ロベリアの穏やかな日常 1
その国の東の端
豊かな緑を育む草原に囲まれた小高い丘にその村はあった。
遥か北にある竜の巣があるという山脈から流れる大河。そこから分かれた穏やかな川が村の西側に流れ、東側には深い谷と広大な森があり、隣国とこの村を隔てていた。
豊かな自然に囲まれ、隣国からの脅威もないおおよそ理想的な村だった。
そんな村に今年は一段と魔力の強い赤ん坊が産まれた。
「今年は決められた年」
「女の子は3人産まれたわ」
「豊作じゃ」
「魔力の強い子がいい」
「あの子じゃ」
昼下がり、春のやわらかな陽射しが、洗濯物を取り込む女性を照らしていた。洗濯物はすっかり乾いていて、いくつものタオルや服を抱えた腕はほんのりと暖かくなっていた。
夫と娘の洗濯物もよく乾いていて、穏やかな喜びが彼女の心を満たした。
「おかあさーーーーん!!!」
ドンドンドンッと、玄関のドアの方からけたたましい音がする。思わず溜息がこぼれてしまう。
「開けてーーーー!!!」
開けて、という事はまた両手がふさがる状況なのか、と苦笑いをこぼしながら、玄関へと急ぐ。
「はいはい、今開けるわよ」
ギィィと、音を立てて開いたドアの向こう側には、汗を流しながら嬉しそうに笑う娘の姿。
「見て見て!たくさんお魚捕れたよ!」
ニカッと笑う娘は、10数匹もの魚を抱えて帰ってきたのだ。
抱えて。
娘はお気に入りの青いワンピースの端を持って、服を網籠がわりにして魚を抱えて帰ってきていた。
「ロベリア・・・あなた、いつになれば網籠を使うようになるの?」
いつもの押し問答だ。この間は帽子に木の実がたくさん詰まっていた。
「だって、網籠だと5匹しか持てないんだもん」
膨れてみせる姿は愛らしいが、こうも毎回服を生臭くされても適わない。
後で夫に叱ってもらおう、そう心の内で決め、娘を中へと入れる。
「あとでお父さんに叱られなさい。」
「えーーーっ!ロナじいの分もとってきただけなのにぃ?」
「それとこれとは別です!せっかくのワンピース汚して・・・」
「うぅ・・・ごめんなさい」
こちらを恨めしそうに見ながら、娘が魚を台所の瓶の中へ入れる。。
昨日、隣の家のロナじいさんが「魚が食べたい」とボヤいていたのを覚えていて、頑張ってたくさんとってきたのだろう。孝行な娘なのだ。
口では叱りながらも、優しい子に育ってよかったと思う。
「ロベリア、あとでロナじいにお魚持っていきましょうね」
こちらをチラッと見て、娘は小首を傾げる。
「お母さんと一緒に?」
「えぇ、もちろん一緒によ」
とても嬉しそうに顔をほころばせながら、娘は駆け寄ってくる。
「うれしい!今日はお夕飯のお手伝いがんばるね!」
「・・・いつもは手抜きなのね?」
「・・・ちがうよ?」
賑やかな笑い声と、優しい日常の中
その時は近づいていた。