別れの日に送る唄
何十年も降り続けていた雪が止んだ。
雲間からは太陽が顔を出し、少しずつ大地を暖かく照らしている。
輪火内コタンで一人の青年はため息を漏らした。
並みいるロシア兵をたった一人で殲滅し、吹雪の中に佇んでいた巨大な樹を伐採すると、雲間から太陽が顔を出した。
おそらくはこの大樹が晶具だったのだろう、と青崎は推測する。そして、それは間違っていなかった。
竜胆会に調査させた結果得られた情報からすると、輪火内コタンに群生している紫色に光る花々そのものが不可思議な現象を引き起こす原因となっているらしい。剣や銃火器、戦車にミサイルといった晶具は知っているが、花の晶具は彼の知識にはない。
雲間から降りてくるのは暖かい光。
暖かい光を浴びて柔和な表情の彼が一転、剣士のそれになった。
「陽光天刃アマテラス」
青崎は晶具の真名を口にする。この名前を呼んだのは実に数年ぶりだ。それほどの危機感を覚えたからだ。
「いつからそこにいた?」
突如として現れた美しい少女に、鋭い殺気を放ちながら問いかける。並みの兵士程度ならば震えて動けなくなる威圧を、少女は軽く受け流した。
「最初から最後まで、ですよ」
「あれは貴様の晶具か?」
「そうともいえますね」
歯切れの悪い返事だったが、そのことを追求できない。
彼はこの得体の知れない少女に恐怖を感じている。まるで“勝てない”ことが予め決められているような存在だと直感が告げている。
「あなたの弟さんもそうですが、そんなに怖れることはありません。私がしようとしていることはとても単純なことです。戦争のない世界、誰もが幸せに生きることができる世界を作ろうとしているだけなのです。それがアカガネハルキの子どもたちである私たちの命題でしょう?」
「貴様を見ていると、とてもそうは思えない。混沌を生む殺戮兵器の役割を純粋に突き詰めたような、気がする」
「剣士のカンですか?」
「私のカンだ。貴様は、危険すぎる」
「そうですか。そう言われると少し傷つきますね」
少しも傷ついていないという表情で少女は微笑んだ。
「永久凍土をも融かす晶具ですか。父も粋なものを作りましたね」
少女の足元で、紫色に光る花々が咲き始めた。
「そういう貴様の晶具は見た目に反して不気味だ。早々に焼き払いたくなるくらいにはな」
炎を纏った刀が牙を剥く。
「あら怖い。私がこの地ですることはもう終わりましたので、早々に退散します。弟さんとの決着、つけられると良いですね」
「……何をしようとしていた?」
「大樹の様子を観察していました。どの程度育つのか、どの程度……これ以上は喋りすぎですね」
いたずらっぽく微笑むと少女は紫色に光る花とともに空間に溶けるようにその場から消えた。
「殺幌コタンに行くと良いでしょう。そこで運命の相手があなたを待っていますよ」
返事は沈黙だった。
「そんなに怖い顔をなさらないで。嘘なんてつきません。きっと、必ず、そこであなたは気づくはずです。この未来に何が待ち受けているか、私たちがどの未来を選ぶべきなのかを」
少女は別れの言葉を選ぶ。
「さようなら、焔の剣士さん。次にあなたと会うときは、あなたはきっと理想都市にいることでしょう」
中空を舞い遊ぶ紫色の花々とともに少女はそこから霞のように姿を消した。
こんばんは、星見です。
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です!もしよろしければのぞいてみてください。日常の下らないことをつらつらと綴っています。
さて、そろそろこの物語も終わりに近づいてきました。
少女の実験は終わり、残ったものは……
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




