プロローグ
こんばんは、星見です。
この物語は拙作、虚ろな境界【汚染都市編】の続編となっております。
キーワードなど前作をお読みいただいた方が良いものがありますが、なるべく今作からでも入っていただけるよう留意いたします。
今回の舞台は北海道。
どのような物語が展開されるかお楽しみいただけると幸いでございます。
周りは白く彩られていた。それは人の生命すらも吸い込むように魅惑的で、すべてのものを等しく葬るような冷たい白だった。
音もなく降り積もる雪の中で、彼はただ刀を振っている。
コートを羽織ることもなく、一心不乱に刀を振り続けている。
そこに響くは風の音。
彼の吐息はしんしんと降り続ける雪に吸い込まれ、あまりに鋭い一振り一振のり音でさえもまた、白い大地に吸い込まれていく。
彼が居るは死の大地。
かつての豊かな大地は滅び去り、ただただ強者のみが生き残る世界となり果てた。この地に春が来ることはなく、永久の冬を繰り返す。
そんな過酷な凍土で彼は刀を振り続けた。ある日もある日も、何かに取り憑かれたかのように刀を振り続けた。
刀は彼の身体の一部となり、彼は刀を理解するようになった。
刀とともに歩み続けて幾星霜。
彼は一流以上の剣士となったが、刀を振るっている時以外は、常に虚無感に苛まれていた。名誉も、財産も彼のそれを埋めることはできなかった。ただ、刀を抜き、彼を狙う敵と対峙している時こそが至福の時間。
生と死の間で、己の存在証明をその刀に乗せる。
空間を穿つ閃光の軌跡。
希望を絶つ凄絶な斬撃。
どんな例えを用いても、彼の剣技の冴えを示すことは難しい。何せ、彼のそれは既に人の身でなせる技を超えていたのだから。
それでも彼は刀を振り続ける。
別にもっと強くなろうとか、もっと人を斬りたいと思ったわけではない。
単に、彼は刀と共に人生を歩みたかったのだ。そうすれば、常に死と隣り合わせのスリルを味わうことができる。
彼はもう一人の人間としては壊れていた。
ただ一人の剣士としてしか生きることができない。
刀を通してしか、生きていることを実感できない。
とうとうと雪は降り積もっていく。人を死に誘う雪を見ながら、彼は刀を振るい続ける。常人が見ていたら恐怖しているであろう太刀筋を見ているのは白銀の大地しかいない。
「ああ、そろそろ夜か」
雲間からかすかに顔をのぞかせた月が彼を照らす。
「行くとするか」
そう独り言ちると彼はその場から姿を消した。
こんばんは、星見です。
現在実家帰省中です。明日、明後日と法事を済ませて仕事に戻りたいと思います。
さて、北海道編開幕です。
ただ暗い物語にするつもりは毛頭なく、カッコいいキャラを作りたいなという願いから始まった今作。もちろん可愛い女の子も描きたいのですが。え? 葉村ちゃんがいる? まあそうですね。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……