第三章22 『天照』
モンスターを倒しながらの道中。
マイルズくんがゲーム内の知識だったり情報だったりを色々教えてくれることが多かったが、そんな中、凪がふと聞いた。
「しかしマイルズくんはどうしてずっと一人で冒険してたのさ? キミならいいパーティーにも入れたんじゃないのかい? 連携もうまいしさ」
「そんなことないよ。ただね、ボクはキミたちのようにいっしょに始めた相手はいなかったから、一人が基本で、一人でクリアを目指そうと思ってたんだ。でもやってるうちに、一人じゃ厳しいとわかった」
「そんなときに、わたしたちと出会ったのね」
ふわりと逸美ちゃんが微笑む。
あっ、と思い出したように鈴ちゃんが声を上げた。
「占い師のアナンさんが言ってたじゃないですか。北に行けば出会いがあるって。それってマイルズさんのことだったんじゃないですか?」
「確かに」
俺もそう思っていた。しかし、凪がケロッとした顔でさらりと否定した。
「違うよ。だって彼女はNPC。誰にでもああ言うのさ」
「いや。そうとも言えないんじゃないかな?」とマイルズくん。
「どういうことだい? マイルズくん」
「さっきボクたちが聞いた、デスゲーム開始のアナウンスは言っていた。この世界の住人は生きている。意思があるって」
俺はうなずく。
「うん。その通りだよ。アナンさん、最後に北の出会いはあなた方にだけあるって言ってたし、他だってそうだ。たまに、定型句じゃなく、意思を持った人間みたいな反応をする人たちもいたから」
「ボクもそう思う。特にアナンさんの占いは必然性を有しているように感じる」
と、マイルズが真剣な顔で言った。
この言葉。つまり、マイルズくんもアナンさんには会ったことがあるということか。マイルズくんはこのゲームを長くプレイしている。《マグナマキナ城下町》は大きな街だし、行ったことがあって、お告げを聞いたことがあっても当然か。
「二人ともいろいろ考え過ぎさ。ただ、話せる人は確かにいるね。まあ話せたらラッキーくらいに思っておけばいいさ」
凪に適当にまとめられてしまったけど、島出流くんのAIの件もある。俺は少しだけ、気に留めておこう。
それから、ずっと歩き続けて、洞窟内の雰囲気が変わった。
さっきまでは、外に近いせいか壁の小さな穴から光が射していた。しかしいまは、コケなどが目立っていた岩壁から、結晶なども見られるようになった。
階層が移ったのだろう。
洞窟内には階段などはないけど、何層かに分かれているらしい。
「いまは第二階層だと思う」
物知りなマイルズくんが教えてくれる。
「全部で何層あるの?」
逸美ちゃんが聞くと、マイルズくんはさらりと答えた。
「全部で七層だよ。下に行くほど階層間が長くなる」
「つまり、やっと第二階層に来たけど、このあとはだんだん階層が変わるまでの時間がかかるようになるってことか」
と、俺が顎に手をやると、マイルズくんはうなずいた。
「そうなるね」
凪が尋ねる。
「この調子だと、谷底にはいつ到着するんだい?」
「いつと言われてもハッキリとは答えられないけど、このまま歩き続けても、明日の昼前くらいにはなるんじゃないかな」
「この暗い洞窟をそんなにですか……」
怖がりの鈴ちゃんにはつらいのかもしれない。
「ゲーム世界とはいえ、休憩は必要だ。適度に休みながら行こう」
俺の言葉にみんなが了解する。
しゃべりながらも歩を止めずに進むと。
この階層で初めて新たなモンスターが登場した。
ライコドラ。
たぶん、『雷鼓』と『コドラ(子供のドラゴン)』を合わせた意味の名前だろう。
ティラコよりは大きいけど、高さは一メートルほどしかなく、お腹にやや特徴があり、太鼓のようになっていた。
ライコドラはポンポンと自らのお腹を叩いて、雷を溜める。
そして、雷をまとった爪を立て、俺たちに向かってきた。
「『雷』には『金』が有効だから、物理攻撃でいこう!」
「はい! ではあたしから!」
鈴ちゃんが鎌を振るった。
これはライコドラには効果的だった。半分近くまでHPを削れる。
また、逸美ちゃんも矢を放った。
「ちょっと試させて! 《黄金の矢》」
それも、魔法攻撃でもある矢だ。
魔法の属性は、おそらく『光』。
光魔法とライコドラの相性に有利不利はないが、威力が高く、すごいスピードでライコドラのHPゲージが0になった。
「すごいよ、逸美ちゃん」
「わたしもびっくり~」
「そろそろぼくらの体力を回復しよう」
なにもしていなかった凪が提案する。まあ、なにもしてないのにちょっとHPが減っているのだから仕方ない。
逸美ちゃんがにこりと微笑んで、
「いいわよ~。《天照》」
新しく逸美ちゃんが覚えた魔法。
これは回復魔法だった。
それもひとりを最大まで体力回復させる魔法で、これまで逸美ちゃんが《癒やしの杖》によって使えた《ヒール》と変わらない魔力で発動できる。味方全員を同時に少量回復できる《ヒールシャワー》より、使用機会は多くなるだろう。さらに、魔力も最大まで回復してしまう。状態異常だけは治せないが、ある種チート級の魔法だ。
俺たちは体力と魔力を満タンにしてもらった。
そこで、鈴ちゃんが時間を告げる。
「みなさん。もう夜の七時ですよ」




