第三章25 『第七階層』
それから。
二時間ちょっとしたらまたお昼休憩を取って、午後の三時にはおやつ。
お昼ごはんはポトフ、おやつはマカロン。
モンスターと戦いながら歩き続けた中でも、美味しいものをいただいての休憩は贅沢な気分になる。
そして、俺たちはようやく、第七階層まで来た。
第七階層。
ここには、これまでとはまた違ったモンスターが登場した。
ハリムカデ。
毒針を飛ばして攻撃してくるムカデで、長さも三メートル以上ある。
「みんな、毒針に気をつけて!」
マイルズくんが盾で俺たちを守りながら声をかける。
「わかったわ」
「《雷火》」
「リーチと相性ならあたしの《氷晶の鎌》のほうが! 《牡丹雪》」
逸美ちゃんの矢と俺の魔法で隙を作り、《牡丹雪》をまとった鈴ちゃんの鎌でハリムカデを倒した。
『毒』は『水』と同じ相性関係を持つから、『土』や『氷』で弱点を突ける。
凪は額の汗を拭う素振りをしてみせて、
「ふう。危ない危ない」
「先輩はなにもしてないでしょ」
モンスターも強くなっているし、凪には、死んでしまわないように、なるべく気をつけてもらいたいものだ。
「あれ?」
鈴ちゃんが小さく声を上げる。
「どうしたのさ?」
凪が尋ねると、鈴ちゃんはメニューを共有状態にしてみんなに見せてくれた。
「新しい技を覚えたみたいなんです。戦闘後、ポップが出ていて」
「へえ。技名は《氷結加工》。効果は、『味方の攻撃に一度だけ氷属性を付与する。ただし、属性相性の影響を受けることはない』、か。なかなかおもしろい魔法だ。属性を『氷』に変えるのではなく、付与する。つまり、開の《雷火》のような二つの属性を複合した技にできるってことだ。開、どうやって活かす?」
チラと凪に視線を投げかけられ、俺は答える。
「活かすにはいくつか方法がある。おそらく、この技のポイントは、付与するって点。それには利点と欠点が存在する」
「どういうことですか?」
小首をかしげる鈴ちゃん。
「それにはまず、魔法の法則について理解する必要がある」
「法則……」
と、鈴ちゃんが繰り返す。
「この世界は魔法が大きな力を持っている。鈴ちゃん、魔法相性はモンスター戦の攻略において最重要だってことはわかるでしょ?」
「ええ。そうですね。知らなければこの辺の相手には苦戦を強いられるかと思います」
鈴ちゃんが答えたとき。
道の先に、ドラゴン型のモンスターが現れた。
キラキラとダイヤモンドのような輝きを放つドラゴン。
ダイヤマンダ。
高さは二メートル以上ある。迫力も相当なものだ。
このモンスターが採掘師さんの言っていたドラゴンか。
「確か、属性は『土』って言ってたね」
「誰が?」
すっかり忘れている凪に言ってやる。
「採掘師さんだよ。ダイヤモンドはプラチナや金銀みたいな金属質じゃない宝石。だから『土』の属性なんだろう」
「炭素同士の共有結合。それが世界一硬いとも言われるほどの硬度を誇るゆえんよ」
と、逸美ちゃんが教えてくれた。
「ほうほう。さすがは逸美さん、物知りですな」
「て、凪! 前見ろ!」
「うわぁ~」
鋭い爪で切り裂いてくるダイヤマンダの攻撃を、凪は間一髪で避けた。空を切ったダイヤマンダの爪は、そのままの勢いで目の前の岩石を粉砕する。凪のステータスだったら、爪にかすっただけでゲームオーバーだったかもしれない。
「まったく。おまえはステータス低いんだから気をつけろよな」
凪に言い聞かせるが、当の本人は、
「オッケー」
と、軽い調子だ。本当にわかってるんだか。
「さて、俺が推測した魔法の法則を確かめるために、ちょっと魔法実験でもしてみるか」
俺がそう言うと、鈴ちゃんが驚いたようにリアクションした。
