七月の神戸にて
神戸の七月は蒸し暑い。湿気と熱気が二段構えでその地に住む人間たちを苦しめにかかる時期である。
「マジですか」
白の半そでシャツをラフに着こなした少年、黒崎ジンは夏休み前の終業式を終えた後に駆け付けた事務所で盛大にため息をついていた。それは別に夏休みの宿題の量が多いからではない。
「我慢しなさい。仕事でしょ」
それを宥める少女は葉村綾。二人とも、神戸市内の極道組織である竜胆会に育てられている身である。彼女はジンとは違い、彼と同色の半そでシャツに学校指定のネクタイを締め、緑色と紺のチェックスカートをきちんと履いている。
「いや、仕事っつーのは分かるけどよ」
「避暑地に行くのよ。何が嫌なの?」
「これを見て避暑地と言うか? 氷点下十二度だぞ! 今何月だ?」
ジンがいじるスマホの画面には、今日の札幌の最高気温が示されている。マイナスを除けば快適なのにと思うが、現実はそうはいかないようである。
「寒いのは着込めば解決するでしょ? 大体、最高気温百度とかの中で動けるの?」
「死ぬわ!」
突っ込むのも飽きたのか、ジンは事務所の奥にあるソファに堂々と腰かけている男に視線を移した。
「オヤジ、準備が出来たのは分かってますが……」
ジンと対をなす黒のシャツを着て、目の前にあるテーブルに置かれたパソコンの画面を睨んでいる神崎はその鋭い眼光をジンたちに向けた。明らかに厄介事を抱えてしまったという苛立ちが滲み出ている。
「ああ……。なんちゅうかな、もう面倒なことが多すぎて対処しきれんのじゃ」
神崎が弱音を吐くことは珍しい。
「占領軍は大挙して神戸に押し寄せてくるし、組は目を付けられとるし。肝心の軍馬は東京に行ってしもうたし」
それに、と神崎は付け加えた。
「神戸の根本的な問題は解決しとらへん。機械の頭脳が人間に指示して、人間が機械の飼い犬になっとる状況はな」
春に起こった麻薬騒動では、麻薬事件を解決するにとどまり、その機械を破壊するまでは至らなかった。神戸を取り戻すための、竜胆会の当面の目標はその機械を潰すことである。
さりとて、ジンと綾を抜いた戦力で、占領軍の大部隊を叩きのめして標的を消すことが出来るかといえば疑問である。いや、ジンと綾がいたとしても、難しいかもしれない。要するにもっと戦力が必要なのである。
ならばと神崎は北海道からわざわざ竜胆会にやってきた依頼を利用して、その戦力を集めようと考えた。もっとも、これは賭けである。神戸にある竜胆会本部が潰されればそれまでだ。
「ま、愚痴ったってしゃあないわ。ほんなら、仕事の話を始めようか」
こんばんは、星見です。
長らく更新をほったらかしていてすみません。
繁忙期もそろそろ終わりそうです。
色々な忙しさももうすぐなくなるので、執筆に時間をかけたいと思います。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……