第三章7 『テイマー少女と進化論』
俺たちがゲットした《ルミナリー》を問われた。
逸美ちゃんが回答する。
「昨日、《ソロモンの宝玉》を。まだ始めたばかりなので、それだけですけど」
すると、彼らは驚いた。
「マジかよ! すごいな、キミたち」
「へえ! やる~」
タラコさんとドールさんの反応は良いみたいだ。
メロディさんは冷静に振り返って、
「おれたちが入手した中で一番の難関は、その《ソロモンの宝玉》だった。それも、ボス戦ではおれたち六人と仲間のモンスター一匹で、なんとかギリギリ」
「見かけによらず、強いんだな」
と、ツナミさんが感心する。
ドールさんはツナミさんの言葉にうなずき、
「始めたばかりでそれなら、素直に賞賛するわ。ワタシたちが入手した《ルミナリー》は、《暗黒点の矢》、《ソロモンの宝玉》、《黒金の翼》、《黄金の聖杯》だからさ」
どうやら、《旅兎六人衆》の人たちには、実力を認められたみたいだ。
それにしても、この人たちも《ソロモンの宝玉》を手に入れていたなんて、結構強い人たちみたいだ。俺たちがゲットする前に《ソロモンの宝玉》を入手していたのは、三組ほどしかいないと言っていたし。
「謎を解いたのは、開さんですね?」
エマノンくんが微笑をたたえて聞いた。
「なにをわかりきったことを」
やれやれと肩をすくめる凪にエマノンくんは笑って、
「あの神殿に入る謎や最下層のボスにたどり着くための手順は、決して簡単ではありませんでしたからね」
「旅兎の中でも、キミが解いたわけじゃないだろ?」
フランクな調子で凪に聞かれて、エマノンくんは首肯した。
「ええ。解いたのはツナミさんです」
「いや、ボクだけじゃ解けなかった。正直、エマノンの情報収集能力と分析力に導いてもらったって感じだったよ」
と、ツナミさんが苦笑した。
「そんなことありません。メロディさんがうまくヒントを拾ってくれたおかげです」
メロディさんは首を横に振り、クールに言う。
「実質、エマノンがうちのブレーンだからな。他のクエストだってエマノンの力なしじゃクリアできなかった」
「ふふ。そんなことありませんよ。ボクらだってクリエイティブな方面はメロディさんに頼りっきりですしね。さて、褒め合いはこのくらいにして、話を進めましょう。ツナミさん」
エマノンくんに言われて、ツナミさんは改めて尋ねた。
「そういうことで、我々はキミたちの実力は高く評価している。キミたちには、確かな頭脳もあると断言できる。どうだい? いっしょにドラゴンと戦ってくれないか?」
「可能ならば、開さんの頭脳だけも欲しいくらいです」
と、冗談を交えたようにエマノンくんが微笑む。
だが、正直、誘いに乗るつもりはない。
凪が胸を張って答える。
「ぼくたちは、自分たちだけでクリアするんだ。悪いけどお断りするよ。それに開は誰にも渡さない。ぼくの相棒だからね。ただ、誤解はしないでくれ。好意はありがたく思う。前にオカマの人に誘われたときもお断りしているんだ」
ツナミさんは苦笑して、
「残念。キミたちなら大歓迎だったんだけどな。これ以上ない逸材だと直感していた。しかしそれなら仕方ない」
「てか、オカマってマジかよ! 怖ェな!」
と、タラコさんが顔をゆがめる。
「ええ、まったく。ぼくも縮み上がったよ」
「だよなー」
うんうんとタラコさんがうなずいていた。
ここで、鈴ちゃんがホタルちゃんに目を向け、尋ねた。
「あの。そのウサギのモンスターって、ミクロップとも違いますよね?」
ホタルちゃんが答える。
「違いますよ。この子は、マクロップ。ミクロップの進化形です」
「し、し、進化形!?」
驚き過ぎて鈴ちゃんがのけぞっている。
「はい」
淡々と答えるホタルちゃんに、凪は聞いた。
「この世界のモンスターって進化するのかい?」
「しますよ。いっしょに戦って一定以上の経験を積むと進化が起こります。プレイヤーだけでなく、モンスターにもレベルシステムはありませんが、バトル回数に応じてモンスターが強くなると言われています」
ツナミさんがこのあと引き取って言う。
「敵の強さに応じて経験値が多く入るのか回数準拠なのかは、ハッキリとわかっていないんだ。でも、うちのマクロップはだいぶ前にミクロップから進化した」
さらにエマノンくんが補足する。
「一般的にこのゲーム内では、モンスターを育てて連れ歩いているプレイヤーをテイマーと呼ぶんです」
ドールさんがチラとホタルちゃんを見て、
「で、ワタシたち《旅兎六人衆》の中ではその子がテイマーなのね。ミクロップに一目惚れして、どうしても育てるってきかなくて」
「ホタルちゃんしばらく動かなかったもんな」
と、タラコさんが笑った。
「だって、ほしかったから……」
ホタルちゃんが頬を朱に染めてぽつりと言った。
ツナミさんは優しい笑顔でホタルちゃんを見て、それから鈴ちゃんに言った。
「でも、おかげでいまじゃボクたちの心強い仲間さ」
「テイマー……」
と、鈴ちゃんがつぶやく。
エマノンくんの言っていたテイマー。
うちのパーティーでは、鈴ちゃんがそれに該当する。
「じゃあさ、ハネコは進化するのかい?」
凪が聞くと、ツナミさんは言った。
「ハネコは持っている人が少ないから情報もほとんどないけど、進化しないと思うよ。ハネコの図鑑ナンバーの次は別種のモンスターだから」
「なんだ、残念」
残念がる凪に対して、鈴ちゃんはほっと胸を撫で下ろす。あの可愛らしいフォルムが好きなのだから、姿が変わったらショックな気持ちもわかる。
「じゃあ、ティラコは進化しますか?」
好奇心で俺が尋ねる。実は、恐竜とかが好きな俺は、ひそかにティラコを気に入っていた。連れて歩けないのは残念だけど、その辺は気になる。
「ティラコは進化するよ。ティラコは二回進化するんだけど、誰もが最初に仲間にできる反面、最終進化をするにはかなりの根気とバトル経験が必要なんだ。最終進化は相当強いと聞く」
「へえ! そうなんですか」
もったいないなぁ。ひとりのプレイヤーにつき一匹連れ歩ければ、ティラコの最終進化が見られたのに。
凪がエマノンくんに呼びかける。
「でさ、うさくん」
「うさちゃんはこっち」
と、小さな声でホタルちゃんが言う。どうやら、ホタルちゃんはマクロップのことを「うさちゃん」と名前をつけて呼んでいるらしい。
「おう。そうかい。でさ、こういう進化形のモンスターもこの先登場するのかい?」
凪に聞かれて、エマノンくんが答えた。
「いえ、進化形モンスターは野生では出現しないんです。進化しないモンスターが多いですけどね」
鈴ちゃんがほっと胸を撫で下ろす。
「よかったぁ。この辺のモンスターは強いから、ちょっと苦戦してたんです」
「これ以上、進化形とか強いモンスターが出たら大変よね~」
と、逸美ちゃんが苦笑いを浮かべた。
しかし、ツナミさんが首をひねる。
「この辺のモンスターに苦戦? カドゥケウスを倒したキミたちが? セオリー通りに相性を突けば難しくないのに」
「相性?」
俺たちがその単語に反応すると、ツナミさんが理解したように聞いた。
「なるほど……。キミたち、属性相性を知らないね?」




