表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の住まう谷 ロベリア譚  作者: 訪う者
そうして、私はかの地へ誘われる。
12/28

洞窟の中で

「ロベリア、君の身体がそうなったのは

君の心がそうなりたいと望んだからなんだ。」


バレリアンが、私を抱きしめたまま語り出す。その様子がまるで、内緒話をする恋人たちのようだと思って心の中で笑った。

竜と個人、その間に生ずる()()()()は、共にあり続け願いを叶えること。

いつかの少女と水竜がそうあったように。


「7才のロベリアは大人が怖かったんだね。あんなに優しかったのに、最後の時まで触れるその手は温かかったのに・・・信じていたのに裏切られたのは、きっととても辛かった。」


握りしめたこぶしに自然と力がこもる。

()()()が、目を見つめて言葉を口にする。それは、あの頃のロベリアの感情で、もう私のものではなくなってしまった感情。



「大人たちに侵されないために、大人になりたかった。

けれど、あれらと同じになるのは怖い。だから、あくまでも大人の少し手前のこの姿になったのかな。」


「ロベリア、竜の加護は君の望みを叶える。

だから、君が望むなら、君は僕が朽ちるその瞬間まで・・・」


バレリアンが、固く握っていた私の手をそっと解し開いていく。

彼の説明に耳を傾けながら、ずっと頭の中で考えていた。

私の心は、きっとどこかでおかしくなってしまったのだ。

世界の理に反して大きく変わった、身体と心。

何かどす黒い感情が、身体の中でとぐろをまいている。これはいつかのロベリアが抱いた感情。この感情がいつ芽生えたのか、覚えてすらいないけれど、私はこの感情の名前を知っている。


<憎悪>



世界の全てを呪うような、運命や悲劇すら殺そうとするほどの、嘆きと絶望。

ただ、殺されるために生かされるのは、私の心を殺していくのに充分だった。

けれど、たしかに自分の中にある感情は、もうはるか昔に置いてきてしまったモノのように感じられて、どう向き合えばいいかわからなかった。

それに、もういいのだ。だって、()()()がこれからはずっとそばに居てくれる。もう二度と、私は何にも侵されない。


バレリアンの言葉を思い出すと、自分の中の感情がすぅっと薄まっていくのが感じられた。だから、その時の私はもうそれでいいと思うことにしたのだ。

もう、なんだっていいのだ。私は、彼と生きていくんだから、昔のことなどこのまま忘れてしまえばいい。


「バレリアン、この谷へは7年ごとに私のように女の子がくるの?」


気持ちを切り替えようと、かねてからの疑問をぶつけてみる。興味があった、過去の生贄たちがどうなったのか。

彼は私の顔を覗き込み、私の顔から不安定な色が抜けたことを確認すると、いつものやんわりとした笑顔で応えた。


「うん、季節こそ変われど、違わず7年ごとに行われているね。」


彼は私を抱き抱えたまま立ち上がると、もう一度、私をそっと椅子に座らせる。そうして、手際よく空になっていた2つのグラスにハーブティーを注ぐ。よく冷えたハーブティーがなみなみと注がれたグラスを受け取り、1口飲み込むと気分がすっきりとした。

彼はそのまま、定位置である向かいの席に座って、言葉を繋ぐ。


「けれど、全ては救えない。」


少し悲しそうな笑顔で、彼はハーブティーを飲んだ。

そうして、言葉をさぐるように少し考えて、私に少しずつ説明をする。彼は、その整った指先で、テーブルを撫でながら言った。


「ロベリアのことを助けられたのは、君自身の魔力のおかげだよ。

僕ら古き竜は、自分の依り代以外からも、少しだけれど魔力を循環させるから、君の嘆きが伝わっていた。」


「そう・・・」


こくりと、ハーブティーを飲み込むと、爽やかな香りが鼻を抜ける。今の話題とのアンバランスさに違和感を感じて、すぐにどうでも良くなった。

もう、問題など何も無いように感じた。


私はここで終わりが来るその時まで、バレリアンと静かに暮らしいていくのだ。

それは、優しくあたたかい未来だ。


ようやく、ロベリアは

幸せになれるのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