第三章3 『命のねじ』
《マグナマキナ城》前。
一度、門をくぐり抜けたことがあったからか、門番は俺たちに質問することもなく、さらりと入城できた。
城内に入り、ここでも、《ソロモンの宝玉》入手前後でなにか変わったことはないか探してみたけど、特になにもなかった。
「おそらく、この街については、王様に《命のねじ》を届けるかどうかってことでしか変化は起こらなそうだね」
凪の言葉にうなずく。
「だろうね。あとは王の間だけだ」
「王様のからくりロボット、よみがえるといいわね」
逸美ちゃんがつぶやくと、鈴ちゃんが明るく言う。
「きっとよみがえりますよ」
「そうさ。行こうぜ」
そして、凪を先頭に俺たち王の間にやってきた。
王の間。
俺たちを待ちわびていたように、王様が招き入れてくれた。
「おお! そなたたち、戻ってきてくださったか。それで、どうでしたか?」
凪が答える。
「ちゃんとゲットしてきたぜ」
「それはまことですか!」
王様が嬉々とした声を上げる。
「はい、《命のねじ》」
アイテム覧から取り出した《命のねじ》を、凪が差し出した。
ありがたそうに王様がそれを受け取る。
「これが、あの《命のねじ》か。美しい黄金色の輝きは、話に聞いていた通りだ」
《命のねじ》に見とれる王様だったが、我に返って、俺たちに言う。
「さっそく試してみます」
「王様」
と、兵士がとあるからくりロボットを持ってきた。
からくりロボットは、俺より少し背が低い人型だった。顔の造りや肌の色は人間らしくない、いかにもロボットのシルバーのメタリックフォルム。
さっそく、王様はからくりロボットの背中に《命のねじ》を差し込み、ぐるぐるとねじを回した。
すると。
ギギィー
目を開け、からくりロボットが動き出した。
「これは、王様!」
「そうだ。ワタシだ。本当に、よみがえったのか!」
「なんの話ですか?」
「おまえはずっと眠っていたのだ」
「眠っていたのですか?」
自分がずっと眠りについていたことを知らないからくりロボットに、王様は丁寧に説明をしてやった。
そのあと、王様は俺たちに頭を下げた。
「見ての通り、わしの友人のからくりロボットは、よみがえりました。これもあなた方のおかげです。ありがとうございました」
「いいえ」
「よかったですね」
俺と逸美ちゃんが言って、鈴ちゃんも笑顔でうなずく。
凪は飄々としたもので、からくりロボットと遊びながら王様に言う。
「彼がよみがえって、喜ばしいね。からくりとはいえ、ロボットとはいえ、まぎれもない命だからさ」
「ええ。本当に。かけがえのない命です」
朗らかな表情をみせる王様。
王妃様も俺たちにお礼を述べた。
「あなた方のご活躍のおかげです。わたくしからもお礼を言わせていただきます。ありがとうございました」
「褒美と言っては差し出がましいですが、わしからのせめての気持ちを受け取ってください」
「もちろん」
凪はからくりロボットからくるりと身をひるがえして、期待の眼差しを向けた。まったく現金なやつだ。
王様は、兵士からなにか袋を受け取った。
受け取った袋を、凪に手渡した。
「《機運のからくり時計》です」
もらった袋を開けて、時計を取り出す。
見たところ普通の懐中時計で、手のひらサイズ。綺麗な銀色を基調とした、青い秒針の時計だ。
「王家に伝わる宝のひとつ、オートマタの傑作と言われています。この《機運のからくり時計》はゼンマイ仕掛けで動きます」
王妃様から説明を受けるが、凪は小首をかしげる。
「つまり、ゼンマイを回さないと動かないのかい?」
「はい。あなたがこれを手にしたこの瞬間から、使用できるのはあと3回だけです」
俺は聞いた。
「使うとどんな効果があるんですか?」
「ゼンマイを回した時間だけ時を戻します。ただし、あなた方がその時計を初めて手にしたこの時間より前には戻れません」
「どれどれ」
と、凪がからくり時計の竜頭についたゼンマイを回すと、ドラムロール型の時刻入力ダイヤルがポップアップ表示された。
「これで好きな時間を入力するわけだ」
この王様は、AIの中でも知能が高いのか、自然に会話をするように解説を加える。
