洞窟の中で
バレリアンがそっと近づいて、私の隣にしゃがみこむ。
そうして俯きながら、水面に映る自分を見つめる私の頭を、優しく撫でた。
「ロベリア。
僕はね、この谷に住む竜なんだ。」
相変わらず、私の頭を撫でる手は優しい。
「僕のような古き竜は、お気に入りのモノに加護を与える。」
水面からは、彼の表情は読み取れない。
「それは、土地だったり、血族だったり、個人であったり、建物であったり、言葉であったりするけれど。」
「竜の加護は、そのモノを護り潤す。
土地なら肥え、争いは遠ざかる。
血族なら健康で長く生き、よく繁栄するだろう。
個人なら竜は共にあり続け、できる限りの力を施す。
建物であったならそれは長く残り、生を慈しむ場所になるだろう。
言葉なら信じる者に救いや、奇跡をもたらすかもしれない。」
何を言っているのかわからなかった。けれど、わかった。
彼はあのおとぎ話の水竜なのだろう。こんな場所に住んでいることも、何も無いところから貴重な氷を取り出したことも、
僕の上に落ちてきたというのも、全て繋がった。
「ロベリア、ここは陽射しが強いし、洞窟へ戻ろう。
君にはきっと、考える時間が必要だと思う。」
バレリアンに促されるままに立ち上がり、初めて気づいた。
私は泣いていた。
なぜ泣いているのか、分からなくて、困惑した。
「あ、れ・・・ちがうの、ちがう・・・どうして、なみだが??・・・悲しいことなんて、何も」
何も?
悲しいことなら、沢山あった。
全てを知った日から、毎日悲しいことがあった。
お母さんとの叶わないいつかの約束をした時、
お父さんとの訪れないいつかの夢について話した時。
カルエの言った、いつかの夜の言葉。
「**************」
でも、怖かったから
私が知っていることを話したら、お母さんは私を助けてくれた?
私が嫌だって言ったら、お父さんは一緒に逃げてくれた?
カルエやミナ、ディルムにミドリは、私の代わりに死んでくれた?
答えを知るのが怖くて、何も知らない振りをして笑った。
悲しくても、最後のその時まで
家族に愛されていて、仲良しの友達がいる
幸せなロベリアでいたかった。
あぁ、痛い。痛いよ。
胸がズキズキするの・・・どうして、こうなったんだろう。
思考の渦に飲まれて、その後のことは覚えていない。
けれど、ひんやりとした彼の手が私を支えてくれていたから安心して意識を手放した。




