第三章13 『北の集落 モスクリフト』
《モスクリフト》
看板に書いてある村の名前は、どこか北国っぽい。
街並みは、教会やよろず屋の他に古い家が点々とあり、のどかな村というより田舎の集落のような閑散とした雰囲気だった。
また、直径二十メートルほどの大きな池があり、池には黄色や桃色の花が浮いている。他に花などのないこの村においては、それらは華やかで目立つ。
鈴ちゃんはしゃがんで、池の花に手を伸ばす。
「綺麗ですね。ひとつアイテムに入れておいてもいいですよね」
「いいんじゃないかしら」
「人もあまり多そうではないけど、ここでいいのかな?」
「開、いいってなにが?」
と、凪に聞かれる。
「いや、《ドラゴンの涙》だよ。その情報が教えてもらえるのかなってさ」
「まあ、たぶんこの村で合ってるよ」
しかし。
廃れてしまった畑があったり、村人の活気があまりないようにも見えたり、村の一部の林を除くと、岩場が多く緑が少ない。
凪は歩き出す。
「さて。まずは教会に立ち寄っておこう」
教会に到着して、逸美ちゃんが提案した。
「そろそろお昼だし、一旦休憩にしない?」
「そうだね。ずっと歩き続けで疲れたし、お昼ご飯でも食べよう」
「はい。あたしももうそろそろだと思ってました」
「ぼくお腹すいた~」
「ゲーム内なんだからお腹はすかないよ」
「よし、じゃあ決まりだね」
凪はメニューをいじったかと思うと、「今日はカレーにしよう」の言葉を残して、すぐに姿が消えた。
「まったく、勝手なんだから。あいつどんだけ自由なんだよ」
「うふふ。凪くんはいつもマイペースね。わたしはなに食べようかな~」
ボタンを押して、逸美ちゃんもさっさとログアウトした。
鈴ちゃんは苦笑を浮かべて、
「逸美さんもマイペースですよね」
「だね。あの二人はマイペースだよ。さあ、俺たちもログアウトしようか」
「そうしましょう」
俺と鈴ちゃんもログアウトする。
四人共、現実世界に戻った。
そして、四人そろってマスターズ・カンパニーの食堂に行った。
食事を終えた俺たち四人はまた703の部屋に戻ってきた。
「いやあ、美味しい唐揚げ定食だった。ひじきも付けてもらって正解だったな」
「先輩、ログアウト前はカレーが食べたいって言ってませんでしたっけ?」
「カレーも唐揚げもひじきも似たようなもんさ」
「どんだけいい加減なんだよ」
「それより潮戸さん、ゲーム内でも食事ってあるんですか?」
それは俺も気になっていたところだ。ソロモン島でハネコが見つけた《英知のバナナ》を一本だけ食べた。しかし、それ以外で食事という食事をとったことはない。ゲーム内ではどこまで現実世界と同じことができるのだろうか。現にゲーム内ではお腹は減らなかった。
潮戸さんは人のよさそうな笑顔で、
「可能ですよ。一応、こっちの世界でできることはすべてできると思っていてくれても大丈夫です。ただ、食事もトイレなども、しなくても問題はありません」
「そうなんですか。それなら、向こうの食事もしてみたいな」
俺が、どんなご飯があるだろう、ファンタジー世界らしい食事ってなんだろう、と想像したところで、逸美ちゃんがぽんと手を合わせる。
「そうね。モンスターのお肉とかも食べたいわ~」
逸美ちゃん、ゲテモノも普通に食べられちゃう人だからなぁ……。俺はイナゴくらいなら食べられる。他はモノによる。
「いきなりモンスターはあれだから、まずは普通のから食べようよ」
「あたし、それほど長時間連続でログインするって頭がなかったから、ゲーム内で食事なんて全然考えてもなかったです」
「じゃあ今日はゲーム内でなにか食べられたら食べようぜ」
「だからって言って、拾い食いはするなよ、凪」
「ちょっと開、言うことがひどいや~」
みんながあははははと笑った。この楽しい空気の中、凪もワンテンポ遅れてみんなに合わせて笑う。
「て、なんで先輩だけあたしを指差して笑ってるんですかっ」
「笑われてるのはおまえだろ? まったく。ズレてるんだから」
凪はやれやれと手を広げて、
「せっかくぼくが空気読んで合わせてるのに、みんなわがままだなぁ」
「わがままとかそういう問題じゃありませんっ」
と、鈴ちゃんがつっこむ。
潮戸さんは言った。
「さて、みなさん。それではゲームを再開してください」
すぐに俺たちは《T3》をセットした。
起動。
そして俺は、ゲーム内にログインした。




