凶兆の花
青崎と名乗った青年はその後、ジンの手当てをし、何事もなかったかのように家で食卓を囲んでいた。
鹿肉をバターで焼いた料理ととうもろこしの缶詰というメニューだが、葉村は物珍しいのか、それを懸命に口に運んでいる。
対して、ジンはというと、その料理を眺めるばかりだ。
「どうしました? 食欲がわきませんか?」
「目の前で殺し合いをした相手がいて、食欲がわく奴がいると思うか?」
「はは、それもそうですね」
黒いストレートの髪を掻き上げて苦笑いする青崎。その様子を見ると、屈託のないどこにでもいる青年だ。
「晶具を扱う人間がいる、と確認できただけで私にとっては充分です。そこの彼女も晶具を使うのでしょう? 大きな戦力が確保できたとなれば、ますます心強い」
「何だよ、テメエ。俺たち竜胆会を利用するつもりか?」
「利用も何も、契約を結んだのですし? 仕事はきっちりしていただかないと。極道の名が泣きますよ」
「テメエも極道やれよ。ポン刀振り回してるし、よっぽど向いてるぜ」
「まあまあ、余裕があれば考えてみましょう。さて、彼女の食事も済んだようですし、本題に入りましょうか?」
大きな鹿肉を飲み込んだ葉村は青崎に目を向けた。ジンと刃を交えたとは思えないほど涼しげに微笑む彼は得体のしれない相手に思える。
「絶対部活戦線の迎撃だけをあなた方竜胆会にお願いするつもりではありません。まあ、これは表向きの理由ですね。もう一つのお願いがあるのです」
青年の貌から笑みが消えていく。
「なぜ、北海道には四季がないと思いますか?」
「ンなこと知るか。異常気象のせいだろうが?」
「異常気象には違いありません。ですが、その原因となるものを突き止めました」
一呼吸置く。一瞬の静謐はその場を凍らせるのに十分だった。
「紫色の光を放つ不思議な花。それらが、この永久凍土の大地で確認されています。この凍土では花など咲けるはずがない。直感的で申し訳ありませんが、お二人にはこの不可思議な花の調査も依頼したい」
「調査っつっても、何すりゃいいんだよ。まさか全部伐採しろとか言わねえよな?」
「もちろんです。調査する場所は殺幌コタン中心部のススキノ、宗谷管内にある輪火内コタン、異鰤管内の都馬独楽井コタン。この三つで構いません。後の場所はしらみつぶしにこちらで調査しておきます」
「ちょっと待て、殺幌から輪火内までどれくらいの距離があるのか分かって言っているのか? この凍土の中を徒歩行軍なんぞしたら仕事をする前にお陀仏だぜ」
「もちろんです。ですから、皆さんには手っ取り早く各地のブカツコモンたちを暗殺してもらいます」
「笑顔で物騒なこと言いやがるな。まあいいぜ。どのみち、邪魔するブカツコモンどもは皆殺しの予定だったしな。葉村、いいよな?」
葉村は無言で頷く。一度、ブカツコモンを撃退したことで、二人は絶対部活戦線のターゲットになったと思って間違いない。
「具体的な調査方法は後ほど。とりあえず、皆さんには異鰤の都馬独楽井コタンの制圧をお願いします。空手部が統治していますが、それほど強くないので、お二人が手こずることはないでしょう」
「引き受けた。んで、テメエはどうすんだよ?」
「私はこの刀一本あれば充分。千軍にも匹敵する晶具ですから」
青崎の顔に不安の感情は一切ない。
本当に一人で一つのコタンを制圧するつもりなのだとジンは思った。
こんばんは、星見です。
どうも冬になると行動力が落ちるようです。すみません。
さてさて、前回での伏線、あの花が出てきましたね。ということは……。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




