第三章10 『星の旅人たち』
鈴ちゃんがぽつりとつぶやく。
「それにしても、雷剋土ですか。普通、逆ですもんね。ゲームなどでは地面はアースになるから電気を無効化するって」
「確かにそうね。でも、理に適っているわ。解答と理由の紐付けがされた。さすがは開くんね」
と、逸美ちゃんが俺の背中に手をやった。
ついでに、俺は言っておく。
「あとさ。属性相性において、『氷』が五行での『土』になるのも、固体という状態にあるから。氷は水が固形化したものだもんね。『毒』が『水』に含まれるのも、毒は普通、人の手による加工がなければ液体の状態にあることが多いから。それが四元素を基礎とした四態に通じている」
ツナミさんが小さく笑いながらポリポリと頬をかく。
「すごいね。ボクたちが漫然と受け入れていた属性相性の関係、その背景を一瞬でここまで読み解いてしまうなんて」
「これが天才の推理力ですか。思ったより早く目の前で見られたな」
つぶやくエマノンくん。
俺はちょっと引っかかって尋ねる。
「エマノンくん、俺は別に天才なんて言われるほどじゃ。それより、思ったより早くって、どういうこと?」
現実世界で探偵をしている俺を知っているかのような口ぶりに聞こえたのだ。
エマノンくんは頭を横に振る。くせ毛が揺れた。
「いいえ。《ソロモンの宝玉》入手に導いた推理力を間近で見てみたかっただけですよ」
柔らかい微笑みに、俺は言葉を返せなかった。
なんだかうまくかわされた気分だ。
ツナミさんは左右手の人差し指を立てて、
「最後に、陰と陽。これは『光』と『闇』の属性なんだ。この二つは特別で、他とは一切の相性関係を持たない。互いに相殺する。とまあ、こんなところだろうか」
「ありがとうございます」
「すごく勉強になりました」
逸美ちゃんと俺はお礼を述べて、鈴ちゃんがぺこりと頭を下げる。
「共闘のお誘いをお断りしたにもかかわらず、ご丁寧に説明してくださりありがとうございました」
「いやいや。ボクたちのほうこそ勉強になった」
ホタルちゃんが小さな声でツナミさんに呼びかけた。
「リーダー。いまのこの子の解説、忘れないうちにメモっておいたら?」
「そうだな。そうしよう」
凪がホタルちゃんをじーっと見る。ホタルちゃんがそれに気づいて、やや恥ずかしがるようにマクロップで顔を隠して、
「な、なに?」
「ホタルちゃん。キミは何年生だい? ぼくと開は高校二年生なんだ。十七歳っていったら同級生かなと思ってさ」
「そうだけど」
「やっぱり。同級生のよしみで、また会うことがあったらよろしくね」
「う、うん。よろしく」
そう言って、ホタルちゃんは凪を見たあとに俺にも目を向け、小さく微笑を浮かべてぺこりと頭を下げた。
ツナミさんは言った。
「ところで、キミたち」
「なんですか?」
鈴ちゃんが聞く。
「なんだか、三人は見ない武器を持ってるな。どこで入手したんだい?」
彼の言う三人とは、俺と凪と鈴ちゃんのことだ。
俺は簡単に説明する。
「その杖はもらい物で、鎌は《ドレスフィア》で売っていた掘り出し物。そして、俺の剣はサブクエストで入手した物です」
「《ドレスフィア》……? そんな鎌、売ってたかな……?」
「売っていませんよ。ちょうど別の場所で入手した人が売ったばかりでお店に並んだか、はたまたみなさんが特別な条件を満たしたか、だと思います」
と、的確に指摘するエマノンくん。
ホタルちゃんが俺に聞く。
「それで、サブクエストって?」
「《天空の剣》だよ」
「え!? ゲットした人いたの!?」
ドールさんが驚いて、俺の剣をまじまじと見る。
