洞窟の中で
その日は、まだまだ暑くて、朝早くから畑に出たもののダラダラと流れる汗が鬱陶しくて、作業があまり進んでいなかった。
最近では、畑仕事の多くはロベリアの仕事になっている。
代わりに、バレリアンは午前中、朝ごはんを共に食べたあとフラっと出掛け、昼前にはうさぎや鹿などを狩って帰ってくるようになっていた。
今日も例に漏れず、バレリアンは狩りに出ている。いつも、槍も罠も、銃も弓矢も持って行かず、血抜きに使うのだとロープと短剣だけ持っていくが・・・どうやって狩りをしているのか・・・。
もちろん、それはあえて聞かない。きっと、彼は見せたがらないだろうから。
「あっつい・・・」
それにしても、暑すぎる。せめて1度木陰に隠れよう、と思ったところで視界にそれを捉える。
下の川へと続く階段だ。
なんとなくあの日以来降りられずにいる。水ならバレリアンがどこからか用意をするし、洞窟の中にも緩やかな水の通り道はあるため、特段降りるに迫られることもなかった。
「・・・」
けれど、川に足をつければとても冷たくて気持ちいいだろうと思うと、自然に足が向いていた。
別にバレリアンにも禁止されていないし、もし何かあってもむしろ水の側の方が安心のような気がする。
頭の中で、誰に向けてか言い訳を考えているともう階段を降りきり、目の前には大きな川が流れていた。
川底の石を視認できるほどに澄んでいる、流れの緩やかなその川はまさしくバレリアンよようだった。
スカートの端をまくり上げて濡れないよう膝上の位置で固定し、農作業用のブーツと靴下を脱いだ。
触れなくとも近づくだけひんやりとした空気が身体を包む。これはよく知っている。彼を包む空気と同じだ。
そっと足先を水につけた。
ヒヤッと足先から背中を抜けて頭まで冷たさの衝撃が伝わる。ブルブルっと少し身体を震わせたあと私は両足で川へと進んだ。
たくさん汗をかいて、体の芯から熱を持っているようだったから、冷たい川の水はとても気持ちがよかった。自然、笑顔になってパシャパシャと1人水遊びをした。
「ロベリア」
名前を呼ばれ振り返ると、そこにはいつもの優しい笑顔の彼が立っていた。あまりに楽しみすぎて、彼がすぐ近くにいる事にも気づかなかったようだ。
「おかえりなさい!」
駆け寄ると、彼は片腕で軽々と私を抱き上げる。
私は彼の首へ手を回す。すると、彼の目元はいつもより少し多めに優しさを含むようになる。
「水遊びをしていたの?畑にいないからびっくりしたよ」
「ごめんなさい、あんまりにも暑くって」
「怒っているわけではないよ。次は僕も混ぜてね。」
「きっとね」
クスクスと2人で笑い合いながら、私は彼のもう1つ手に目をやる。ここからだとうまく見えないが、今日もなにかとってきたらしい。
「今日は何を取ってきたの?」
「今日は、兎を2羽だよ。」
「すごいわ!バレリアンは狩りの天才ね!」
「そんなに褒めてくれるなら、次はもっと頑張らないと」
馬鹿ね。と笑うと、彼は心底嬉しそうに私を見つめる。
やがて、そっと地面におろされ、彼はいつもセリフを言うのだ。
「さあ、ロベリアお昼にしよう。」




