第二章22 『ソロモン島の遺跡群』
船は、とある島に辿り着いた。
おそらく、話の通りならここがソロモン島だ。
地図によれば、島の中心に遺跡があり、遺跡の奥に《ソロモンの宝玉》が隠されている。
まず船から浜辺に降りる。
浜辺の先は、すぐに熱帯雨林のような森が広がっていた。このジャングルを進まなければ遺跡には行けないようだ。
さっそく、俺たちは森に向かった。
森の中を進んで、周りを見回すと。
くちばしの大きな鳥がいた。
「逸美ちゃん、なんかよく見る鳥がいるよ」
「あれはオニオオハシね。南アメリカに生息する鳥なの。でも、モンスターかもしれないけどね。近づいたら確認しよ?」
「さすが。よく知ってるね。うん、そうしよう」
「ふふっ。他にもわからないことがあったらなんでもお姉ちゃんに聞いてね」
逸美ちゃんは広才博識でなんでも知っている。これまで聞いてわからなかったことはないくらいだ(ゲームの攻略とかじゃなく知識で、だけど)。
近づいて行くと。
オニオオハシのような鳥に、名前が表示された。
オーベック。
大きなくちばしが特徴で、ビジュアルはほとんど俺が知っているオニオオハシだけど、一部分的に水属性をイメージするような模様がある。
凪は別の方向を指差す。
「開、あっちにもオーベックがいるぜ」
「どこですか?」
「あ、ほんとだ。水浴びしてるね」
「仲良しな感じでいいわね~」
鈴ちゃんと俺と逸美ちゃんが水浴び中のオーベックを視界に入れた。
小さな池のような水場で、オーベック数匹が水浴びをしていた。
凪は頭の後ろで手を組んで、
「『ベック』は『くちばし』って意味だけど、オオハシの『オオ』は『大きい』の『オオ』だから、伸ばすあの『オー』は別の意味だろうか」
「なんだかややこしい言い方だな」
言っている意味はわかるけどさ。
逸美ちゃんはぽつりとつぶやく。
「んー。水浴びしてるし、水っぽい印象だし、『オー』はフランス語の『水』から取ったんじゃないかしら」
「音はいっしょだし、ダブルミーニングかもね」
このゲームのモンスターは結構そういう名前が多い。
凪はふむとうなずく。
「確かに、『ベック』もフランス語だ」
さて。
先に進むためにもさっそくオーベックを倒してみると(一撃で倒せた)、《オーベックのくちばし》をドロップした。
他にも、南国を思わせるようなモンスターがいた。
チョウのモンスターで、鮮やかな青い羽とそこに散りばめられた宝石が、デンパピオンとも異なった南国らしい雰囲気を醸し出している。
モルフリトス。
体長は四十センチくらいだろうか。
木にとまっていて、凪と鈴ちゃんはその綺麗な羽に目を奪われている。
「お~」
「羽にも宝石が散りばめられているけど、まるで宝石のリボンが木に結びついているみたいですね」
「なんか《生きている宝石》って呼ばれている蝶々がいた気がするな」
凪がそう言うと、逸美ちゃんが博識を披露してくれた。
「それはモルフォチョウね。中南米に生息しているの」
「へえ。《生きている宝石》か。《ソロモンの宝玉》ってクエストがあるこの島にふさわしい綺麗なモンスターだね。名前からして、『リトス』はまた別の意味がありそうだけど」
俺のつぶやきにも、逸美ちゃんが教えてくれる。
「確か、『リトス』はギリシャ語で『宝石』。同じく『モルフォ』がギリシャ語で『美しい』って意味ね」
「なるほど。つまり『美しい宝石』って意味か」
逸美ちゃんといると本当に勉強になる。それに色々なことを知れて楽しい。このメンバーで来られて本当によかったな。
「この子も連れて歩きたいですねぇ」
鈴ちゃんがうっとりとモルフリトスを眺める。
とはいえ。
せっかく綺麗な蝶々だけど、いつまでも見ていられないので、倒してドロップアイテムの《モルフリトスの宝石》をゲットしておき、図鑑にも情報を登録しておいた。
地図を確認しつつ密林をかき分けてしばらく進む。
出現したモンスターを倒そうと、凪が《ラファール》を唱えると、弱々しく風が吹く。
それを何度かするうちに、《ラファール》も不発に終わることもなくなり、威力はまちまちだがちゃんとした風魔法らしくなってきた。
「ぼくもだいぶコツをつかんだぞ」
