第二章1 『八月二日』
八月二日。
寝覚めはよかった。
いつもより、なぜだかものすごく起きるのが楽だ。いや、ゲーム世界に入るのが楽しみで、つい起きてしまっただけなのかもしれない。
「昨日は《天空の剣》をゲットしたし、今日からは七つのアイテムを集めるぞ」
着替えて出掛ける準備を済ませると、俺はマスターズ・カンパニーのビルに向かった。
集合場所は昨日と同じく秋葉原駅。
電気街口を出たところに行くと、今日は鈴ちゃんがいなかった。
逸美ちゃんといっしょに凪を待って、遅れてきた凪に話を聞く。
凪によれば、
「鈴ちゃんは用事があって午後から来るそうだよ」
とのことである。
だから、三人でマスターズ・カンパニーへ行った。
マスターズ・カンパニーのビルに入った。
中に入ると、相変わらず、異様なアイマスクの研究員たちが社内を歩いている。一種独特で不思議なビルだ。ここからすでに異世界にいるような気分になるくらい。
昨日と同じくナビさんという案内人に連れられて、703の部屋に通された。
潮戸さんにも挨拶して、いざ始めようというとき。
俺ははたと気づいた。
「あ! でも、そうすると鈴ちゃんだけ俺たちとスタート地点が変わっちゃわない?」
凪はのんきに構えて、
「大丈夫さ。ぼくがワープを使えば、行ったことのある街とパーティーメンバーの元へなら魔法で飛べるんだ。鈴ちゃんが合流するとき、ぼくが迎えに行くよ」
「なるほどな。よろしく頼むよ」
「おう。任せとけ」
トン、と凪は自分の胸を叩いた。
「みなさん、それでは始めますか?」
潮戸さんの掛け声で、俺と凪と逸美ちゃんの三人はベッドに横になって《T3》をセットした。
一度、俺は深呼吸して目を閉じる。
そして、《T3》を起動し、現実世界からゲーム世界へと入っていった。
目を開けると。
昨日冒険を終えた場所――
しかし、ぴったり同じ場所じゃない。森の中にいる。終えたのがメーデスの背中、つまりは空の上だから、おそらく真下になるのだろう。
さて。
「よし! 今日も頑張ろう!」
俺は景気よく拳を突き上げた。
だが。
「あれ?」
凪も逸美ちゃんもいない。
メーデスの背に乗って空の上でゲームを終えたから、着地点の誤差のせいで、バラバラになっちゃったのかな。
「開くーん」
そう思ったのも束の間、手を振りながら逸美ちゃんが木陰から出てきた。
「逸美ちゃん! バラバラになっちゃったのかと思ったよ」
「すぐ近くにいたみたい」
「そっか。よかった。無事合流できたし、それじゃあ行こうか」
俺がさっそく出発しようとすると。
「よっと」
声と共に木の上から凪が飛び降りてきた。
「やあ。開」
「凪! なんで木なんかに登ってたの」
「ぼくの着地点の下にちょうど木があったんだろうさ。それにしてもひどいなぁ。ぼくがまだ来てないのに、先に出発しようとするなんて。ぼくたち相棒だろ?」
「あはは。ついうっかり」
と頭をかく。ていうか、相棒ではないけどな、凪が言ってるだけで。
「さ、早く行こうぜ」
「そうね。行きましょう」
と、逸美ちゃん。
「今日は七つのアイテムのうち、一つくらい手に入れたいな」
俺の言葉に凪と逸美ちゃんもうなずき、俺たちは歩き出した。
山道を歩いていると、凪が横道にそれた。
「なにしてるんだよ」
「薬草さ。生えてるから取っておこうと思ってね」
「へえ」
「アイテム覧はまだまだ空きがあるんだ。持てるアイテム数は無限かもしれない。自分たちで使う用とお店で売る用に取っておかないと」
