繰り返される夜 1
太陽が隠れ月が顔を出し、窓から吹く風もだいぶ涼しくなってきた。
7年目の夏は、いつもより暑い気がした。
隣で眠る娘の寝顔は、少し汗をかいている。
楽しい夢を見ているのであろう、少し頬の緩んでいる娘の髪を撫でた。
私によく似たプラチナブロンドの髪は月明かりの下でキラキラと輝いている。
最近では寝る前にお話をねだって、寝付かないことも減ってきた。お母さんお母さんと、足元で忙しなく私を呼んだ娘も、今では毎日友だちと外を駆けずり回り、立派に家の手伝いをしてくれるまでになった。
喜ばしいはずの娘の成長を素直に喜べない。
目尻に滲む涙を、ぐっと堪えて、目に焼き付けるかのように娘を見つめて過ごす。
いつもの事だった。
ギィィと、小さな音を立てて寝室のドアが開く。夫の両親のそのまた親の代から使っているこの家はもう古くなってきていて、ドアを開けるだけでも音を立てずに、というのは難しい。
開いたドアの隙間から、少し悲しそうな顔した夫が顔をのぞかせる。
すぐに行くわ、と伝え、もう一度自分の隣の愛おしい温もりを見つめる。
額に小さくキスを落とし、ベットを後にした。
ランプの灯りで、部屋の中は十分に明るかった。娘を起こさないようゆっくりとドアを閉め、部屋の中央へ振り返ると椅子に腰掛ける夫と目が合った。
「お待たせ」
「いや・・・ロベリアは?」
「よく眠ってるわ」
「・・・そうか」
特に会話がある訳では無い。仲は悪くないはずだが、娘のことについてになると、私たちの間には会話らしい会話はなくなってしまう。
なぜ結婚前に言わなかったのかとか、娘を連れて村を出ていこうだとか、どうしてこうなってしまうのかなどという、声を荒らげるようなやり取りは、もう、やり尽くしてしまった。
降り立った沈黙に耐えかねたのか、夫は立ち上がり棚に飾ってあった写真を手に取った。
娘が5才になった誕生日に、王都で撮影してもらった写真だ。その日はとても暑い夏の日でロベリアが駄々をこねて大変だった。
「もうすぐ、7才の誕生日だ」
写真を持つ夫の手が震えている。かける言葉を見つけられない自分がいた。
村のしきたり、そんなのは夫の方がよくよく分かっていたはずなのに、という怒りは言葉にならずに涙に変わった。おかげで夫の姿もすぐに滲んで、その表情を見なくて済んだ。もう幾度目かの涙が溢れた。
この世界には、たくさんの生き物がいる。
その生き物の頂点、竜。
この世界に溢れる魔力の源とも言われ、言葉を理解し、世界の理を支えている。
この国は、竜を信仰している。
王都を護る赤い竜、北の山脈を護る白い竜。
そして、この村の東。広大な森に覆われた、深き谷には竜が住まうという。
昔この村には竜が住んでおり、たくさんの敵から村を護っていたと
しかし、多くの戦いで疲れきってしまった龍は、深き谷と森を作ると、谷底へと隠れてしまった。
そんな他愛ない御伽噺。
だがこの村には、いつからか7年ごとにその年が来るようになった。
決められた年に生まれた女の子
1番魔力の強い子。