第三章4 『警鐘と提唱』
《イーリスの酒場》
この街の酒場も、《ドレスフィア》にいたイーリスさんと同じ顔をした人が営む《イーリスの酒場》だった。
「きっとイーリスは名字で、そっくりの姉妹なんだろうさ。よくある設定だよ。ほら、リボンの色が違うだろ」
「色だけ変えて、同じ役割のキャラクターをかさ増しするパターンね。魔法屋のおばあさんもそうだったわね」
と、逸美ちゃんが納得する。
俺の好きなゲームでも、あえて同じ見た目のキャラクターが同じ役割で登場することはあるからな。これもお約束ってやつだろうか。
さて。
さっそく、酒場で他のプレイヤーと話してみる。
そして驚いた。
「《ソロモンの宝玉》を手に入れたんですか。あれを手に入れた人は他に何組かしかいませんよ。三組だけかな。簡単な《暗黒点の矢》で軽く五十組以上はいます」
「五十組以上?」
と、つい俺は声を上げてしまった。
「ええ。おれも持ってますよ。長い人でもう三ヶ月くらいはプレイしてますからね。《ソロモンの宝玉》は少ないほうですが。《氷雪の指輪》が二組、《黒金の翼》が八組、《黄金の聖杯》で十組だったかな。でも、まだ達成されてないクエストが二つもあります」
「それはなんですか?」
「《ドラゴンの涙》と《世界樹の花》。《ドラゴンの涙》は、ドラゴンのあまりの強さに入手を諦めているプレイヤーがほとんどです。《世界樹の花》はイベント発生条件を探して頑張っている人も多いかな」
まあ、《ドラゴンの涙》をドラゴンスレイヤーである《魔剣グラム》なしにクリアは難しいだろう。もうひとつの《世界樹の花》については気になるところだ。
青年は苦笑いを浮かべて、
「おれみたいにゲームクリアは諦めて楽しんでるだけのプレイヤーが一番多いと思うけど、もし《ドラゴンの涙》に挑戦するなら強い仲間を募ることをオススメします」
「はい。ありがとうございます」
お礼を述べると、青年は呼び止めるように警鐘を鳴らした。
「あ、あと! 最大勢力を誇るギルド《七星連合》。彼らの中には、自分たちが持っていないアイテムを持つギルドに出会うと、それをかけたデュエルを申し込む派閥があることで知られています。二組しかゲットしていなかった《氷雪の指輪》も、デュエルでとあるギルドから奪ったそうです。彼らには気をつけたほうがいい」
「好戦的な人たちなんですね」
「まあ、《七星連合》全員ではありませんし、ほんの一部です。デュエルを申し込まれても、断ればいいのですが。とはいえ、なにも向こうだって理不尽な交渉をもちかけるわけじゃなく、互いに持っていないアイテムをかけるそうです」
「なるほど。それなら確かに、デュエルを受ける価値があると考えるプレイヤーも多いだろうな」
俺の言葉に、凪は続けて言う。
「VRMMOーーつまり複数のプレイヤーが同時に同じ世界を遊ぶことになるわけだから、制作者も、ゲームの幅を広げるためにその辺も意識しているだろうさ」
逸美ちゃんも納得して、
「そっか~。理不尽のないゲーム性のためにも、デュエルはちゃんと断ることもできるようになってるのね!」
「ええ。そうかもしれませんね。今後、あなたたちもデュエルをもちかけられることがあるかもしれませんが、それを好機とみるかはあなたたち次第ですよ」
最後に青年からそんな話を聞いて、俺たちは酒場を出た。
「まさかすでにあの海賊たちを倒して遺跡の謎も解き、カドゥケウスまで倒して《ソロモンの宝玉》を手に入れた人たちが三組もいたなんてね~」
「なんかちょっと複雑ですね」
凪が頭の後ろに手をやって歩く半歩後ろから、鈴ちゃんが言った。
逸美ちゃんと俺は二人の後ろで、
「《暗黒点の矢》なんて五十組もいるみたいだしね。次はどうするか迷うわね。簡単なところか難しいところか」
「どうせ全部クリアする予定なんだし、道なりに進めばいいよ。ただ、せっかくならまだ誰もクリアしてないクエストをやりたいよね」
俺がそう言うと、凪はくるっと振り返って、人差し指を立てて言った。
「となると、《ドラゴンの涙》だね。ぼくもドラゴンは見てみたい。《七星連合》についても気になるが、現状ぼくらがアンテナを張ることもないだろう。ぼくたちはぼくたちで、まずは道しるべを聞きに、占いの館に行っておこうぜ」
占い師アナンの館。
アナンさんは水晶に手をかざして、占いを始めた。
「これからあなたたちが向かうべきは、北です。出会いがあるでしょう。また、北の街のさらに北の谷へゆくと、綺麗な涙が見られるとお告げがあります」
提唱されたのは、北の谷。
「なるほど。つまり北の谷で《ドラゴンの涙》をゲットできるってことらしい」
凪は納得すると「バイバイ」と手を振ってすぐに館を出た。鈴ちゃんと逸美ちゃんも出たところで、俺はチラとアナンさんを振り返る。
「どうされました? 他の道がよろしかったですか?」
「いえ。そういうわけでは。あなたは……」
「そうですか。ならば、北へおゆきなさい。北での出会いはあなた方にだけにある邂逅です。もしまた迷ったら、そのときはここを訪れてくださいね」
俺は言葉を続けようとしたが、遮られた。
――あなたは、本当にただのNPCですか?
そう聞きたかったけど、やっぱりやめた。島出流くんが作ったAIかとも思ったけど、他にもコルナやイーリスなど、受け答えが普通以上にできるNPCはいた。彼女は占いで先が見えているから特別に感じたが、そんな質問にはさすがに答えられまい。
むしろ、俺たちがすでになんらかの条件を満たしており、そのため誰か特殊なキャラクターに出会えるイベントが発生するだけ、とも読み取れる。
なので、短くアナンさんに返答する。
「はい。また」
三人に遅れることしばし、俺は占いの館を出た。