「先輩、せめて大事なところでは外さないでくださいね」
「任せてくれ」
「自信を持つのはいいけど油断はダメですよ」
凪と鈴ちゃんがそんなことを言ってるけど、凪もやるときはやるやつだ。これからの成長に期待しておこう。
途中、サルのモンスターがチラチラと俺たちの前に姿を現した。
ニジオザル。
名前はそう表示されている。尾が虹色で長く、オナガザルのような体つき。体長は六十センチほど。
このソロモン島にはニジオザルとモルフリトスとオーベックが主に生息しているらしい。
素早さの高いニジオザルは、防御力はそれほどでもなく、俺の《天空の剣》で一撃で倒せた。
「よし。ニジオザルも図鑑に登録っと」
俺が《天空の剣》を鞘にしまって図鑑を見る。
「へえ。連携して狩りをするんだ」
「チンパンジーなんかは、待ち伏せ役、妨害役、追い込み役に分かれて、他の種類のサルを捕らえたりするのよ。妨害役が逃げ道を防ぎ、追い込み役が煽って追い立て、逃げた先で待ち伏せ役が襲いかかる。待ち伏せ役は獲物の逃げるルートを予測する熟練のハンターなの」
「かなり高度なんだね」
「人間の四歳児ほどの知能を持つと言われるからね。ニジオザルもそれくらいの知能はあるだろうね」
と、凪が言った。
サルは頭がいいし、ニジオザルも頭がよさそうだ。
そんな話をしていると。
ハネコが鈴ちゃんの肩から飛んだ。
「どうしたの? ハネコちゃん」
鈴ちゃんが見守っていると、ハネコは茂みの先を興味深そうに見つめていた。
「なに?」
後ろから鈴ちゃんが顔をのぞかせると、そこには、バナナの木があった。黄色いバナナがたくさんある。
「あら。ハネコちゃん偉いじゃない」
「うん。見つけてくれたんだね」
逸美ちゃんと俺が感心する。
凪が頭の後ろで手を組んで、
「どうやらこのバナナは、《英知のバナナ》。魔力を回復するアイテムだ。やるじゃん、ハネコ。味もうまいしさ」
パクッと凪はバナナを食べている。
「モンスターを連れているとこんな効果もあるなんて、嬉しいです」
と、鈴ちゃんは満足そうだった。
しかしすぐに我に返ったように凪につっこむ。
「て、先輩もう食べてるんですか!? あ、あたしも食べてみたいです!」
俺はバナナの皮をむく。
「南国らしくていいね。意外とこの世界に来て初めての食事だけど、ちゃんと味わえてて感動するよ」
「ね~」
逸美ちゃんも皮をむいてパクッと食べる。
「アダムとイヴが食べた禁断の果実――つまり、知恵の実はリンゴかイチジクかバナナとされている。だからこのバナナは魔力回復効果があるのかな?」
「きっとそうね~。美味しいわ~。うふふ」
俺も逸美ちゃんもバナナを美味しくいただいた。
ということで、俺たちは魔力回復ついでにひとり一本ずつ食べて、残りはたっぷりとアイテム覧に追加しておいた。
さらに歩いて。
ようやく、遺跡が見えた。
少し靄もかかっている。
石で造られた建築物は樹木が絡みついている部分もあり、はるか昔――太古の文明を感じる神秘さがある。
遺跡群になっていて、何件かが連なっている。かなり古い建物だったみたいで、ひとつひとつはボロボロで空っぽになっており、ニジオザルが住みついているっぽい。いまも、遺跡のひとつから、ひょっこり顔を出している。
「まるでクメール遺跡みたい……」
と、逸美ちゃんが吐息を漏らすようにつぶやいた。
「それってどんな遺跡?」
「カンボジアの遺跡群よ。その中には、アンコールワットなんかもあるの」
「へえ。なんだかいいね、こういうの。いろんなところを冒険してさ」
「うん。そうだね」
俺と逸美ちゃんが談笑していると、鈴ちゃんが俺たちを見ておずおずと呼びかける。
「あの。微笑み合って楽しそうにおしゃべりしているところ悪いですけど、凪先輩たったと先に行っちゃいましたよ」
「え? まったく、凪のやつ」
「あらあら~」
と、逸美ちゃんは笑った。
「ていうか、鈴ちゃんも止めてよ」
鈴ちゃんは眉を下げて照れたように苦笑して、
「すみません。あたしが遺跡に圧倒されて目を離した隙にいなくなってまして」
靄があるから凪の姿がもう見えない。しょうがないやつだな。
「しょうがない。凪を探しながら進むとしよう」




