第二章15 『大海原への航海』
再び、俺たちは、凪のワープで《ミストフィード》に舞い戻った。
一応、再度《ミストフィード》でもNPCに話を聞いて回ったけど、《ソロモンの宝玉》に関して他に特筆した情報は得られなかった。
なので、街の外れにある《アマルガムの洞窟》へまっすぐ行き、船の前にやってきた。
船に乗り込み、凪が俺に言う。
「開。船を動かすにはアイテムから船を使うんだ」
「オッケー」
メニューを操作して、アイテム一覧から船を使う。
どうやら、舵取りだけで船を操縦できるようだ。
凪は当然のように舵を握り、俺を見る。
「さあ。行くよ。《ソロモンの宝玉》があるソロモン島へしゅっぱーつ!」
「おー」
お約束として、俺と逸美ちゃんと鈴ちゃんは手をあげてやった。
船が動き出し、俺たちが感動していると、あっという間に洞窟を抜けた。
船は洞窟から海に飛び出した。
海に出ると、すっかり景色が変わる。
「見て、開くん。この大海原」
「すごいね。海から見る景色は、港町から見るのとは全然違うね!」
「あっちにはカモメもいるよ。ウミネコとカモメどっちかしら」
逸美ちゃんが指差す先には、カモメがいた。確かにウミネコにもよく似ている。ウミネコはカモメの一種で、「ミャオ」とネコのような声で鳴くのでそんな名前で呼ばれている鳥だ。
「カモメかぁ!」
……ん?
いや、あれはモンスターだ。カモメによく似ているけど、なんだかフォルムからして違う。
「名前は、ポルカモメですって」
と、鈴ちゃんが読み上げた。
体長は四十センチほどで、カモメそのものに見えるけど、帽子をかぶったような頭と丸い身体がポイントであり、丸くつぶらな目をしている。なによりの特徴は、ポルカを踊るみたいに、たくさんのカモメが円陣を作って飛ぶところだ。
「楽しそうに踊ってるわね~。よく見たらくちばしもウミネコじゃなくてカモメね~」
「なんか近づいてきてるよ」
せっかくだから、近くを通りかかったポルカモメを《雷火》で一匹撃ち落として図鑑を埋めておいた。ちなみに、ドロップアイテムは《ポルカモメの帽子》だった。
ポルカモメの鳴き声と波の音をBGMに図鑑を読んでいると。
逸美ちゃんが海を指差した。
「見て、開くんっ! イルカ!」
「え? イルカ!? 俺、海の生き物で一番イルカが好きなんだ」
目をこらして探すと。
空高く、約二十メートルの高さまで飛び跳ねた魚がいた。
イルカだ。
あんなに高く飛ぶなんて、普通のイルカじゃない。
「モンスターですね!」
鈴ちゃんが言うように、イルカには、HPゲージと名前があった。
「名前はシエールカだって。大きさとしてはクジラとイルカの間くらいだし、二つを合わせたモンスターなのね」
「クジラとイルカの違いは、大きさだけだからね」
と、逸美ちゃんと凪が解説を加えた。
鈴ちゃんが感心する。
「へえ。そうだったんですか」
俺は人差し指を立てて、
「あと、あんなふうに空高く飛んでいるし、空って意味のシエルも掛けてるよね!」
かなり高く飛んでいるから、お腹が見える。
お腹は空のように青い。
着水したときに見えた身体は白いので、よくいるイルカとはカラーリングが逆のイメージだ。
シエールカ。
今度この船の近くまで来たら、倒して図鑑に登録したい。
さらに遠くには、大きなドラゴンが泳いでいるのが見えた。海面から顔を出し、再び海中へ。そして、ヘビのような全身が続く。
ここからは遠いから名前も確認できないけど、あんなモンスターと戦ったら大変だろうな、なんて思って、俺は内心で笑った。
さて。
またシエールカが近づいてきた。
高くジャンプして、俺たちの船の上を通り抜ける。
