第三章6 『旅兎六人衆と木こりの家』
《ドラゴンの涙》がある街を目指す道すがら。
キヘイアリの襲撃を返り討ちにした俺たちは、小さな宿屋のような家に行き、そこで休憩することにした。
《木こりの家》
看板にはそう書かれていた。
小さな木こりのおじさんが出迎えてくれた。
「休みたかったら、おらの家さで休んでいってけれ」
ここは宿屋のような感じなのだろうけど、《木こりの家》が普通の宿屋と違うところは、休むためにゴールドを支払わなくてよい点だ。
個室ベッドまでは借りずに、俺たちは少しだけソファーに座って休憩する。
その近くでは、他のプレイヤーもいた。
六人組のギルドだ。
彼らは二十代を中心とした男性四名女性二名のグループ。
いや、俺や凪と変わらない年の男の子と女の子がいる。
男の子はひょっとしたら俺より一つか二つ年下か。賢そうだ。
女の子はおとなしそうな雰囲気で、その子の膝の上には、さっきのミクロップとも違ったウサギ型のモンスターがいた。可愛らしいけどミクロップよりずっと大きい。十センチしかなかったミクロップに対して、一般的なウサギより二回りは大きい。それに耳の数も多い。
凪は彼らに気づくと、気安く手をあげた。
「よ。いたのか」
ふっと男の子が穏やかに微笑み、女の子は人見知りなのか目をそらせる。
「やあ。キミたち、ちょっといいかい?」
社交的な雰囲気のする青年に声をかけられ、俺たちは応じる。
「はい。なんですか?」
「ボクの名前はツナミ。我々は六人で旅をしてるんだ。ギルド名は《旅兎六人衆》。この世界じゃちょっとは有名なんだけど、聞いたことあるかい?」
凪は正直に首を横に振る。
「ないよ」
「あはは。そうか。正直でいいね」
そういえば、この人たちのパーティーにもギルド名があるのか。俺たちパーティーにはギルド名なんてなかった気がする。あとで考えてみてもいいかもしれない。
「それから、そこにいるのがメンバーさ」
ツナミさんが振り返って《旅兎六人衆》を見やる。
「オッス! オレはタラコ。二十七歳だ。よろしくな」
タラコさんはこの中だと明るい性格なのだろう。ハットをかぶっているのが特徴で、大柄な人だ。
「ワタシはドール。ていうか、タラコ。歳は言わなくてよくない? ワタシの年齢はご想像にお任せします。よろしく」
ドールさんは落ち着いた感じのお姉さんだ。
しかし、ドールさんの挨拶に反して、横からタラコさんが「ドールはオレより三つ下だ」とご丁寧に教えてくれた。知りたい情報でもなかったけど。
「ちょっと言わないでよ」
「別にいいだろ? 敬語使うべきかわかるしよ。ツナミが二十五で、メロディが二十二、ホタルが十七、エマノンが十六だ」
と、タラコさんが順番にメンバーを指差し、顔と年齢を照合させてくれた。
「これだから体育会系は……」
顔を押さえて嘆息するドールさんだった。
「てことで、おれはメロディ。大学院生だ。よろしく」
メロディさんはヘッドホンをしているメガネの青年。なんとなく、メロディさんはこの中でもなにかしらの役割をきっちり果たしそうな感じがする人だ。
「ホタルです。よろしくお願いします」
「ぼくたちも十七歳なんだ。ホタルちゃん、ぼくらのことは気軽に開と凪って呼んでよ」
ホタルちゃんはやや恥ずかしそうに膝に乗せたウサギで顔を口を隠して、
「うん。開くん、凪くん」
凪によって、俺と凪の自己紹介も同時に終えてしまった。
残るエマノンくんが穏やかに微笑する。
「ボクはエマノン。よろしくお願いします。ツナミさんをリーダーとしたこの六人が、ボクたち《旅兎六人衆》になります」
品のあるくせ毛がどこか凪に近しい空気を醸し出しており、この短い会話と話しぶりからも理路整然とした賢さが伝わってくる。
「エマノンって名前なのか。へえ」
興味を持ったらしい凪がそう言うと、エマノンくんは優雅に切り返す。
「たいした意味はありませんよ」
「そりゃそうだ」
うなずく凪を見て、エマノンくんはふふっと笑う。
確かに、エマノンは英語で書くと「NO NAME」を逆さから読んだってだけの言葉遊びだ。
今度は逸美ちゃんが挨拶した。
「わたしは逸美です。開くんより二つ年上のお姉ちゃんです。よろしくお願いします。うふふ」
「鈴といいます。十五歳です。この中だとあたしが最年少ですね。よろしくお願いします」
鈴ちゃんも簡単に自己紹介すると。
ツナミさんが切り出した。
「さて。挨拶も終わったところで、本題だ。ボクらは六人で《ルミナリー》のアイテムを集めている。キミたちも《ルミナリー》を集めてるんだろう? さっきそこで、キヘイアリと戦っているところが見えたよ」
「ええ。集めてますよ」
と、逸美ちゃんが答える。
しかしなるほど、魔王の刺客と戦っているところを見られたら、俺たちが《ルミナリー》を集めていると気づけるのか。それも、自分たちも《ルミナリー》を集めていて、ひとつ以上入手し、それが魔王から刺客を送られるようになるという条件を知っていたらだが。
ツナミさんはにこりと笑みを浮かべた。
「やっぱりそうか! ちょうどよかった。実は、ボクたち《旅兎六人衆》はすでに四つのアイテムを集めた。だが、次に狙っているのは、《ドラゴンの涙》。あれは最難関クエストだ。最大規模のギルドである《七星連合》が精鋭をそろえて大人数で挑んでもドラゴンに勝てなかったらしい」
「ドラゴンは相当強いって聞いてます」
と、俺は相槌を打った。
「ああ、そうなんだ。ドラゴンは強い。ドラゴンの吐く炎は人を石に変えてしまう。これまで挑んだプレイヤーは何人も石に変えられた。ボクたちは自分たちだけでクリアしたかったけど、さすがにドラゴンだけは厳しいだろう。だから、ボクら《旅兎六人衆》と《ドラゴンの涙》をいっしょに狙わないか? 一時的に手を組もうって相談だ。分け前は応相談。その前に、ちょっと実力は見せてもらうけど」
矯めつ眇めつ、彼らは俺たち四人を見る。
「実力って……」
鈴ちゃんが不安そうにすると、ドールさんが聞いた。
「ちなみに、あなたたちは《ルミナリー》のアイテムを、なにかひとつでも手に入れたことあるかしら? 誰でもゲットできる《暗黒点の矢》は除いて。これ以上の交渉と情報交換はそれからよ」




