第二章7 『七つの星』
食堂。
鈴ちゃんも含めた俺たち四人は昼食を取っていた。
「この分だと午後は《ミストフィード》に行って、まずは情報収集って感じかな」
「また情報収集か。大変だね」
俺が苦笑すると、凪は「そういうものだよ」と言った。
凪の隣に座る鈴ちゃんは、今日は学校終わりということもあり、中学校の制服姿だった。水色のリボンとスカートのセーラー服。
鈴ちゃんは胸元の水色のリボンを揺らして凪を見る。
「このあとは、先輩の魔法ですぐに迎えに来てくれるんですよね?」
「そうさ。午前中サボった分、しっかり働いてもらうよ」
「こら凪。学校帰りにわざわざ来てくれた子になに言ってんだよ」
ヘラヘラ笑う凪とは対照的に、鈴ちゃんは苦笑いだ。ニコニコ笑顔で会話を見守っていた逸美ちゃんが俺と凪に尋ねた。
「二人が合流するまで、わたしと開くんはどうしてようか?」
「どうって?」
と、凪が首をかしげる。
「普通わかるだろ? 歩いて先に街を目指しておくか、動かず待っているか」
「ほうほう。開と逸美さんは以心伝心だからな」
俺と逸美ちゃんじゃなくてもわかると思うけど。それ以上に、凪は普段から会話の文脈とか考えなさ過ぎるのだ。
「パーティーメンバーの元へは行けるんなら、俺と逸美ちゃんは先に二人で街に向かってるよ。歩いてるから、すぐ来れるようなら来てよ」
「そうね。開くんとふたりでのんびり歩いてるわ」
「了解。すぐに追いつくよ」
追いつくって言うより、文字通り飛んでくるって感じなんだろうか。物理的にも。
703に戻ると、俺たちはさっそく《T3》をセットすべくベッドに横になった。
四人そろって、意気軒昂にゲーム世界に乗り込んだ。
視覚、聴覚に続いて身体の感覚がなくなると、一瞬の暗闇を経て、俺はまた、《ルミナリーファンタジー》の世界に戻ってきた。
視覚も聴覚も極めてクリア。
身体の感覚も現実のものとどう違うのかわからないくらいだ。
凪は悠長に準備運動なんかしてる。
「ワープするからって気合入れてるの?」
「もし着地のときに足をくじいたらカッコ悪いからね。さて、ぼくはもう行こう」
左手に持った杖を掲げて、凪はワープの魔法をする準備をした。
「凪くん、いってらっしゃい」
「うむ。鈴ちゃんを連れてすぐに飛んで来るよ。再び会おう。ワープ――鈴ちゃん」
名前と共に魔法を唱えると、杖の先の青い水晶が光り、凪はパッとこの場から消えた。
「本当に消えるんだからすごいよね」
「そうね~。本当にヘルメスみたい」
感心している逸美ちゃんに俺は尋ねる。
「どういうこと?」
「ヘルメスは、ギリシャ神話では神出鬼没でトリックスター的存在だったの。翼のついたサンダルを履いた韋駄天足で飛び回り、神々の伝令役をしたし、それっぽいと思わない? ゼウスの腹心にして、最も信任厚い情報神」
「なるほど。《ケリュケイオン》は交通の象徴にもなっていたしね。うまく噛み合ってる」
情報屋の凪と一致した特性だ。
しかも、凪は実際にも神出鬼没なところがあるし。
思わず俺も感心してしまった。
「開くんがゼウスだったら、凪くんは相棒だしぴったりだと思うの」
「あいつが俺の腹心とか、勘弁してくれ」
と、俺は笑った。
「うふふ。いいじゃない。あとね、ヘルメスはローマ神話のメルクリウスと融合して考えられ、錬金術の考案者にして科学や技術の開祖とも言われるすごい人なの」
「人じゃなくて神様でしょ?」
「やだぁ、そうだったわ」
「でも。確か、メルクリウスって……」
前に、逸美ちゃんに聞いたことがあった。
逸美ちゃんはにこっと微笑んでうなずいた。
「英語読みでマーキュリー。つまり、水星を象徴する神様」
「ヘルメスもメルクリウスと同一視されるから、水星といえる。で、ヘルメスに《ケリュケイオン》をあげたのは、太陽神と同一の存在のアポロンだったよね?」
「うん。それがどうかした?」
俺は口元に手をやって考える。
「いや、ちょっと思ったことがあるんだ。この世界の七つのアイテムって、実はみんな星が関連してるんじゃないかな?」
「七つの星? 星ねぇ……」
すると、逸美ちゃんはポンと手を叩いた。
「あっ、惑星ではないのもあるけど……」
そこまで逸美ちゃんが言ったとき、
俺と逸美ちゃんは声をそろえて、
「七曜!」
と、顔を見合わせた。
逸美ちゃんはそのあとを引き取って解説してくれる。
「曜日の元になっているあれね。目に見える五惑星――火星、水星、木星、金星、土星――それらを五行思想に対応させ、そこに陰陽を表す太陽と月を合わせたものよ」
そして、逸美ちゃんは言った。
「七曜で間違いないわ。だって、七曜は英語でセブンルミナリーズ。ルミナリーといえば、このゲーム、《ルミナリーファンタジー》のタイトルといっしょだもの」