「それにしても、なんでイルカってジャンプするんでしょうね」
鈴ちゃんが見上げてつぶやくと、凪がさらりと言った。
「餌を取るためさ」
「え? 餌って、まさか鳥を食べるわけじゃ……」
「やれやれ。そんなわけないじゃないか。海鳥を探して、その海鳥が狙っている魚を上から見つけるんだ」
当然のように言う凪に続けて、逸美ちゃんも知識を披露する。
「ちなみに、魚を捕まえるために、イルカは超音波を出して魚を気絶させるのよ。もちろん、コミュニケーションのためにも音を出すし、エコーロケーションにも音を出すの」
「エコーロケーション、ですか?」
首をかしげる鈴ちゃんに、俺は言った。
「反響定位。つまり、反響音を受けて周囲の状況を認識することだよ」
「イルカの鳴き声は種類も豊富で、特にシロイルカは、『海のカナリア』と呼ばれているのよ」
逸美ちゃんの説明には、鈴ちゃんばかりでなく俺も感心する。必要のない豆知識ばかり知っている凪も「ほうほう」と腕組みしている。
「て、せっかく近くにいるんだからシエールカを倒しましょう!」
鈴ちゃんに言われて俺たちは慌ててシエールカと戦った。
シエールカは強い上にスピードもあるから手こずったけど、連携して魔法攻撃で倒して、図鑑に登録した。
ドロップしたアイテムは、《シエールカの背びれ》。
俺はメニューを操作して確認する。
やっぱり図鑑を見るのって楽しい。
また新しいモンスターに出会いたいなと思い、図鑑を閉じた。
船は爽快に海を走る。
波や水しぶきもキラキラ輝いて綺麗だ。
鈴ちゃんはまぶしそうに額に手をやって、
「海の風も気持ちいいです。ね? 先輩」
「こんな冒険をぼくは切望していた。空には太陽、目の前には素晴らしい海、あとは海賊が出るのを待つだけだね」
「あたしはできれば、可愛いモンスターと出会う穏やかな旅だけで、海賊と戦ったりはしたくないですけどね」
凪はやれやれと呆れたように手を広げて、
「そんな簡単にお宝を手に入れてもおもしろくもなんともないよ。ぼくたちはもう勇敢なる海の戦士なんだぜ?」
「魔法使いの恰好をして言うことじゃないけどな」
と、俺はつっこんでやった。
凪は言った。
「ねえ、開。このまま世界一周しようぜ?」
「世界一周なんてしてる時間ないだろ? 確か、地図だと南東だったよね」
と、俺は逸美ちゃんに地図を見せてもらう。
「そうね。ここに描かれた島がそうだから」
なるほど、と俺は地図を確認して、凪に言う。
「凪。操縦桿は握らせてやったんだから、ちゃんと操縦してくれよ」
「開は夢がないな~。海はぼくら冒険者のロマンじゃないか」
鈴ちゃんは凪の横に来て、眉をきりっと上げる。
「先輩、開さんに迷惑かけちゃダメですよ? 色々と自重しながら頑張ってくださいね!」
「平気へーき。なにがあっても、ぼくは力の限り開を助ける。いっしょにゲームをクリアするためだからね」
あっけらかんとした凪に、鈴ちゃんも疲れたのか脱力した。
「だといいんですけど」
「大丈夫よ。開くんと凪くんは仲良しの相棒なんだから。ね?」
と、逸美ちゃんが俺にウインクする。
「違うし。でも頼んだぞ、凪」
凪は親指をビッと立てた。
「おう。任せとけ」
常になにをしでかすかわからないやつだけど、ゲームをクリアするまで俺たちパーティーは一心同体だ。俺も、こいつと力を合わせないとな。
そう俺が心に誓ったとき、凪は遠くを見て指差した。
「海賊船だ」
「おい、凪。いくら退屈だからって適当な嘘を言うなよ。そんな都合よく海賊船なんて……」
呆れ顔で凪の指差す先に目をやって、俺は目を疑った。
帆に描かれたドクロ印――
あれは、本当に海賊船だ。




