第二章25 『ゴダン神殿の地下』
地下。
今度は、さっきまでとは感じが違う。
この階の全体を、見渡すことができるのだ。
いくつかの島に分かれていて、それぞれが橋でつながるようになっている。島と島の間は水で満ちているので、橋を渡らない限り、泳がないと移動できない。
けれど、現在、橋がかかっている島とかかっていない島があった。
それぞれの島の中央には、スイッチもある。
ちなみに、俺たちがいまいる島には、橋がかかっていない。
「おそらく、このスイッチを押すと橋がかかるんだ。スイッチを押して出現する橋を切り替えて、必要な橋を渡って行くんだよ」
「わたしたちのいる島からは橋もかかってないし、とりあえずスイッチを押して行くしかないわよね」
俺と逸美ちゃんの言葉に、凪は行動で答える。
「ポチッとな」
凪によって、スイッチが押された。
すると。
俺たちがいる島に橋がかかった。島の地面から、橋が飛び出すような形といえばわかりやすいだろうか。
「まずは渡るしかないですよね」
橋へ向かう鈴ちゃんを引き止める。
「ちょっと待って」
「なんですか?」
俺は凪に水を向ける。
「凪、もう一度スイッチを押してくれる?」
「ほい。ポチッとな」
すると。
今度は、さっきとは別の橋が飛び出した。
俺たちのいる島でいえば、左右から橋が飛び出す場所があり、一度目のスイッチでは右が、二度目は左側が飛び出した。その際、反対側の橋は引っ込む。つまり、どちらかしか橋が出ないようになっている。
「なるほど、そういうことですか」
納得する鈴ちゃんを横に、凪は何度もスイッチを押した。
「ほい、ほい、ほい」
その結果――
俺たちの島において、初期状態だけが橋が飛び出しておらず、そのあとはスイッチを押す度に左右どちらかの橋が飛び出し、もう片方が引っ込む。その繰り返しだった。
島を移動したとき。
また新たなモンスターが現れた。
ゴースト。
デフォルメされた幽霊のモンスターだ。
帽子をかぶったような風貌で、身体は紫色。ハロウィンをイメージさせるようなオレンジ色のリングもある。また、赤い目玉が二つと、帽子のつばにもう一つ。三つ目で見られているみたいだ。
「ひぃ!」
鈴ちゃんがまたおびえているが、凪はやれやれと肩をすくめる。
「どのゲームでも、典型的な幽霊モンスターの名前はひねりなくゴーストなんだよな~。このゲームでもそうでしたか。まあ、可愛いからいいけどね」
「《雷火》」
凪がしゃべっている間に、俺が魔法で倒す。
「おお、開ってば仕事が早い」
「幽霊のモンスターは急に出てくるのが厄介だな」
「仲間にしたら強そうだけどね」
うふふ、と逸美ちゃんが笑った。
鈴ちゃんはハネコを抱きしめたままつぶやく。
「幽霊のモンスターは、ゲームなら可愛いけど実際にいたら嫌です」
そんな鈴ちゃんに、凪はぼそりとつっこんだ。
「まあ、ここもゲームの中なんだけどね」
他の島の場合も同様で、それによって、つながる橋とつながらなくなる橋が出てくる。
「つまり、うまく組み合わせて、下への階段がある島へ行くってことだな」
「そうね。あそこの島に行かなくちゃね」
と、逸美ちゃんが指差した。
俺たちがいる島から対角線上にある、一番遠くの島だ。
「ま、考え過ぎても疲れるし、まずは適当に行くか」
凪が歩き出した。
確かに、やってみるほうが早いか。
さて、俺たちは一つ目の橋を渡った。
少しずつ階段のある島に近づいている。
橋を渡りながら、俺は逸美ちゃんに聞いた。
「そういえばさ、七曜では、ワシや二匹のオオカミってどの星の象徴なのかな?」
「オオカミは、普通は火星かな。軍神アレスの象徴だもの。ただ、太陽神アポロンもオオカミが聖獣のひとつになっているし、かぶっているものも多いわ。でも、二匹が対になっているのは、パッと思い浮かぶところでは、北欧神話のオーディンかな」
「オーディン?」
「水星――メリクリウやヘルメスに対応する神。ただ、北欧神話においては最高神。このオーディンは、ゲリとフレキという二匹のオオカミを従えていたの」
「なるほど。やっぱり」
「やっぱり?」
じぃっと逸美ちゃんに瞳を覗き込まれると弱いけど、しゃべるのをぐっと我慢する。
「いや、いまはまだ仮説段階だから言えない。それで、ワシは?」
「ワシはいろいろあるのよ。ゼウスが変身したり、プロメテウスをついばんだり」
プロメテウスの火の話は、前に別の事件のときに聞いたな。四大元素の相性について聞いたときと同じ事件だった。プロメテウスといえば、人間に火を与え、ヘルメスと並んで文化英雄でトリックスター的存在とされている。しかしそれだけで結びつけるのはやはり難しいか。
そう思ったが、逸美ちゃんは続けて言った。
「ワシはゼウスの聖獣だし、メルクリウスの象徴でもあるわ」
「それだ」
「ん?」
小首をかしげる逸美ちゃんだけど、いまは微妙なところだから言えない。
それから、「この《ゴダン神殿》の『ゴダン』だけど、オーディンのことをその名前で呼んだというのがあったような……。イタリアで書かれた歴史書でね――」とかなんとか、オーディンについての話を聞きながら、俺たちはまた、島を移動した。
一体何回スイッチを押したことだろうか。
何体のゴーストとコオニビを倒したことだろうか。
ついに。
俺たちは最後の島に到着した。
「やったぜ」
凪がトンとジャンプした。
「はあ、やっとですね」
「お疲れ様~」
鈴ちゃんと逸美ちゃんは少し疲れた様子だが、凪はハネコと遊びながらだからか疲れ知らずで、俺に振り返った。
「どうしたのさ、開」
「いや、結局こういうのってちゃんと考えたほうが早く辿り着けるなって思ってさ」
最初の島の段階から規則性を見つけて、ルートを頭の中でイメージしてから行ったほうが早かった気がする。
「いいじゃないか。頭使わなくても回数やればいけるんだからさ。どうせキミはこのあと頭を使うんだ。ちょっとは休めたかい?」
俺は苦笑で答える。
「別のこと考えてたよ」
主に、《ルミナリー》と《ソロモンの宝玉》の関係性について。どの星に当たり、どんな意味を持つか。
凪はやれやれと手を広げた。
「ぼくがちょっぴり頭を使って進めてやってるのに、別のこと考えていたなんて。のんきなもんだ」
ジト目を凪に送る。
「おまえは全然頭なんて使ってなかっただろ? ハネコと遊びながら適当に進んでたくせに。俺は七つの《ルミナリー》の欠片についてだな――」
「開は日頃から考え過ぎなんだよ」
「頭使うこと人に押しつけるやつが言うなー!」
「うわ~」
「待てー」
階段を降りながら凪が逃げるのを、俺は追いかける。
逸美ちゃんは後ろで小さく笑う。
「うふふ。二人共、いつも仲良しね~」
「逸美さん、笑ってないであたしたちも行きましょう」
「は~い」
そして。
俺たちは、さらなる地下に辿り着いた。
地下二階だ。
凪が急ストップして、俺は凪にぶつかった。
「いてて。急に止まるなよ、危ないだろ?」
いきなり止まってどうしたんだろう。
「開、ごらんよ」
「ん?」
見ると。
そこには、台座があった。