「どんなクエストだったか教えてくれよ」
タラコさんにそう聞かれるけど、凪は片目をつむってクールに答える。
「悪いけど、それは企業秘密さ。自分たちでクリアするからおもしろい。だろう?」
そう言われて、ツナミさんが笑顔でうなずく。
「だな。それがゲームってものだ。まあ、ボクらはここで別のプレイヤーに声をかけてみるよ。話を聞いてくれてありがとう。キミたちも頑張ってくれ」
「おう。またね。さようなら」
凪が手を振って、俺たちは《木こりの家》を出た。
俺たちは次の街を目指して進む。
ミクロップやツムジカなどと戦いながら草原を抜けて、荒野に入る。ただ完全に殺風景な荒野ではなく、荒野と草原が混じったようなエリアだ。木などもぽつぽつ生えている。
「しかし《旅兎六人衆》か」
凪が頭の後ろで手を組んで歩きながらつぶやいた。
「ああ、さっきの人たちのギルド名ね」
「うん。なんでこのゲームやってたんだろう」
鈴ちゃんが小さくこける。
「そこですか。そんなのあたしたちといっしょで招待されたからに決まってるじゃないですか」
逸美ちゃんはのほほんと、
「わたし、そんなギルド名なんて聞いたことなかったわ~」
「一番大きなギルドっていう《七星連合》すら今日聞いたばかりですしね」
と、鈴ちゃんがくすっと笑った。
情報交換をよくする凪は知っていたのかもわからないが、俺も逸美ちゃんや鈴ちゃん同様に知らなかった。
急に、凪は思いついたように言った。
「そうだ! ぼくたちもパーティー名を考えようぜ」
「いいんじゃないかな。俺もパーティー名とかあっていいと思ったし」
「わたしも賛成」
「はい。あたしもです。でも、なにか候補はありますか?」
鈴ちゃんに聞かれて、凪は肩をすくめる。
「それが、ないんだな~」
「ですよね」
苦笑する鈴ちゃん。
凪は腕組して、
「まあ、適当につけてみるか」
「賛成~」
逸美ちゃんが適当な返事をする。
「もう、二人はいつも適当なんですから」
呆れたように鈴ちゃんが肩を落とす。
俺は苦笑して、
「みんなそんなにすぐには思いつかないよね。《少年探偵団》だとそのままだし、この世界観に合わせたいから違うのがいいし、ゆっくり考えようか。まだ三日目だしね」
「そうそう。ぼくもそれが言いたかった。旅兎みたいな自己主張が強い名前にするのもあれだし、まずは《凪と愉快な仲間たち》にでもしておこうぜ」
鈴ちゃんがつっこむ。
「主張が強いのは先輩でしょう? ついでに一番愉快なのも先輩です」
「愉快なのは鈴ちゃんもさ。リアクション担当なんだし」
「あたしはリアクション担当じゃありません」
凪はやれやれと肩をすくめる。
「しょうがない。そういうことで、ここは適当に、《星の旅人たち》ってことにしますか」
「どういう意味ですか?」
小首をかしげる鈴ちゃん。
「ぼくらは星にまつわるアイテムを集める旅人だからね」
「まあ、仮でそれにしておこうか。いつまでも、パーティー名の部分が《パーティー》っていうのも微妙だし、変更はいつでもできるわけだしさ」
「そうね。わたしもいいと思う」
俺と逸美ちゃんが賛成すると、鈴ちゃんも同意した。
「あたしもいいですよ。先輩にしてはおかしな名前じゃないですし」
「ぼくにしてはってどういうことさ。やれやれ。じゃあ変えておくね」
と、凪が自分のメニューを呼び出し操作した。
これで、俺たちパーティーの名前は、暫定で《星の旅人たち》になった。
「ところで凪」
凪が振り返る。
「なんだい?」
俺は凪に質問した。
「おまえ、エマノンくんのこと、知ってただろ」




