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竜の住まう谷 ロベリア譚  作者: 訪う者
秘密基地は見つからない
17/28

洞窟の中で

季節は移り変わりゆく。

深緑は少しずつ紅へと変わりだす。

少しずつ、日の落ちるのがはやくなり、身体をなぞる朝晩の風が冷たくなってきたこの頃、彼女は1人憂うのだった。

畑から見える森には深緑をたたえる木々に紛れて、黄色や紅い色が交じるようになってきた。

村ではこの時期になると、冬を越す準備を始める。男たちは狩に出かけ、獣の皮で冬を越すための羽織作る。女たちは森に入り、薬草や木の実を集め、肉を燻製したり魚や果物を干物にする。

子供たちもそれぞれに、家の修理を手伝ったり、作業の簡単な部分へ混ざったりする。


6才の頃のロベリアは、木の実や魚を取っては保存の効く様に作業する女たちの元へと運び、多くを手伝ったものだった。幸せな記憶の1つ。


問題は、この洞窟でどうやって冬を越すつもりなのかということだ。流れのある滝や川は凍らないかもしれないが、洞窟の中は冷えるだろうし、私はバレリアンがどこからか持ってきた夏服の2着しか持っていない。

竜であるあの男は、きっと冬など簡単に越えてしまうだろう。もしかしたら竜も冬眠するのかも知れない。けれど、私はそうはいかない。


風が身体の上を滑り、ぶるっと身震いをした。さすがに半袖はもう夕方になると肌寒い。今日こそ彼に聞かなくてわ。





「はい、どうぞ。」


今日のメニューはうさぎ肉と野菜のクリーム煮だった。畑で冷えていた身体が芯から温まる。1度暖まってしまうと、尚のこと衣服のことが心配で彼に打ち明けることにした。


「ねぇ、バレリアン。」


私の問いかけに、彼は手を止め、いつもの笑顔で応える。


「どうしたんだい、ロベリア。」


私も彼にならい1度手を止めると、話を切り出した。


「あのね、私の着ている服は、あなたの選んできてくれたこの服ともう1着だけでしょう?」


「そうだね。あ、えっと・・・もしかして気に入ってなかった?」


バレリアンの眉が申し訳なさそうに歪む。慌ててそれを否定するとことの次第を説明した。私にはそろそろ半袖は寒いのだと、なにか羽織るものは必要だし、越冬に向けて蓄えは要らないのか、と。


すると、バレリアンは神妙な面持ちで頷きながら、小首を傾げ考え事をした。

そうして、合点がいったように言う。


「そうか、では冬用の服を用意しなくてはね。

食料は心配しなくてもいいよ、備えてあるから。」


もし、竜に寒暖の差が理解出来なかったらどうしようかと思ったが、そんな心配は杞憂に終わり安心する。凍え死ぬのは勘弁である。


「わかったわ、バレリアン。

それで・・・いつもの行商人は衣類は持ち歩いてないのかしら?」


「それも、元々はあの行商人が持ってきたものだからね、持っていると思うよ。

ちょうど、明日明後日にはまた1度通る頃だろうから、聞いてみよう。」


バレリアンの提案に、私は頷く。まだ会ったことのない、行商人。以前の話などと合わせて聞く限り、この谷間を通り道にしているようだが、まだ1度もあったことは無い。

たしかに、1度降りてしまえば、ここは山賊も人間を襲うような猛獣もいないし、穏やかで綺麗な川は旅のあいだ重宝するだろう。けれど、上から覗いた時に辛うじて視認できるのは、切り立った崖その谷底に川が流れていることくらいのものだ。よく降りる気になったものだ。

しかも、竜相手に商っているのだ。真実を知ればきっと行商人は卒倒ものだ。


「彼が来たら、声を掛けるよ!

それまではしばらく、僕の魔力を纏っていてね。」


そう言って、バレリアンがうさぎ肉と野菜のクリーム煮の入った木のお椀を1度テーブルへ置くと、その手をそのまま私の額へ押し当てた。

手のひらから水がこぼれ落ちると、滴りながら私の体を包んでいく。確かに触れられて水であるのに、体は濡れていないし意志を持ってスルスルと私の体を包み込んでいく。やがて、私の体にフィットしたかと思うと、すぅっと私に染み込むようにして消えた。


「いまのは、なぁに?」


「魔力で作ったお洋服みたいなものかな?

ここは暖かいから分かりづらいかもしれないけれど、外気とのクッションになるから寒くなくなったはずだよ。」


「便利なのね・・・」


「うーん、まあそうなのかな?」


ポカーンとしながらあっちこっち自分の体を確認する私を見て、バレリアンはふふっと笑った。

なんだか恥ずかしくなって、その動きは止めたけれど、なんだか気になってしょうがないのだ。違和感は全くない、全くないのだけれど、日常生活を送っているとあまり魔法の類は目にしないのでどうなっているのか気になってしまうのだ。


「ありがとう!これで、明日も1日外で遊べるわ」


「程々にね」


2人はもう一度、お椀を手に取り、暖かい食事を再開する。洞窟の中には、赤い薪の炎が揺らめき、談笑の声が静かに響いていた。



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