「ま、魔法実験!?」
実験が成功すれば、しっかりと理由を説明できるはずだ。
俺は鈴ちゃんに言った。
「手始めに、直接攻撃してみてくれる?」
「はっ、はい」
まずは、ダイヤマンダに対し、相性関係において等倍でダメージを与えることのできる物理攻撃を仕掛ける。
「えいっ!」
鈴ちゃんが《氷晶の鎌》で攻撃する。
しかし、ダイヤマンダにはあまりダメージが入らない。HPゲージの八分の一ほどしか減っていない。かなりの防御力だ。
すぐさまダイヤマンダから鋭い爪による反撃があったが、マイルズくんが盾で防いでくれた。
「重いっ」
ぐっと攻撃をこらえた後、バックステップでマイルズくんは距離を取る。
「ダイヤマンダの攻撃力は、野生モンスターの中でも最強クラスと言っていいかもしれない。みんなも極力ダメージを受けないよう気をつけて」
「ありがとう。マイルズくん」
じゃあ、反撃される前に、さっさと倒したほうがいいな。
次に、俺は凪に指示を出す。
これで検証できるはず。
「凪、俺の魔法におまえの風で勢いをつけてくれ」
「なるほど。オーケー」
俺は魔法を唱える。
「《雷火》」
「《ラファール》」
やや先行して俺が魔法を唱えると、凪が追随して突風を吹かせた。
属性相性において、『風』は『雷』を強める。
それはエマノンくんたち《旅兎六人衆》のメンバーが教えてくれたこと。
俺が放った《雷火》は、凪の《ラファール》によって威力を増して、技名が表示された。
ベースが俺の魔法になっているから、一応俺の技ということになる。
「《天空嵐》」
技名を声に出す。
雷をはらんだ嵐がダイヤマンダを襲い、ダメージを与えた。
ダイヤマンダのHPゲージは残りわずかになった。
「掛け合わせると、別の技が生まれるのね」
逸美ちゃんが驚く。
「よし」
続けて。
サッ
と。
一閃。
俺はダイヤマンダをドラゴンスレイヤー《天空の剣》で斬った。
鈴ちゃんが声を上げる。
「開さん、ハリムカデも来ました」
ちょうどいい。
「ボクが盾で守る!」
マイルズくんが前に出て、盾を構えてくれた。
「ありがとう」
俺はマイルズくんにお礼を述べて、ハリムカデに向かって走り出した。
逸美ちゃんが後ろから注意を喚起する。
「開くん、気をつけて!」
「わかってる!」
ハリムカデは毒針で攻撃してくるが、俺はそれを避けて、なんとか一撃入れた。
しかし。
物理攻撃はそれほど効かない。
HPゲージも六分の一ほどしか削れない。
予想通り。
「いけっ」
逸美ちゃんが矢を放った。
矢は避けられて命中しないが、俺が下がってハリムカデから距離を取るには充分な隙ができた。
戻ってきた俺に、凪が言った。
「開、無理するな。相性的には鈴ちゃんの領分だぜ」
「これでいいんだ。実験なんだから。さて、鈴ちゃん。俺の《天空の剣》に《氷結加工》をしてくれる?」
「わかりました。《氷結加工》」
鈴ちゃんが魔法を唱えた。
これで、俺の《天空の剣》は氷をまとった状態になる。
俺はその剣でハリムカデに向かった。
「凪、ここに《ラファール》を」
「おう。《ラファール》」
しかし。
なんの効果も付随しない。
オーケー。なるほど。
ならば、そのまま斬るのみ。
「はぁっ!」
「よいしょ」
逸美ちゃんがまたハリムカデに矢による遠距離攻撃をして注意を引いてくれて、おかげで俺はすんなりとハリムカデに物理攻撃を入れられた。
今度は、HPゲージもかなり減った。
残りは三分の一もない。
そして、鈴ちゃんが魔法を唱えた。
「《牡丹雪》」
これにより、ハリムカデは倒れた。
うん。実験終了。
俺はみんなを振り返る。
「さあ。実験も成功したし、魔法式について話そう」




