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ルミナリーファンタジーの迷宮  作者: 蒼城双葉
第二章 ソロモン島編
47/187

第二章5   『ヘラクレスのリッキー』

 ヘラクレスオオカブトのような、カブトムシのモンスター。

 名前は、リッキー。



挿絵(By みてみん)



 HPゲージもあるし、モンスターで間違(まちが)いない。

 体長は一メートル弱。いや、雄々(おお)しく()びた(つの)(ふく)めれば、一メートル五十センチくらいだろうか。鈴ちゃんの身長がちょうどそれくらいだから、(なら)んだら変わらないと思う(目線の高さは違うけど)。しかしこのサイズでも、シンプルなデザインだから(こわ)くない。むしろカッコイイ。

「これはテンション上がるね!」

「これで上がらないほうがおかしいさ!」

 俺と(なぎ)夢中(むちゅう)になってリッキーを観察(かんさつ)しているけど、逸美(いつみ)ちゃんはうふふと微笑(ほほえ)んで、

「わたしはテンション上がらないけど、二人が楽しそうで(うれ)しいわ。ふふ」

 凪が俺に言った。

昆虫(こんちゅう)って言ったら、戦うより(つか)まえないとだよね。でも、仲間にはできない。さて、どうする?」

「う」

 確かに、仲間にはできないんだ。

 しかし。

「やっぱり(たお)して、ドロップアイテムを確認だー」

 凪は俺の返事も聞かずに、リッキーへと向かって走り出した。

「おい、まだ見ててもいいだろ?」

 ()びかけるが、凪は止まらない。

 凪はリッキーに向かって《ケリュケイオン》で攻撃(こうげき)した。

《ケリュケイオン》を()っての打撃(だげき)

 だが。

 キィーン

 と、甲羅(こうら)(ひび)く音がする。

「お~」

 リッキーの背中(せなか)甲羅(こうら)(かた)かった。

 凪は攻撃(こうげき)した反動(はんどう)で手がじんじんしびれたのか、体をブルッとさせた。

 その(あいだ)に、ヒョイッと、リッキーが(つの)で凪を投げ飛ばした。

「うわ~」

 (なさ)けないようなやる気ないような声で凪が(ちゅう)()く。

 逸美ちゃんが口に手を当てる。

「やだ~。飛ばされちゃったわ」

 凪のあまりの弱さに、俺は(ひたい)()さえた。きっと、画面の向こうで鈴ちゃんも頭を(かか)えていることだろう。

 ドテン。

 尻餅(しりもち)をついた凪が、悲痛(ひつう)の声を()らす。

「いてて~、こんなのってひどいよー」

 そして。

 無情(むじょう)にも、凪のHPゲージがぐんぐん(けず)れて(投げ飛ばされている最中(さいちゅう)(けず)れていたけど)、レッドゾーンに突入(とつにゅう)し、ついに0になってしまった。

 逸美ちゃんが(あわ)てて凪に(つえ)を向けて回復魔法(かいふくまほう)(とな)えた。

「《ヒール》」

 しかし。

 手遅(ておく)れ。

 凪は、モンスターが(たお)されたときと同じように、ポリゴンが(くず)れるエフェクトと共に消えてしまった。

「…………」

「…………」

 俺と逸美ちゃんは言葉を失った。

 え……。

 まさか。

 (うそ)だろ……。

 こんな野生(やせい)のモンスターにやられるなんて、もしかして、このリッキーはものすごく強いモンスターなのだろうか。

 (われ)に返り、俺はリッキーに向かって走り出した。

 相手の動きに注意しながら突っ込むと、リッキーが(つの)攻撃(こうげき)してきた。

 それを《天空(てんくう)(つるぎ)》で受け止める。

 重い。

 かなりのパワーだ。

 リッキーの(つの)(はじ)くように()いだ。

 続いて、俺は《天空(てんくう)(つるぎ)》で()りかかった。


 ギィイン


 リッキーの甲羅(こうら)にヒットした斬撃(ざんげき)は、しかと受け止められた。

 (けず)れたゲージは五分の一ほど。

 防御力(ぼうぎよりよく)は高いようだが、代わりに素早(すばや)さが低い。

 リッキーの攻撃(こうげき)をかわしつつ、何度か攻撃(こうげき)を入れて、最後の一撃(いちげき)

「ハァッ!」

 スパッと一刀両断(いっとうりょうだん)

