第三章19 『黄金の弓』
場所は、《モスクリフト》の喫茶店。
田舎ののんびりした雰囲気のカフェって感じの店内に移動した。
俺は言った。
「確認なんだけど、マイルズくんは谷の向こう側からリフトで来た。それって、スタート地点が谷の向こう側だったってこと?」
つまり、俺たちと違うルートを辿った場合だ。
「うん。最初の川が一つ目の分岐点。どちらの川岸からでも物語は始まる。また、街やクエストの選択でも変わる。どちらのルートも行き来はそれほど難しくないんだ。ボクの場合は、向こう側から竜退治するために渡ってきた」
なるほど。
「竜退治……ていうか、《ドラゴンの涙》を手に入れる方法は知ってる?」
「詳しくは知らない。竜を祀る村から《竜の谷》へ向かうって聞いているけど、竜を倒した人は未だいないし」
「そっか」
と、俺はつぶやく。
しかしやはり、ドラゴンスレイヤーでそのまま簡単にとはいかないだろうな。
「でも、行く方法は聞いてるよ」
マイルズくんの言葉に逸美ちゃんが目を輝かせる。
「え? どうやって?」
「《モスクリフト》の西に洞窟があるんだ。洞窟は谷に繋がっている。そこから谷に降りれば、竜が住む谷底へ行ける。そして、竜の返り血を浴びると不死身になれる。また、竜の吐く火をくらうと石化されてしまう」
「厳しいね」
「ただ、竜には弱点があるらしい。けどそれがなにかはわからない」
凪がなにも考えてないような顔で、
「弱点を突かれれば、あまりの痛さに涙が出るってことかな?」
「どうだろう。ボクにはなんとも」
「昔から西欧でも東洋でも、神話とかでは、竜の弱点は魔剣よ」
と、逸美ちゃん。
「なるほど。だったらやっぱり、この《天空の剣》が弱点になるかもね」
「うん」
俺と逸美ちゃんの話を聞いて、マイルズくんは驚いた顔をした。
「まさか、あの《天空の剣》を手に入れたの?」
「まあ、運よくね。《天空の剣》は知恵の木の実がなる大樹――つまりリンゴの木に突き刺さっていた。だから俺たちは、それが《魔剣グラム》なんじゃないかと思ったんだ。剣が刺さっていた《ファフナ大樹》も、グラムで倒すべき竜ファフニールから来てるんじゃないかってね」
「ドラゴンスレイヤーだね」
俺はうんとうなずく。
マイルズくん、理解が早くて助かる。
ただ。谷底へと行くには、相当時間がかかるはずだ。凪が岩を落としても音がしなかったくらいだから、かなり深い。加えて、まっすぐ降りるのではなく洞窟で下ってゆくのだから、丸一日はかかるだろう。フィールド上での移動は3倍でも、ダンジョン内もそうとは限らないのだから。
逸美ちゃんがマイルズくんに質問。
「マイルズくんは、七つのアイテムは集めてるの?」
「いや。ボクはまだ《暗黒点の矢》しかゲットできてないんだ。一人旅だし、ペースも遅いから。みんなは?」
「わたしたちは、昨日《ソロモンの宝玉》をゲットしたわよ。開くんの名推理で、謎解き部分もスイスイーってね」
と、逸美ちゃんが笑顔で答えた。
マイルズくんは一瞬遅れて驚く。
「それって、まだ三組しかゲットしてないアイテムだよ。すごいね。ええと、ボクもパーティーになったことだし、《暗黒点の矢》はキミたちの物同然と思っていいからね」
「うん、ありがとう」
俺がお礼を述べると、マイルズくんは言葉を続けた。
「今度はこっちから質問させて。キミたちはどんな武器を使っているの?」
俺たちは四人で顔を見合って、逸美ちゃんが答える。
「開くんはさっき言ったように《天空の剣》よ。凪くんが《ケリュケイオン》っていう杖で、鈴ちゃんが《氷晶の鎌》っていう鎌。わたしは《癒やしの杖》っていう杖。でもわたしは回復型の杖だから、戦闘ではあまり役に立ててないんだけどね」
逸美ちゃんは攻撃魔法こそないけど、補助魔法と溢れ出る《知識の泉》で俺たちをサポートしてくれている。
けれど、マイルズくんが提案した。
「そっか。ボク、ちょうど弓を持っているんだ。よかったらあげるよ。ボクは戦闘だと剣と盾を使うし、どうかな?」
マイルズくんはジェスチャーでメニュー画面を呼び出して、なにやら操作し、金色の弓を取り出した。
「これさ」
「綺麗~」
輝く弓に、逸美ちゃんは目をらんらんとさせた。
「《黄金の弓》っていうんだ。どうぞ」
「いいの?」
「もちろん」
「ありがとう。これで戦闘でも、みんなの役に立てるわ」
逸美ちゃんは嬉しそうに《黄金の弓》を受け取った。
俺はコーヒーカップを手に取り、一口飲む。
さて、これでアイテムはあと五つ。
残る五つを、あと約一週間で集めねばならない。となると、《ドラゴンの涙》をゲットするのに残り日数のうち二日以上を費やすのは得策ではないのか?
一応、意見を聞くだけ聞いてみよう。
「みんな、ちょっといい?」
「なんだい?」
「《竜の谷》へは、一日で降りられるかわからない。難易度も高いし、残り日数も少ないからあと回しにする方法もあるけど、どうしたい?」
「あたしはみなさんに合わせるだけです。なので、どちらでも……え!?」
鈴ちゃんがそう言いながら何気なくメニューを開いて、驚嘆の声を上げた。
「どうしたのさ?」と凪。
「先輩、メニューからログアウトボタンが消えてます。どうして……?」
なんだって? いまのいま、俺も自分のメニューを開いたが、そのときはログアウトボタンもちゃんとあったはずだ。
再度開く。
「メニューオン。……ホントだ、ログアウトボタンがない」
「わたしのログアウトボタンもないわ」
と、逸美ちゃんの声を落とした。
すると――急に、空が暗くなった。
まだ昼間だし、日の陰りだけでこれほど暗くはならないのが普通だ。まるでいきなり夜になったような暗さである。
「何事だ?」
凪がそう言って立ち上がった。
そして、俺たちは店の外に出た。




