プロローグ 『物語は自分の部屋から』
RPGの主人公は、自分の部屋から物語を始めることが多い。そこが主人公にとっておなじみの場所であり、日常だからである。
そして主人公は、物語の始まりと共に、非日常の世界に飛び込むのだ。
「だから、キミの物語はキミのこの部屋から始まるのさ」
なるほど、と俺は納得する。
でも。
「俺はなんのゲームも始めてないぞ」
「いいや。これから始まるんだ」
そう言って笑うこの少年は、俺の中学時代のクラスメートである。
名前は柳屋凪。
現在は俺と別の高校に通っている高校二年生。身長も俺と同じくらいで一六八センチってところ。細身で、ブリティッシュボーイのような品のあるクセっ毛の髪を持ち、整った柔和な顔をしている。
この日、なぜか凪が俺の部屋で昔のゲームをしたいと言い出したので、仕方なく準備してやったのだ。
「それにしても、なんで俺の部屋まで来て昔のゲームをやろうなんて思ったの?」
凪は肩をすくめて、
「たまに昔のゲームをやりたくなる気持ちが、キミにはわからないのかい? ぼくはまた昔のようにキミと遊びたい気分になっただけだよ」
俺はジト目で反論する。
「悪いけど、俺はおまえとこうやってこのゲームをして遊んだことなんてないぞ。だいたい、RPGってひとりでやるものだろう?」
「そうだね。この手のRPGは、ひとりでやることでよりその世界に入り込めるからね。でも、ぼくたちふたりでやったらもっと楽しいと思わないかい?」
「思わないよ。終わったらさっさと帰れよ。俺は宿題をしないといけないんだ」
昔ながらのRPGはひとりでしかできなかったけど、最近ではネットを通して複数人で冒険するなんてよくある話。
俺は凪ほどゲームやネットに詳しくはないけど、昔は色々やったし、いまだって凪に誘われて始めたスマホ向けゲームとかはヒマ潰しにちょくちょくやる。携帯型ゲーム機でも有名作はやったりもするしね。いまの時代、ゲームをまったくやったことのない人のほうが珍しいくらいだ。
凪はゲーム画面を見ながら飄々と言った。
「キミだったら、どんなRPG世界の中に入りたい?」
俺は即答してやる。
「入りたくはないよ。いま忙しいし。そういう凪は?」
凪は嬉々として言った。
「ぼくは剣と魔法のファンタジー世界さ! やっぱりRPGといえばこれでしょ。巨大な鳥の背中に乗って大空を飛んだり、船で大海原を冒険したり、遺跡でお宝を探したり、ドラゴンを退治したり、天使や妖精の国に入ったり、他の強いプレイヤーたちと戦ったりさ。時空を飛び越えるSFイベントもいい。天空に浮かぶお城とかもロマンがあるね。地底湖や世界樹とかも欲しいかな。そして忘れちゃいけないのがフィナーレ。最後にパーティーみんなで、魔王を倒す。これぞファンタジーの王道さ」
まくし立てるような凪の口上を話半分に聞き流していたけど、俺は優しく相槌を打ってあげた。
「そういう冒険も楽しそうでいいかもね」
「ああ。最高だ」
凪は楽しげに言葉を継ぐ。
「でもさ。他にぼくらにとってのおなじみの場所って言ったら、やっぱりあそこだね。探偵事務所! 高校生にして少年探偵をしているキミがいつもいる場所だし、ぼくだって少年探偵団の仲間としていつもいっしょにあそこで過ごしているだろ? もしキミがRPGの主人公になったら、謎解きとかしそうだ」
俺の名前は明智開。
世間から探偵王子と呼ばれている。俺が探偵王子であることを知っている人はほとんどいないけど、凪はそれを知っている数少ない人間だ。
むしろ凪は、「開の相棒」を自称し、いっしょに事件を解決に導いたことが幾度もある。それは、こんな調子でマイペースな変わり者だけど、凪が情報屋をしているからだ。情報収集能力が高く、探求心が強い。探偵をしている俺と情報屋をしている凪は、どっちかというと、友達ってよりは仕事仲間だと俺は思っている。俺たちは少年探偵団のメンバーでもあるのだ。少年探偵団のみんなの話はまたあとでするとして。
話を元に戻そう。
「大抵クエストとかダンジョンとか、謎解き要素は多少あるって」
「それもそうなんだけどさ。開なら、ただ武器やステータスだけじゃクリアできないゲームをもクリアできそうだなと思ったんだ」
俺は揶揄するように言ってやった。
「それを言うなら、情報屋をしてるおまえのほうがすぐ攻略しそうだよ」
凪はあははと笑って、
「つまり、ぼくとキミが組めば最強ってことだね」
「俺はおまえに振り回される映像しか浮かばないよ」
と、苦笑した。
テレビに映ったゲーム画面を眺めている俺の横で、凪は大きく伸びをした。
「もうすぐ夏休み。今年もいっしょに、たくさんゲームしようぜ」
「去年はいっしょにゲームなんてしてないだろ。それより、凪は宿題やらなくていいのか?」
凪はのんきに笑った。
「大丈夫大丈夫~。お母さんみたいなこと言わないでよ」
このとき、俺はまだ知らなかった。
俺たちが本当に、ファンタジーゲームの世界に入ることになるなんて。
ゲームの名前は、
《ルミナリーファンタジー》
以下、本編に掲載しているイラストの一部を抜粋。
第一章16『冒険者が集うドレスフィア』より
第一章22『衣装チェンジⅡ』より
第一章27『ドレスフィア散策』より
第二章3『迷いの森』より
第二章11『機械仕掛けのマグナマキナ城下町』より
第二章23『神殿への入り方』より
第二章28『蛇神カドゥケウス』より
第三章28『黒竜ファフニール』より