 ()(ぷた)つにリッキーの甲羅(こうら)()れて、リッキーはエフェクトと共に消えた。

 俺は《天空(てんくう)(つるぎ)》を(さや)(おさ)めて、振り返る。

「こりゃあ凪が苦戦するはずだ」

 とはいえ、凪がとんでもなく弱いことに変わりはないけれど。

 逸美ちゃんが()()ってきて、

(かい)くん、リッキーは強かった?」

 俺はリッキーがドロップしたアイテム《リッキーの(つの)》をアイテム(らん)追加(ついか)しておく。

「いままでのモンスターよりはね。こんなモンスターも野生(やせい)で出てくるなんて、あいつこの先やって行けるのかな……。不安になってきたよ」

「開くんがいるから大丈夫(だいじようぶ)よ」

 あいつのおもりは勘弁(かんべん)してくれ。

 逸美ちゃんはジェスチャーでメニューを呼び出して、

「とりあえず、リッキーはこれで図鑑(ずかん)登録(とうろく)されたね」

「あ、そうか」

 共有状態(きようゆうじようたい)にした画面を二人で見ながら、逸美ちゃんはうなずく。

「うん。登録(とうろく)されてる。討伐(とうばつ)したモンスターは図鑑(ずかん)登録(とうろく)されるから、詳細(しようさい)はあとで確認しよっか」

「そうだね」

 パーティー単位(たんい)で一度でも(たお)したモンスターの詳細(しようさい)は、登録(とうろく)されて図鑑(ずかん)で確認できるようになる。ちなみに、見ただけのモンスターは、姿(すがた)と名前のみが登録(とうろく)される。

 これはちょっと、コンプリート(よく)さえそそられる機能だと思う。これで全部ゲットまでできたら最高なんだけど、それはきっとこのテストプレイ(ばん)ではなく、完成品でのお楽しみなんだろう。

 ピッと、(ちゆう)(まど)が出現した。

 鈴ちゃんが(あき)(がお)で言った。

「開さん、逸美さん、お疲れさまです。先輩(せんぱい)のことは(ほう)っておいて、先に進んでください」

「そうだね。俺もそうしようと思ってたところ。凪が(もど)ってくるのを待ってもいいんだけど、あいつが森で(おそ)われたらまた面倒(めんどう)だし、さっさとこの森を抜けよう」

「はい。ではまた」

 と、鈴ちゃんが言い残して、(まど)が消えた。

 俺は逸美ちゃんに向き直った。

「さて、じゃあ行こうか」

「気を取り直して、しゅっぱーつ」

 逸美ちゃんが明るく声をかけ、俺たちは歩き出した。



 一分ほどしたとき。

 どこかでハナリアが美しいさえずりを聞かせてくれている中――

 パッと。

 俺たちの目の前に、凪が(あらわ)れた。

「よ」

 凪が片手をあげる。

 立ち姿(すがた)平然(へいぜん)としたものだ。

 かと思ったら、凪は得意そうに言った。

「見てくれよ。このローブ、ちょっと見ただけじゃわからないと思うんだけど、実は中にもう一枚だけシャツ着てるんだぜ」

 ぴらっとローブをめくって見せてくる。

「なんの話だよ」

 凪はやれやれと(かた)をすくめる。

「キミはリアクションがうすいなぁ。(じゆん)を追って話すとさ、ぼくが死んで《グリーントーレ》の教会に送られたとき、少年に会ったんだけど、その少年がぼくのローブを強化してくれたんだよ」

「それって、昨日(きのう)《ケリュケイオン》をくれた少年?」

「わかんない」

 小首をかしげる凪。

 まったく、こいつときたら適当(てきとう)なんだから。人の顔を覚えるのが苦手なやつだからな。たぶんだけど、同じ人だろう。

 逸美ちゃんも凪といっしょであまり細かいことは気にしない大雑把(おおざっぱ)な性格だから、のんきに微笑(ほほえ)んで、

「よかったわね~」

「ああ。これもぼくの日頃(ひごろ)(おこな)いさ」

「むしろ、日頃(ひごろ)(おこな)いが悪いからあんなステータスになるんだよ」

 俺が普段(ふだん)から真面目(まじめ)な生活態度(たいど)を心がけるように言い聞かせようと、口を(ひら)きかけたとき。

 凪がまた、遠くを指差(ゆびさ)した。

「あっちになにか(かげ)があった!」

「え?」

「行こう!」

 すぐに凪は()け出した。

「おい、待てよ。迷子(まいご)になっても知らないぞ!」

「開くん、追いかけないと」

 ということで。

 俺と逸美ちゃんは、またもや凪に振り回されるように走り出した。


 しかし結局(けつきよく)、凪が見た(かげ)はなにかの勘違(かんちが)いだったみたいで、俺たちはただ無計画に《(まよ)いの(もり)》を()き進んだだけだった。

「凪、どうするんだよ? 道がわからなくなっちゃっただろ?」

「元からわからなかったさ」

「それでもちゃんと道なりには来てたじゃないか」

「道なりに進んで(まよ)うくらいなんだ、どうしたって(まよ)うよ」

 まったく、凪は本当にマイペースで(こま)る。

 逸美ちゃんが俺と凪に言った。

「まあまあ、二人共、(あせ)っても仕方ないし、楽しみながら進みましょう? ただし、みんなから(はな)れずにね」

 これに俺と凪がうなずき、三人で森の探索(たんさく)再開(さいかい)した。

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