第三章21 『西の洞窟』
移動中。
逸美ちゃんが俺の両肩に手を置いて、
「わたしと開くん、そこに凪くんがいれば半月でクリアできる。でも、他にメンバーが増えればもっと早くクリアできるはず。頑張ろっ」
「うん」
「あの《名探偵》が言うんだから、ぼくらの力を信じようぜ」
意気軒高な凪に、マイルズくんが驚いたように尋ねた。
「え? 《名探偵》って、鳴沢千秋だよね? だとすると、さっき言っていた所長って……」
凪は片目を閉じて、
「そうさ。開と逸美さんは《名探偵》の探偵事務所で働いてるのさ。開は《探偵王子》と呼ばれる少年探偵、逸美さんは助手。そして、ぼくたち四人は少年探偵団。他に仲間はあと二人いるけどいまは欠席。で、ぼくが情報屋で、鈴ちゃんがリアクション担当さ」
「ちょっと先輩! 誰がリアクション担当ですかっ。せめて雑用係にしてください」
それでいいのか、鈴ちゃん。いや、実際そうなんだけど。
「それより凪。俺たちのことはいいとして、情報屋とか言ったらまずいだろ」
「いいよ。パーティーじゃないか。けど、他のみんなにはナイショだよ」
そう言って、立てた人差し指を口の前に持っていく凪。
「わかった。言わないよ」
マイルズくんはしかとうなずく。
かくして、俺たち五人は、《竜の谷》へ降りるために《西の洞窟》へと進んだ。
《西の洞窟》
《モスクリフト》の村を出て少し歩いたところに、その入口はある。
入口の横には、ひとりのおじさんが立っていた。オーバーオールを着た恰幅のいい四十代くらいのおじさんで、後ろで髪を束ねている。
「よお。キミたち、この洞窟に入るってことは、竜に挑むのかい?」
「はい」
逸美ちゃんが答えると、おじさんはやれやれといった様子で言った。
「悪いコトは言わねェ。やめときな。竜は強い」
「そういうわけにはいかないさ」
凪が堂々とそう言うと、おじさんはため息をつく。
「こりゃ、言ってもきかなそうだな。なら、ひとつアドバイスだ。竜は人や物なんかを石化させる火を吐く。もし石化されたら、五分経つと教会に自動で転送される」
「なるほど」
と俺がつぶやくと、おじさんは言葉を続けた。
「だが、それはこれまでの話。デスゲームが始まったいまでは、石化を戻してもらうまでずっと石のまんまだ。気をつけな」
デスゲーム。
このおじさん、NPCのようだけど、この現状を理解して会話をしている。やはりデスゲーム化されたことでなにかが狂ってきている。
つまり。
この竜について言えば、安全装置である自動での教会送りがなくなり、簡単に石化はしていられなくなったってことだ。
「石化を解く方法は?」
凪の問いかけに、おじさんは腕を組んで、
「さあな。わからねえ。おれが言えるのはこんくらいだ」
「ふうん。ありがとう。じゃ」
凪がおじさんに手を振って、俺たちは洞窟に入った。
洞窟内は薄暗いところもあるけれど、所々に穴があるため外からの光も入ってくる。ソロモン島のときもそうだったが、ダンジョンのようである。
五人で着実に歩を進める。
洞窟を少し進むと。
新たなモンスターが出現した。
ロックボム。
岩のモンスターだ。
大きさは、高さ八十センチほど。
「名前通りなら、爆発して攻撃してきそうだね」
「自爆して相手を巻き込むのが攻撃手段かも」
と、俺と逸美ちゃんが警戒を強める中、凪は《ケリュケイオン》を伸ばした。
「だったら、近づく前にさっさと倒せばいい」
「そうですね! ところで、属性相性はどうなります?」
と、鈴ちゃんが凪を見る。
「《ラファール》」
「て、先輩!」
「ロックボムの属性はおそらく『土』。弱点は『木』、『風』、『雷』。だから俺がやる。《雷火》」
俺と凪の二連攻撃によって、ロックボムはなにもできずに倒れた。
マイルズくんが教えてくれる。
