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竜の住まう谷 ロベリア譚  作者: 訪う者
秘密基地は見つからない
18/28

洞窟の中で

ロベリアちゃんは、服を手に入れられるのかっ?!

ふと目が覚めると、いつもより少し遅い時間だった。とはいえ、時計なんてものは無いので、あくまで体感なのだが。

身体に染み込んだ魔力のおかげなのか昨晩はずっと快適な温度ですぐに眠りについてしまったし、寒くて目覚めることもなかった。


改めて、その凄さに感動を覚えながら起き上がると、寝床を整え、小さめの布と髪留めをもって洞窟の奥に湧き出る水の元へ向かう。

上から小さな滝のように水がこぼれ落ち、そのままそれは床の石にポッカリと空いた穴から下へと滑り落ちていく。

流れも穏やかで、洞窟内にあるため、洗顔や手洗い、身体を拭く時はここの水を使っている。


持ってきたタオルを足の間に挟み込み、同じく持ってきていた髪留めで長く伸びた髪の毛を後ろに結ぶ。そして、流れ落ちる水を手で掬い顔を洗う。

とてつもなく冷たい。よく目が覚めていいのだが、真冬はこの辺りも雪が積もる、少し厳しいかもしれないなと考えながらほぼ自動的に朝の支度を済ませる。

顔を洗い拭きおわると、髪の毛をきちんと結び直す。そうして、彼がここに顔を出さないうちに岩の隅で服を着替えるのだ。


私がいつも寝巻きとして着ている、白を基調とした伝統的な服は青い糸で花の刺繍をいくつも入っているのを気に入っているし、いま着替えている深紅の服も柔らかい生地で動きやすくとても気に入っている。

けれど、この2着をローテーションというのは、毎日洗っていても微妙な気分なので、もう1、2着あって選ぶ余地が欲しいのが本音である。

そこは、少し女の子らしく振る舞いたい年頃なのだ。と誰に向かってか必死に説明をしたあと、1人で少し笑ってしまった。


(かわいい服が着たいなんて、呑気なものね)


自分で自分に呆れながら、朝の身支度を整えてバレリアンを呼びに行く。

いつもいる、この洞窟の中は大まかに3つにわかれていて、滝の入り口から入ってすぐのここがまず1つ目。私はここで寝起きするし、食事もここでとる。雨の日なんかはひたすらここで、時間を潰している。

入って右手前にある横穴の中が、石造りの台所になっている。ここが2つ目。

とは言っても、要は石造りの調理台と調理に使う包丁などが置いてあり、食料や木のお椀などが置いてあるスペースなだけである。

実際火を使う時は、1つ目の部屋で焚き火の元へ鍋を持っていくので、ほぼほぼ食料庫である。


残るひとつは左奥にある、小さな部屋。そこは、いくつかの風穴があいていて乾いた空気がどこからか入ってくるため、薪や行商人と交換する剥いだ動物の皮などをおいてある。


けれど、彼はこの3つのどこでも寝ない。

きっと彼はこの崖の上の湖を寝床にしているのだろう。朝から上まで行くのは正直面倒であるし、どうせもう彼は目覚めていてそこにはいないのだ。

2つ目の部屋を覗くとそこにはやはり彼がいた。


「おはよう、バレリアン。」


「おはようロベリア。いい朝だね。」


彼はもう朝食の用意を終えていて、ちょうどこれからテーブルへ運ぶのに、料理の入ったお皿を乗せた、大きめの平らな木の板を持って振り返った。

今朝はパンとサラダ、それからトマトと干し肉のスープのようだ。バレリアンの作る料理はどれも美味しい。

そのお盆替わりの木板を受け取り、代わりに運ぶとバレリアンは、やはり彼お手製のハーブティーの入った陶器の入れ物とコップを持って後ろをついてくる。


木のお椀は彼が作ったそうだが、ここにある多くのものは行商人の手によってもたらされたものだ。

なので、あまり統一感はなく、テーブルの上にはチグハグな器が並ぶ。


「今朝も美味しそうね。」


「パン以外はおかわりもあるよ。」


「パンがなくなったということは、そろそろ行商人のくる頃合って事よね?」


「そうだね、今日辺り来るんじゃないかな?」


「楽しみだわ!」


ここへ来て、バレリアン以外の誰かに会うことはなかった。だからこそ、服のことを除いても少しワクワクもしていることをきっとバレリアンはお見通しなのだろう。そうだね、といつものように笑うと、ハーブティーをコップに注ぎ席につく。


「神よ、今日を生きる糧を与えてくださることに感謝致します。」


食前の祈りは、手短にすませ料理を食べ始める。やはり、美味しい。

パンがいささか時間の経過で硬くなってはいるものの、スープにつけて食べればその感触もなかなかのものだし、そのスープは甘くて酸っぱいトマトと干し肉の旨みが混ざりあっていてとても美味しい。サラダも、やはり自分が毎日世話しているだけあって文句のつけようもない。

至福のひとときを過ごし、ハーブティーで食休みをしながらバレリアンと談笑を楽しむ。大概は、日常生活の中で疑問に思ったことを私が尋ねると、バレリアンがそれに纏わる多くの事を話してくれる。

