第二章23 『神殿への入り方』
遺跡群の名前は、《空っぽの遺跡群》。
最初に《アルフベル》で買った地図を見ると、自動的にマッピングされていて、そう記されていた。
凪はさっさとひとりでこの《空っぽの遺跡群》のどこかの探索を始めてしまったけど、俺と逸美ちゃんと鈴ちゃんは凪を探しつつ先に進む。
うっすらと靄がかかっているから探しにくい。
すると、神殿が見えた。
《ゴダン神殿》
アーゴスにもらった地図によると、この神殿にお宝――すなわち《ソロモンの宝玉》があるようだ。
このエリアだけは、《空っぽの遺跡群》にある他の遺跡に比べて、造りがしっかりしている。ここだけはそれほど風化されたり壊れたりしておらず、先に見える神殿の入口の扉も、しっかり閉ざされていた。
遺跡の壁からは木も生えており、相当古い時代の遺跡であることが見てとれる。こんな光景、アンコールワット遺跡群でも見た覚えがある。
この《ゴダン神殿》は、《空っぽの遺跡群》の中でも特に神秘的なオーラが強い。
散乱するように転がった正六面体の石をよけながら進む。
ワシの形をした石像なんかもあり、いまにも動き出しそうな雰囲気がある。
「あ、扉がある」
「行ってみましょう」
俺と鈴ちゃんがそう言って、逸美ちゃんが「そうね」と答える。
しかし。
神殿の前に行ってみたが、扉には持ち手もなにもなく、開け方もわからなかった。
「どうしようもないね」
ぐいっと押しながらつぶやいた。うんともすんともいわない。
「そうね。けど、ここを進んだ先に《ソロモンの宝玉》はあると思うな。それにしても、凪くんはどこかしら」
「先輩、ホントに自由人なんですから」
と、鈴ちゃんは腕組した。
扉の前で悩んでいる俺たちの元に、足音が近づいてきた。モンスターや敵かもしれないので、一応、臨戦態勢を取っておく。
が。
近距離になるまで靄でわからなかったけど、凪だ。のんきに手を上げて、
「やあ。遅かったね」
「遅かったねじゃないだろ? どこ行ってたんだよ」
「その扉を開けるヒントを探しにね」
「で、なにかあった?」
しかし凪は腕を広げた。
「ぼくにわかるわけないじゃないか」
「じゃあなにしに行ってたんだよっ!」
怒るなよ、とでも言いたげに凪は俺に微笑みかける。
「でも情報は集めたぜ。この神殿の周りには石がたくさん転がっている。柱が立っていて、石壁とかもあって、あとはオオカミとヘビの石像もあった。それくらいかな」
石像か。ここに来る前にも、ワシの石像があったな。
「どうしたの? 開くん。急に宝地図なんて見て」
「うん、ちょっとね。凪、他にはなかった?」
「強いて言うなら、オオカミとヘビを乗せる台の石かな」
地図には、しっかり方角が示されていて、この扉の向きにきっちり北を向いている。そして、三つの四角い点もある。
「逸美ちゃん、さっきワシがいたのってここかな?」
俺が地図上に指先を落とす。
「うん。そうなるわ」
「凪、オオカミとヘビはここ?」
「おそらくね。神殿を挟んであっちとあっちにあったから」
と、凪もそれぞれを両の手で指差した。
「開さん、それでなにかわかったんですか?」
「こういうとき、開くんは閃きがすごいんだよ。たぶん、もうわかると思う」
代わりに鈴ちゃんにそう答える逸美ちゃんに、鈴ちゃんはうなずく。
「はい。あたしも開さんの推理力は何度も見てますから」
俺は最後にひとつ、凪に確認する。
「オオカミとヘビは何段の石に乗ってた?」
「どういう質問さ。ぼくがそんな細かいところまで見るわけないじゃないか」
ふむ。でもまあ、それは確認すればいいだけのことだ。
「開くん、もうわかったんでしょ?」
人の頭の中を覗き込むような逸美ちゃんの問いかけに、俺はウインクして「まあね」と答えて、説明を始める。
「最初に地図を見たとき、妙にきっちりと方角の均整が取れていることが気になったんだ。たぶん俺の推理だと、三つの石像の動物は方角を示す記号だよ。それぞれを英語に直すと、ワシは『eagle』、オオカミは『wolf』、ヘビは『snake』。頭文字はEとWとS。Eは『East』、Wは『West』、Sは『South』。東と西と南だね。さらに、ゾウは三段の石に乗っていた。これは東に三つ、地面の石に合わせて駒を進めることを指す。あとの二体も乗っている石の数だけ進めればいい。《アマルガムの洞窟》にあった石碑にも、『宝は神殿に守られている。石像を動かすことで、扉は開かれん』って書いてあったしね」
「開くん賢い! 冴えてる~! 石を動かすと、扉が開くのねっ!」
「そのまま開くかはわからないけどね」
逸美ちゃんが手放しに褒めてくれるのに続けて、鈴ちゃんも驚いた様子で、
「開さんすごいです! さすがは《探偵王子》ですね」
「へへっ。それほどでもないって」
と、照れたように鼻の下をこする凪に、鈴ちゃんはキッパリと、
「先輩には言ってないです」
ジト目でつっこんだ。
そして。
俺たちはオオカミとヘビの石段の数を数えに行った。
ヘビは二段だった。
また、オオカミは、二匹がいっしょの石段に乗っていた。まるで二匹で1セットかのように。この二匹のオオカミは四段になっている。これに意味はあるのだろうか。
確認すると同時に、コンパスで方角を見て動かしてみる。
「これで、全部だね」
動かし終わって俺がワシを見上げると、
ガガガガガッ
神殿の方角で、重たい石がきしみ合って動く音がする。地面の下からも響いてくるようでもある。
ビンゴ。やっぱり石碑の通りだ。
あのオオカミの二匹には、ここでは特別意味がなかったようだ。とにかく扉が開いてよかった。
「行ってみよう」
凪が駆け出して俺たち三人も後に続いた。