「うん。それが正攻法だと思う。ロックボムの攻撃は、初手が爆発なんだ。しかも自爆。ボクも以前、別のダンジョンで見かけたけど、爆発の規模もそれほど大きくないからある程度の距離を取って弱点を突きつつ早めに倒すのがいい」
「早く言っておくれよ」
凪がやれやれと肩をすくめると、マイルズくんは苦笑して謝った。
「ごめんね。みんなの判断が早くて言うヒマがなかったんだ」
「ほうほう。さすがぼくたちだな」
あはは、マイルズくんは笑って、
「凪くんは切り替えが早いね」
「判断もね。なーんて。さあ、どんどん行こう」
「おまえはなにも考えずに魔法使っただけだろ? まったく」
俺はため息交じりにそうつぶやき、凪を先頭に歩き出した。
が。
しかし。
モンスターが現れると、凪はすぐに下がる。こいつに前衛にいられたら大変だ。あっけなく死んでも、これまでみたいに復活はできないのだから。
バトルでは、マイルズくんが前衛に出てくれた。俺と鈴ちゃんも前衛だけど、それよりさらに五歩分前に出てくれている。凪と逸美ちゃんは後衛だ。
敵は新しいモンスター。
フライトワイト。
空を飛ぶゾンビで、ゆらゆらとこちらに向かってくる。スピードはそれほど速くないけど、のろのろ歩く普通のゾンビよりずっと速いので、恐ろしさも比じゃない。ただ、リアルよりモンスター的なビジュアルなのが救いだ。
「ひぃ」
まあ、鈴ちゃんみたいにうずくまって本気で怖がる人だっているけど。
「ボクが前でみんなを守る。フライトワイトは属性が『金』。炎に弱いよ」
「了解!」
じゃあ俺だ。
魔法を唱える。
「《雷火》」
左の手のひらを向けて放った魔法は、炎と雷を合わせた攻撃。これまでの経験上、どちらかが弱点の相手には有効判定が出るようだ。
これで、フライトワイトの残りHPはわずか。
攻撃を受けてもそのまま俺たちに向かって飛んできたところを、マイルズくんが盾で押さえてくれた。
「とどめよ! はぁっ!」
逸美ちゃんもさっそく《黄金の弓》で追撃してくれて、フライトワイトは倒れた。
マイルズくんは自慢の盾で俺たちを守りながら、うまく連携してくれる。
「やった! マイルズくん、盾すごく助かったよ」
「ううん。開くんたちのおかげさ。パーティーを組むと安定感が違うよ。逸美さんもさっそく弓をうまく使えているね」
「シューティングゲームの円形の枠みたいなものが出てくるんだけど、それに合わせて矢を放てば当たってくれるの」
逸美ちゃんは《黄金の弓》を使って、攻撃面でも俺たちを後衛からサポートできるようになった。五人になった上に逸美ちゃんの弓、これはかなり戦いやすい。
「あとね、使える魔法も増えたのよ」
逸美ちゃんがメニューを開き、画面を共有状態にして魔法覧を見せてくれた。
《黄金の早矢》
《光明の乙矢》
《天照》
この三つが追加されている。
「なんだか強そうだね。やったね、逸美ちゃん!」
「うん」
満足そうな逸美ちゃん。
凪がしゃがんで、鈴ちゃんの肩に手を置いた。
「鈴ちゃん、フライトワイトは開たち三人で倒してくれたぜ」
「そ、そうでちゅか。ふう」
戦闘中、ずっと怖がってうずくまっていた鈴ちゃんは、甘噛みしながら何事もなかったかのように立ち上がった。
「そうでちゅよ~」
「もう! バカにしてー! ちょっと噛んじゃっただけじゃないですかー! こらー」
「うわ~」
凪と鈴ちゃんが追いかけっこを始めた。
マイルズくんは苦笑いを浮かべてそんな二人を見る。
「やっぱり、人数が増えると賑やかだね」
「ま、まあね」
あれはいい意味での賑やかだとは言いにくいけど。
俺はマイルズくんの盾に視線を落として、
「そういえば、マイルズくんの盾ってどれくらい防げるの?」
「偶然ダンジョンで拾った盾なんだけど、すごく良い物でね。かなり防げると思う。これまで防げなかった攻撃はないから」
と、マイルズくんは謙遜気味に言った。
「へえ、それはすごいね」
どうやら、俺たちのパーティーに加わった仲間はかなりの強さを持っているらしい。