「その通りです。入力した時刻は保存されますので、使用する前にあらかじめ登録しておくとよいでしょう。あとは、竜頭をカチカチッと二回押せば、指定した時間に戻ることができますよ」
凪は納得を示す。
「へえ。なるほど、それほどの代物か。ゲームじゃたまにあるんだよね、時間を戻すアイテムって。戦闘中に使うと、戦闘が開始された時間まで戻す、とかさ」
「効果は戦闘の時だけに限りませんよ。戻れる時間は最大であなたがその時計を手にした瞬間まで」
王様に続けて、王妃様が補足する。
「戻る時間の重複もできます。今日が八月三日ですが、八月六日に使用して四日に戻り、そのあと五日になったら今度はさらに跳んで三日に戻ってくる、ということが可能です。ただし――その際、使用回数は六日に使った分も引かれて、残り使用回数はあと一回になります」
俺は顎に手をやって、
「要は、《機運のからくり時計》を使用する前の時間に戻ったからといっても、使った分はちゃんと差し引かれるってことですね」
「ええ。その通りです」
鈴ちゃんは手を組んで、
「それってすごいアイテムじゃないですか。大事に使いましょうね」
「ふふ。そうよね。大事に使わないと」
逸美ちゃんもにこやかにそう言う中、俺は凪の手を押さえる。
「おまえ、いま使おうとしなかったか?」
「まずは試してみようかと」
「絶対ダメ!」
と、俺と鈴ちゃんが声をそろえて注意した。
凪はふっと笑った。
「冗談だよ。こんな貴重なアイテム、使わないでクリアするつもりで使わないとね」
「どっちみち使うのかよ」
「もったいないだろ?」
「ま、まあ……」
ということで、俺たちは王様と王妃様とからくりロボットに挨拶して、王の間を出ることにした。
「またいらしてください」
「お待ちしております」
二人に凪が「さようならー」と手を振って、俺たちは《マグナマキナ城》からも出た。
城下町にて。
俺はぽつりとつぶやく。
「でも、現実の時間とリンクしてるのに、ゲーム内の時間だけが戻ったら、どう整合性を取るんだろう」
「《機運のからくり時計》の話かい?」
「ああ」
やれやれと凪は肩をすくめて、
「ゲームなんだからどうとでもなるよ。おそらく、戻りたい時間にいた場所まで移動し、使ったアイテムやゴールドを使わなかったことにするとか、ぼくらパーティーにとってのリセットでしかないって」
「そんなところが妥当ですよね。他のプレイヤーさんもいますし」
鈴ちゃんも難しい顔でうなずく。
「説明文にも書いてあるぜ。ほら」
確かに、凪が見せてくれた説明文にも『振り出しに戻す時計。好きな時間まで戻せる。3回まで使用可能。効果は使用者のパーティーメンバー全員に適用される。また、使用者のパーティーとの関わりを持ったすべての者や物から、事実関係をなかったことにする』と書かれている。
俺は納得する。
「なるほど。メカニズムとして、時間そのものは戻せないけど、関わった人たちにとっては、俺たちが《機運のからくり時計》でさかのぼった時間の分の出来事がなかったことになるんだね」
凪が補足を加えた。
「関わりを持ったすべての者や物、という表現から、やはりモンスターやボスにも効果はあると考えられる。ついでに、物は物質、すなわち壊れた物質も元の状態に戻るってことだろうさ」
「壊れた物質といいますと?」
鈴ちゃんに聞かれて、凪は人差し指を立てて具体例を挙げる。
「たとえば、ぼくらがバトルやらなにかの拍子でお城の壁を破壊したとするだろ? しかし、《機運のからくり時計》で時間を戻せば、関わった物であるお城の壁も元の破壊される前の状態に戻るって寸法さ」
「そういうことですか!」
ポンと鈴ちゃんが手を打った。
「いろんな使い道が考えられるアイテムよね。でも、とにかく。まずは《機運のからくり時計》を使わないでクリアできるように、普通にゲームを楽しもう?」
逸美ちゃんに優しい笑顔でそう言われて、俺は笑顔を返す。
「そうだね」
「さあ、そうと決まったら酒場で情報収集して、またアナンさんのところへ占いに行こうぜ。次の行き先を教えてもらうんだ」
凪が声をかけ、俺たちはまず、酒場に向かった。




