洞窟の中で
「いやだ!離して!お願いっっ」
よく知った大人たちの顔をした何かが後ろから追い掛けてきて、私を絡めとる。逃げようともがくけれど、人の様だったハズのそれは黒くドロドロとした何かになって、私にまとわりついて離れない。
もがいて、もがいて、ようやく抜け出せたと思うと、そこに彼が立っていて私は縋りつこうと手を伸ばす。
すると彼はその手に足を踏み下ろすと、笑顔でこう言った。
「ウツシミ」
途端、離れていたハズの黒くてドロドロとした何かが後ろから私を飲み込む。
呆然としているとやがて、黒い塊の中から放り出された。私は儀式の為の煌びやかな衣装に身を包んでいた。そうして、開けた眼前は崖。
黒い何かが後ろから呪いを吐きつける。
「仕方がないんだよ」
「代わりに死んで」
「うちの子じゃなくてよかった」
「早く落ちろよ」
「可哀想に」
「はやく死ねよ」
「おちろ」
「死ね」
「おちろ」
「「「「死ね」」」」
ドンッと背中を押され、崖へと滑り落ちていく身体がゆっくりと振り返りながら背中を押した誰かを見つける。
(お父さん・・・お母さん・・・)
バッと目が覚めて、起き上がる。首筋を伝う冷や汗が気持ち悪い。浅く繰り返す呼吸が早いせいか、いきなり起き上がったからか、クラクラと目眩がする。
パタリと再び寝床に倒れる。なんて嫌な夢なのだろう。
原因はわかっているのだ、秋口にアレクトラに言われた言葉。
そして、行商人たちと過ごした2日ほどの時間は私に昔を思い出させるには十分すぎた。
自分の手の甲でまぶたを覆い隠すと、静かに息を吐いた。
もう3週間はこの夢を見続けている。
初めの10日ほどは、嫌な気持ちだけで夢の内容まで覚えていなかったが、日に日に鮮明になりより長くなっていく夢。
手の甲を退けて、まぶたを開けるとそこにはいつの間にかバレリアンがいた。突然のことにドキリとして、思わず寝たまま後ずさりそうになる。
「ねぇ、ロベリア・・・」
バレリアンの崩れないいつもの笑顔が、何故か今は怖かった。
「夢見が悪いの?」
「・・・・・・え、えぇ・・・」
少しの沈黙のあと、ようやくそれだけ応える。
するとバレリアンは少し悩んだような素振りのあと、ひとつの提案をしてきた。




