凍った魂
殺幌に到着したジンたちは異様な光景を目にした。
流行り病で苦しむ人々がそこかしこに倒れている。彼らは薬を与えられるでもなく、ユニフォームを着たまま、苦しそうに喘いでいる。おそらくは、野球部の活動中に倒れ、放置されたものだろう。
気温は昼間だというのにマイナス十度を下回っている。寒さに命を奪われるのは明らかだ。
だというのに、誰も彼らを助けない。
老若男女、皆同じユニフォームのままキャッチボールを続けている。彼らの存在など最初からなかったかのように。無表情でひたすら練習を続けている。
「これはこれでエグいな……。死屍累々の一歩手前じゃねえか」
表情を歪ませるジン。
対して、葉村は表情を変えない。彼女は意識的に、努めて冷静でいようとしていた。
「フン、我が野球部の練習についてくることのできん軟弱者には死あるのみ! 我が部が求めるのは、鋼鉄の肉体と金剛石の精神を持つ絶対強者のみ! 貴様ッ! 我が野球部に入部希望する者か?」
メガホンを片手に持った、コーチと思しき男が威圧的に問いかける。彼は北海道で最大勢力を持つ野球部の勧誘を断ることはないと信じ切っていた。
「悪いけど、アホの相手してるほど暇じゃないんだわ。っつーわけで、死ね」
剣を構えたジンを見ると、男はすぐに取り巻きを呼びつけ
「この入部希望者を洗脳しろッ!」
と命じた。
完全に視点の定まっていない野球部員と思しき青年たちは手にバットやグローブを持ち、ジンに殴りかかってくる。
ジンのため息とほぼ同時にオレンジ色の爆炎が彼らを吹き飛ばす。
「葉村、ゴミ掃除頼むわ。ここにいたら腹筋が壊れる。どうせ病院なんて高等な施設はないんだろうし、ここで死にたくないしさ」
葉村は無言で頷く。
それとほぼ同時に、無音で降り注ぐ粉雪を消し飛ばす爆炎が放たれた。
生きていれば希望がある。
諦めなければ何でもできる。
そんな欺瞞はもう飽きた。
一人の青年は諦観を胸に、今日も人を斬る。すべてを凍らせる刀の晶具で。
ただただ、アカガネハルキの手がかりを得るためだけに斬る。
死にたいなんて言うなよ。
諦めないで生きろよ。
そんな言葉は魂が腐り落ちるほど聞いてきた。そして、実際、彼を形作る心は何もかも腐り落ちた。今はただの殺戮兵器としての機能しかない。
ロシア兵の張った弾幕に臆することなく、それを悉く凍らせ、兵たちを次々と斬っていく。
少しずつ、けれど確実に。
蒼く輝く刀身は敵の軍勢を切り崩していく。
悲鳴だけが作り上げる殺戮の協奏曲はまだ始まったばかりだ。いつ終わるかは彼のこだわることではないし、知りたいとも思わない。
だから彼に焦りはない。
北海道本土の北端に作られた、ロシア総督府の建物内を歩き回り、手当たり次第に邪魔者を殺していく。
最上階までたどり着くと、そこには鋼鉄で作られた総督執務室の扉があった。
無言でそれを斬り破る。
彼の目の前には、困惑と恐怖で震える哀れな獲物がいた。
「な、なぜだ……! あの女は、我々を裏切ったのか?」
総督の思しき男が吐く言葉には何の興味もない。
「我々の利害は一致していたはずだ。北海道を自由に行動できる許可も与えたはずだ。共に世界を統べる快楽を得んと誓ったはずだ! それがなぜ……」
「理解する必要はない。疾く……滅べ」
一切の感情を込めず、彼はその刃を振るった。
こんにちは、星見です。
コロナ……まだまだ全然油断できないどころか、数だけみれば拡大していますね。帰省はしますが、必要以上に出かけず実家にこもっていようと思います。
さて、久しぶりに投稿しました。
私は有休を使って明日から夏休み。
楽しく物語を紡いで、この物語を終結まで導ければと思っています。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




