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竜の住まう谷 ロベリア譚  作者: 訪う者
そうして、私はかの地へ誘われる。
1/28

ロベリアの穏やかな日常 1



その国の東の端

豊かな緑を育む草原に囲まれた小高い丘にその村はあった。

遥か北にある竜の巣があるという山脈から流れる大河。そこから分かれた穏やかな川が村の西側に流れ、東側には深い谷と広大な森があり、隣国とこの村を隔てていた。



豊かな自然に囲まれ、隣国からの脅威もないおおよそ理想的な村だった。




そんな村に今年は一段と魔力の強い赤ん坊が産まれた。



「今年は()()()()()()

「女の子は3人産まれたわ」

「豊作じゃ」

「魔力の強い子がいい」

「あの子じゃ」




昼下がり、春のやわらかな陽射しが、洗濯物を取り込む女性を照らしていた。洗濯物はすっかり乾いていて、いくつものタオルや服を抱えた腕はほんのりと暖かくなっていた。

夫と娘の洗濯物もよく乾いていて、穏やかな喜びが彼女の心を満たした。


「おかあさーーーーん!!!」


ドンドンドンッと、玄関のドアの方からけたたましい音がする。思わず溜息がこぼれてしまう。


「開けてーーーー!!!」


開けて、という事はまた両手がふさがる状況なのか、と苦笑いをこぼしながら、玄関へと急ぐ。


「はいはい、今開けるわよ」


ギィィと、音を立てて開いたドアの向こう側には、汗を流しながら嬉しそうに笑う娘の姿。

「見て見て!たくさんお魚捕れたよ!」

ニカッと笑う娘は、10数匹もの魚を抱えて帰ってきたのだ。

抱えて。


娘はお気に入りの青いワンピースの端を持って、服を網籠がわりにして魚を抱えて帰ってきていた。


「ロベリア・・・あなた、いつになれば網籠を使うようになるの?」


いつもの押し問答だ。この間は帽子に木の実がたくさん詰まっていた。


「だって、網籠だと5匹しか持てないんだもん」


膨れてみせる姿は愛らしいが、こうも毎回服を生臭くされても適わない。

後で夫に叱ってもらおう、そう心の内で決め、娘を中へと入れる。


「あとでお父さんに叱られなさい。」

「えーーーっ!ロナじいの分もとってきただけなのにぃ?」

「それとこれとは別です!せっかくのワンピース汚して・・・」

「うぅ・・・ごめんなさい」


こちらを恨めしそうに見ながら、娘が魚を台所の瓶の中へ入れる。。

昨日、隣の家のロナじいさんが「魚が食べたい」とボヤいていたのを覚えていて、頑張ってたくさんとってきたのだろう。孝行な娘なのだ。

口では叱りながらも、優しい子に育ってよかったと思う。


「ロベリア、あとでロナじいにお魚持っていきましょうね」


こちらをチラッと見て、娘は小首を傾げる。


「お母さんと一緒に?」

「えぇ、もちろん一緒によ」


とても嬉しそうに顔をほころばせながら、娘は駆け寄ってくる。


「うれしい!今日はお夕飯のお手伝いがんばるね!」

「・・・いつもは手抜きなのね?」

「・・・ちがうよ?」




賑やかな笑い声と、優しい日常の中

その時は近づいていた。




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