その雪の中で
白い雪が降り続く。
暗雲の広がった空は、月の光すら届けてはくれない。
私は引き寄せられる様に、横たわる紅い竜の前に立ち尽くす。
遠い昔、この辺りがまだ戦場だった頃、水竜と共に戦場を駆けた少女―――ロベリア。
悲劇の幕開けとなった彼女と、狂ってしまった悲しき竜。
そのどちらをもの死をもって、長い時を越えて今ようやく、彼らの物語は終わった。
2人の死の場所に、遺体はなく、今はそこにもうっすらと雪が積もり始めている。
キラリと何かが光った。
私はそれをよく見ようとして、その場所へ近づいた。
若葉色の竜の鱗が、舞い降りる雪の中でキラキラと輝いていた。私はそれを拾いあげようとして、触れられない事に気づいた。
困ったな、と周囲を見回して、紅い竜の身体を見つめる。
バレリアンを通して循環した彼女の魔力を元に私は生まれてきたのかもしれない。それなら、私がこの身体を借りてもそれは、ただ根源へ還るだけなのだろうか。
はぁ・・・
思わず大きなため息が零れ落ちる。
「どうしよう・・・」
「どうしたいの?」
彼の声が聞こえた気がして振り返る。けれど、居るはずもない。私は彼らのいた場所を見つめ、もう一度大きくため息を吐く。
弔わなければならないと思った。
恨み言ならいくらでも出てくるし、いまいちこの流れは腑に落ちない。人を巻き込んでおきながら、2人仲良く死んでしまうなんて・・・けれど、2人はきっとそれで良かったのだとも思う。
私は、そっと紅い竜に触れた。
「あぁ、懐かしい。」
その肉に溶け込む様に、奥へ奥へと意識が沈み込む。
けれど不快感はない。懐かしくて、思わず涙が零れた。
静かに眼を開く。
これまで見てきた世界よりも、より多くの事柄がこの眼を通すと見える。彼らのいた場所を見つめる。そこにはうっすらとよく知った魔力が残っていた。
私ではやり方がわからない。
南の白銀の竜と同じところへ巡れるように、今度は彼女と離れ離れにならないように、弔わなければ。
私はまだ使い慣れない身体で、若葉色の鱗を掴もうとする。
頭をもたげ、口と舌を使い優しく拾いあげる。前は気づかなかったけれど、魔力の帯が南西の方向に向かって伸びている。
アレクトラはきっと、その方角に居るのだろう。
その帯を手繰り寄せるように、アレクトラの居るであろう方角に向かって、言葉にならない気持ちを吼えた。




