はロシア帝国が統治しとる。やけどな、奇妙なことに、ロシアは北海道の統治を日本人に委ねとるんや」
「オヤジ、それは何か裏があるんでしょう」
「やろな、ジン。ワシも同意見や。だが、それが何かいまいちよう分からん。今、そのロシアの代わりに北海道の各地を支配しとるんが、“ブカツコモン”とかいう連中や。それぞれ、野球部やサッカー部、剣道部にバスケ部なんかが各地を統治しとるらしい。どうやって統治しとるのかまでは分からんけど」
「はあ……部活顧問が、ですか」
ジンは呆れ顔だ。それとは対照的に葉村は真剣な表情で神崎の話に耳を傾けている。
「でやな、そいつらは『絶対部活戦線』なる組織を作って、ワシらの依頼人のキタク部を皆殺しにしようとしとるらしい」
「オヤジ……キタク部? って、部活動に入っていない人たちですか?」
「いや、北国開拓部のことや。略してキタク部」
訳が分からないという表情が消えないジンに代わって、葉村が問を投げた。
「依頼の内容はなんですか、おじ様」
「……なんかその呼び方、むず痒いな。まあええか。依頼内容は絶対部活戦線の解体、もうちょい具体的に言うと、キタク部にちょっかい出しとる野球部と剣道部、バレー部の撃退が依頼内容になる」
「ふむふむ」
メモをとる葉村の横でジンは笑いをこらえるのに必死になっていた。何を想像しているのかは分からないではなかったが、葉村はあえてそれを無視して質問を続ける。
「つまり、絶対部活戦線の全てを相手にする必要はない、ということですね?」
「せや。いくらお前らでも、あいつら全部がまとめてかかってきたら、やられてまうしな。それに、目的はまだある」
おそらくはこっちが本命だろう、と葉村は直感した。
「その絶対部活戦線なる組織の中に“剣王”とか呼ばれとる凄腕のあんちゃんがおるそうや。そいつの持つ刀……晶具である可能性が高い。出来るなら味方につけ、最悪でもその刀を奪取せい」
神崎が凄腕と警戒するからにはそれなりの相手なのだろう。それはジンも葉村も同意見だった。
「晶具の一つが北海道に渡っているのなら、まだ他にも晶具がある可能性がありますね」
というジンの意見に
「でしょうね」
と葉村がすかさず返した。
「さすが頭が回るのう。晶具の回収とそれによる戦力増強がでかい目的や。せやないと、こんな依頼受けるかいな」
神崎は満足そうに頷くと、分厚い資料をジンに投げてよこした。
「後はそれを読んどけや。必要な事項はそこに書いとるさかい」
こんばんは、星見です。
北海道編、ついに始まってしまいました。
色々回って各地の情報は仕入れてきたつもりです。
さて、どんな物語が展開されることやら。
それは私にもまだ分かりません。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……