今日はなぜ、秋の訪れが葉を紅くするのかについてきいていた。話は逸れて逸れて気づけば、近くに住む狐と狼の群れの話にまで広がった。

そうして、いつもならもうとっくに畑に出ている時間になった頃、それは訪れた。


どこからともなく吹き荒れる風が、洞窟の中の空気をかき乱す。

それは、私たちのすぐ側で小さな竜巻になりやがて消え、その後には小さな女の子が立っていた。年の頃にして10歳ほどだろうか。翡翠のような髪の毛は肩口で切りそろえられており、身にまとった服は正直大事なところがギリギリ隠れている程度のものだった。

なにより、異様だったのはその背中から生える翼。見覚えのあるそれは、片翼だけで彼女自身の大きさほどあり、彼女が何者なのかを視覚へダイレクトに伝えてくる。


「なんじゃ、お主また人間を囲うておるのかえ」


随分と古めかしい喋り方だ。やはり、普通の人間ではなさそうである。

そんな視線を察してか、彼女はロベリアを見上げるとハッと鼻で笑った。


「あぁ、アレの()()()()か。こりんな、お主も。」


「アレクトラ、君には関係ないよ。余計な事は言わないで。」


「ふんっ。高々300年ほどのちんちくりんが偉そうに。」


「アレクトラ、君の一族は?」


「いつもの場所じゃ。見当たらんで、妾が様子を見に来たのよ。」


「そう。じゃあ、行こうかロベリア。」


明らかな剣呑な雰囲気に言葉を失っていたロベリアを、バレリアンが促す。彼女は、促されるままに通い慣れた畑までの道を辿る。

2人で歩く道すがら、彼女は尋ねる。


()()()()ってなに?」


「あぁ、その・・・彼女には似ているように、見えたんじゃないかな?」


ロベリアの問いかけに、彼は先を歩きながら応える。その声色からは彼の心の内は見えない。

それ以降言葉を発することなく、後ろを続くロベリアの横顔はどことなく暗く見えた。

そんなロベリアを察してかバレリアンは、話を続ける。


「さっきの彼女、驚いただろうけれど・・・彼女は風竜のアレクトラ。ずっと昔から旅人や行商人に加護を与えながら流れるままに生きているらしい。彼女も古き竜の1つで、年齢は聞いたら殺されそうだから聞いたことは無いんだけど、僕よりもずっと長く生きているらしい。」


「それで、たまたま彼女はここを通る行商人の加護をしていて・・・というか、竜の加護を受けていたからこんな場所を通る事が出来たんだね。この川沿いを通れば北の土地まで楽に、それでいて早く辿り着けるからね。」


「彼らはとても大きな商家で、だから定期的に、それでいて頻繁にここを通っている。アレクトラの件があったから、僕相手にも商ってくれてとても助かっているんだ。」


話しながら辿り着いた先は、畑の脇の階段を降りた川辺。

そこにはたくさんの馬車と人間が集まっていた。馬に水を飲ませ、餌をやる者。荷物と馬車の数を確認する者。昼食の準備をする者。仮眠を取りに馬車へ潜り込む者。

20人ほどのその行商人たちは、どちらかと言えば商隊と呼ぶ方が正しいのかもしれない。


階段を降り切ると、背の高い筋肉質な男が近づいてきてバレリアンに話しかける。


「お久しぶりです。変わりませんな。」


「君は随分と厳つくなったね。旅は厳しいかい。」


「お陰様で、厳しくともやっていけてます。

商会の方へお手紙を頂いていたとか。早馬で連絡を受けたのがちょうど1つ南の街でしたので、女性用の冬服も沢山ありますよ。」


「それは助かるよ。相変わず仕事が優秀だね」


その体躯と顔に見あった野太い声で、けれども思っていたよりも丁寧な話し方をするその相手に少し安心していると、彼の視線がこちらを向いた。


「可愛らしいお嬢さんですね。挨拶をしても大丈夫でしょうか?」


「あぁ、そうだね。紹介するよ、ロベリアだ。

今日は彼女の服と、いつも通りパンや日用品を頼むよ。」


さあ、と促されるまま、バレリアンの後ろに隠れるように立っていたのを1歩前出て横に立つと、その熊のような男に挨拶をする。

「ロベリアです。今日はよろしくお願いします。」


いつものように振舞ったつもりだけれど、少し声が震えていたかも知れない。けれども、村1番の大きさのおじさんだってこんなには大きくなかった。筋肉ではち切れそうな二の腕なんて、私の3倍はあるのではないだろうか。普通に怖い。

そんな心配を察してか、その熊のような男は屈みこみ目線を合わせると手を差し出しながら言った。


「俺は、グラディオです。この商隊の隊長をやっています。これからも時々ここを通りお会いすることもあるかと思います。どうぞ、よろしく。」


差し出された手が、握手を意味しているのだと察し、おずおずと手を出しそっと握る。その手はやはりゴツゴツとしていてとても熱く、とても同じ手だとは思えない。グラディオと名乗ったその男は、思っていたよりも柔らかく微笑み、優しく手を握り返した。

やがて、その手が離れるのを見守ってから、バレリアンが頭上から話し掛ける。


「さあ、ロベリア。僕はグラディオと少し話をするから、服を見ておいで。」


「お嬢さん、あそこにいる。空色の服を着て髪を結っているお姉さん、名前をマキナと言うんだが、彼女が知っているから、聞いてきてごらん。」


と、ここから3台ほど奥にある馬車の馬に水を飲ませながらブラッシングしている女性を指さした。私は、バレリアンとグラディオにわかった。と伝えると言われるがままに、その女性の元へと足を進めた。



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