第三章15 『竜の祠』
《モスクリフト》の街を歩く。
街の壁には、遺跡の石碑に描かれるような古めかしい絵で、竜らしき物が描かれているところもあった。
「ここは竜を祀る村なんだろう」
「そうね。《ドラゴンの涙》となにか関係があるかもしれないわ」
俺と逸美ちゃんがそう言うと、凪は首をかしげる。
「しかし不思議だ」
「なにがですか? 先輩」
鈴ちゃんの問いかけに、凪は焦らすつもりはないようだが、壁の竜の絵をじっくりと見てから答えた。
「開が言うように、竜を祀っているように見受けられる。けれど、他のプレイヤーたちからは、《ドラゴンの涙》を入手するためにはドラゴンを退治すると聞いた」
と、凪は俺を見た。
「うん。俺もそれが気になってたんだ。どうして神様みたいに祀られるような存在の竜を倒すのか。ヒントがほぼない状態だからまだなにも言えないけど」
「まあ、そういうときはのんびり話を聞くしかないわね」
逸美ちゃんがそう言うと、凪がうなずく。
「ぼくもそれを言おうと思ってた」
鈴ちゃんはやや難しい顔で、
「話を聞くポイントを考えるのはいいですけど、先輩はいつも気にするのは最初だけですぐに気持ち切り替えて、こっちだけモヤモヤするんですよね」
「そういうことだから、鈴ちゃんは気にしなくていいよ」
「えぇー、そう言われても……」
困った顔で鈴ちゃんはつぶやく。
こんな風に、鈴ちゃんはいつも凪の言葉に振り回されている。結局、考えるのは俺の役割なんだけどね。
「ま、考えるのは開だからさ」
やっぱり。
とにかく、情報を集めたら考えてみよう。
歩き回って話を聞いたところ――
「話を聞くなら、《竜の祠》で老婆に聞くといい」
と、青年が教えてくれた。
《竜の祠》は、村の奥にある小さな祠だ。
その祠の前には民家がある。
民家にて。
老婆がこの先にある谷について教えてくれた。
「あれは、《竜の谷》。はるか昔から竜が住む谷だと言われ、この村は竜を祀っていたのじゃ。竜は雷雲を呼ぶことができ、雨を降らせる。しかし最近はこの辺りもめっきり雨が降らなくなった。昔は竜が天空を飛び回り、雨を降らせたのにのう。噂では、もっぱら谷底の巣で金を作り蓄えておるとのことじゃ」
色々な言い伝えや噂があるようだ。
「人間を石化させる火を吐くという話も聞きました」
逸美ちゃんがそう言うと、老婆はこう説いた。
「確かに。竜は火を吐く。自らの命を狙う者に火を吐き、その火は人を石にする。さらに、石にした人間などから金を生む。竜は森羅万象を司る天空神たる存在だったのじゃ」
「谷の深さってどれくらいなんですか?」
さっきは岩を落としても音がしなかったくらいだし、そこは聞いておかないとと思い、俺が質問する。
「《竜の谷》は底なしじゃ。なにしろ大地の裂け目、昔は谷の向こう側には大陸はなく、ここで世界が終わっていると思われていたくらいじゃからの」
今度は逸美ちゃんが聞いた。
「では、どうやって《竜の谷》へ行けばよいのですか?」
「ほう。《竜の谷》へ行こうなんて、風変わりな旅人たちじゃな。谷を降りるには、外れにある《西の洞窟》から下って行けばよい。もしくは、崖から真っ逆さまに落ちるかじゃよ」
「おばあさん、俺たちリフトにも乗りたいんですが、どうやって乗るんですか?」
「乗り場の人間に言えば乗せてくれるじゃろて。ただし、リフトに乗ったら谷底には行けんぞ」
ありがとうございましたとお礼を言って、俺たちは老婆の家を後にした。
リフトに乗るか谷へ降りるか。
道は二つある。
が。
まずはリフトに乗ることができるか確認するため、リフト乗り場へ行った。
「リフトに乗るには一人五〇〇ゴールドだよ」
乗り場のおじさんはそれだけ教えてくれて、再び俺たちは崖の前で考える。
五〇〇ゴールドっていうのも安いくらいだ。
どうする? と聞こうとしたとき、凪が指差した。
「あれ」
その指の先には、動くリフトがあった。
向こうからこっちにやって来るリフトのようだ。
スキーのリフトのように屋根はなく、観覧車みたいに四人が二人ずつ向かい合わせで乗る形だ。
そこに乗っていたのは、一人の少年だった。
「男の子ね」
「でもなんだかひどく疲れてるような……」
逸美ちゃんと鈴ちゃんが順番にそう言ったとき、少年がふらりと体勢を崩した。そのままリフトから落下しそうになる。
「凪、行くぞ!」
「へ?」
間抜け顔の凪の腕を引っ張り、俺は少年のほうへと走った。あのままだとこっちに到着する前に谷に落ちる。
「開くん、あの子、落ちちゃうわ!」
「わかってる! 凪、飛べ!」
そう言って、凪をつかんだまま、俺は踏み切って飛んだ。
「うわぁ」
凪も引っ張られるまま惰性で飛んだ。
その瞬間、少年もずるっとリフトから落ちた。
「ちっ」
俺は舌打ちする。
やっぱり落ちてしまったか。
でも。
だからこそ、俺は凪と飛んだのだ。
少年に向かって、俺は手を伸ばした。
「キミ! つかまって!」




