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竜の住まう谷 ロベリア譚  作者: 訪う者
そうして、私はかの地へ誘われる。
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洞窟の中で

ここに来て、初めて立ち上がったあの日、私は結局3歩ほど歩いたあと根をあげてしまった。洞窟の中にはおおよそ不釣り合いな、木で出来た椅子に座らせて貰った。

目の前には、テーブルともう3つの椅子。ここでは彼以外の人を見ていないけれど、椅子があるということは他にも人が居るのかもしれない。彼がまだ土のついた野菜を持っていたということは外には畑もあるようだし、1人の方が返って不自然だろう

洞窟で暮らす部族の話を聞いたことがあるから、もしかしたら集落なのかもしれないなと思っていた。


けれどあの日から10日ほどたち、もうすっかり元気になったにも関わらず、一向に彼以外の人に出会う気配はない。いつもは、気になって尋ねてもあのやんわりとした笑顔と美味しい食事に流されてしまうが、今日こそは問い詰めようと心に決めた。


なにより、そろそろ外に出たい。危ないから、とあれからもこの洞窟からは出てはいけないと言われている。だが、私は元来外で遊びたい派なのだ。元気になってきた身体は有り余るエネルギーの矛先を求めていた。


「お待たせ、朝ごはんにしようね」


ぐるぐると思考を巡らせていると、いつの間にか、彼がすぐ側に立っていた。

テーブルの上には、いつものように朝食が並んでいた。卵で獣の肉をとじて焼いたものに野菜たっぷりのスープ、採れたての果物。そして、パン。

パン・・・パンは流石に1人では作れないのでは・・・?


「ねぇ・・・このパンなんだけど」

「そうだ!まだ自己紹介もしていなかったね!名前を呼んでもらえないなと思っていたのだけれど、教えていなかったことに気づいたんだ。」


何を聞かれるのかを察したのか、わざとらしく、話の腰を折る彼に小さくため息をこぼしながらも彼の顔を見つめる。たしかに名前も気になってはいたので、まあいいかと笑みを浮かべる彼の自己紹介に耳を傾ける。


「僕の名前はバレリアンだよ。いまはここで過ごしている。君の名前を教えて欲しいな」

「・・・・・・ロベリア、この谷がある森から西にある村に住んでたの。助けてくれてありがとう。」

「ロベリア!あぁ、ようやく名前が聞けてうれしいよ。

とても可愛らしい名前だね、君にぴったりだ。」


ただでも笑顔なのに、いつも以上にデレっとした笑顔に思わず笑ってしまう。

大袈裟とも言える褒め方に不快感を感じないのは、彼が本当に可愛らしい花でも愛でるかの様に顔を綻ばせているからだろうか。


「あなた・・・バレリアンは、いつも笑顔だね。そのうちほっぺが落ちちゃいそう」

「そうかなぁ?きっとロベリアが来てからだよ!毎日、ロベリアの顔が見られてうれしいんだ」


あまりにも嬉しそうに言うものだから、返ってこちらが恥ずかしくなってしまい、変なの!と悪態をついて朝ごはんに手を付けた。

しかし、彼・・・バレリアンはそんな悪態など聞こえていないかのようにニコニコとこちらを見つめてくる。なんだかくすぐったい。


けれども、いい加減に疑問は解消しなくてはと思いバレリアンに問い掛ける。


「ねぇ、バレリアン?ここにはあなた以外の人はいるの?」

「いるよ。ロベリア、君がね!」

「その言い方は、他にはいないってことね」

「・・・僕だけじゃ、不満かな?」

「そうじゃなくて・・・じゃあ、このパンは?バレリアンが作ったの?」

「いいや、僕にはパンは作れないよ。

それは十日に一度ほどこの谷を通る行商人から日持ちするものをいくつか買うんだよ」


つまり、彼の言い分では彼はここに1人で住んでいて、必要なものはその行商人から買っているということなのだろう。

こんな所で、ひとりで?いつから?そもそも、こんな谷底の洞窟に行商人が商いに来るの?疑問は尽きないけれど、今の私にとって重要なのはそこでは無い。



「ねぇ、バレリアン・・・?」

「なんだい、ロベリア」

「私、この洞窟の外が見てみたいわ」


バレリアンの笑顔が固まった。椅子とテーブル、それから寝床しかないここでは、この数日彼以外に特に観察するものもない日々だった。そのおかげか、いつも笑顔の彼の表情も少しは読み取れるようになってきた。

この顔はココ最近よく見る顔だ。私が、何かを尋ねるとこの顔をすることが多くなった。


うーん、と困ったように小首を傾げて、何かを思案するバレリアンに、もう一押しと言わんばかりに言葉を重ねる。


「採れたての野菜や果物、いつもとても美味しいと思ってたの。きっと近くに畑があるのよね?私、畑の手伝いならきっと上手くやれるわ!」

「そうだね、君はとても上手そうだ」


「でしょう?それに、身体の調子も戻ってきたのにいつまでもこんな所にいたら、かえって悪くなりそうだわ!」

「そうだね、そろそろ運動してもいい頃かもしれない。畑仕事は慣れているだろうし、全身を使うからね・・・あそこなら、僕もついていられるし・・・」


うーん、とバレリアンは傾げていた首を、更に深く傾ける。

ここだ!と言わんばかりに、ロベリアは両手をテーブルに叩きつけてバレリアンの方へと身を乗り出す。


「おねがい!バレリアン!」

「うーん・・・わかった、朝食をきちんと食べてから一緒に畑へ行こうか。ただ今日は行くだけのつもりだよ。日光の下を歩くのは久しぶりだからね、無理はいけないよ。」

「ありがとう!よくよく気をつけるわ!」


彼が、渋々といった体で何かを許可してくれるのは初めてだった。なんだか少し仲良くなれたようで嬉しかった。いつも通り朝食は美味しいし、今日の果物プラムはとてもみずみずしかった。


だからだろうか、彼の言葉の意味をあまり深く考えていなかった。

遠くで聴こえる、雨音にも似た水の音が、少し大きく聞こえた気がした。

洞窟内での2週間ほどの生活・・・

私なら嫌ですね、ゲジゲジとかでそう。

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