凪は摘んだ薬草を俺と逸美ちゃんにも分けてくれて、それらをアイテム覧に追加した。
「わたしの魔力が足りなくなって《ヒール》が使えないときもあるかもだしね。回復アイテムがあると心強いわ」
と、逸美ちゃんは微笑む。
そうだ。
逸美ちゃんが《癒しの杖》で回復魔法《ヒール》が使えるようになったように、俺もなにか魔法を持っていやしないだろうか。凪だってワープの魔法を手に入れたのだから、《天空の剣》と呼ばれる剣を手に入れた俺も使えるかもしれない。
《天空の剣》――またの名を、《魔剣グラム》。
それこそ魔剣と言うくらいだし、可能性はある。
「メニューオン」
確認すると。
やはり、俺の見立て通り、魔法の覧に二つ、追加項目があった。
《雷火》
《天空の煌星》
おお! 一気に二つも魔法が使えるようになっているなんて。
逸美ちゃんに見せたかったけど、凪がアイテム拾いをしながらたったか先に行ってしまい、俺はそれを追いかけて言う機会を逃してしまった。
山を抜けると、草原に出た。
そこでは、ティラコ、クルックモに加えて、新しいモンスターもいた。
モッフント。
体の毛がもふもふした犬のモンスター。
つぶらな瞳がキュートな、足が短めのダックスフントのようだが、もふもふの体毛は羊のようでもある。
「きゃー」
逸美ちゃんは、モッフントのHPゲージも気にせず、抱きつこうとした。
しかし。
モンスターは基本的に、パーソナルエリアに侵入されたら、プレイヤーを攻撃してくる。
モッフントも例外ではなく、逸美ちゃんに向かって突進してきた。
「やだ~」
ふわりと逸美ちゃんが身をひるがえして避ける。
凪が腕組して、
「鈴ちゃんがハネコを手放せば、ぼくがペットとして飼っていたくらいだ」
まあ、鈴ちゃんは凪によく似た顔したハネコを手放すとは思えないし、このゲーム中はハネコが俺たちの召喚モンスターだ。
ちなみに、いまは鈴ちゃんがいないし《氷晶の鎌》もないから、ハネコは呼び出せない。鈴ちゃんが合流したらいっしょに旅をしよう。
「さ、俺たちも戦いに行くぞ」
「そうだった」
ということで、俺と凪も参戦。
「しかしあの毛、剣でちゃんと斬れるかな?」
どう戦おうか悩む俺を横目に、凪はさっそくモッフントに近づいた。
「モッフントのドロップアイテムも気になるし、ごめんよ。それっ」
そして、突進してくるモッフントを、凪はゴルフでもするみたいに《ケリュケイオン》で容赦なく打った。
が。
もふもふした毛のおかげが、モッフントは防御力が高いようだ。一撃では倒せない。モッフントは動きが機敏ではないからすぐには次の攻撃はしてこないが、攻撃をされたら怖いからか、凪は慌てて二度、三度とモッフントを《ケリュケイオン》で打った。
けれどもまだ倒せないので、今度は俺が《天空の剣》で斬る。
「これならどうだ」
すると、俺の攻撃で、モッフントはHPゲージを0にした。ゲージの減り方から見て、俺の攻撃でも二度のアタックは必要だったかもしれない。やっぱり防御力が高いモンスターだったんだ。
モッフントはエフェクトと共に消えて、《モッフントの毛玉》をドロップした。
「ふう。倒せてよかった」
俺は逸美ちゃんに顔を向けて、
「毛玉だって」
「なんだか予想通りね。うふふ」
逸美ちゃんはおかしそうに笑う。
凪は腰に手を当てて、つぶやく。
「他のモンスターも見たくなってきたなぁ」
「そうだな」
かくして、俺たちは草原を進む。
モンスターと戦いながら草原をしばらく歩くと、次の街に到着した。
街の名前は、
《グリーントーレ》




