第一章35 『天空の剣』
うわー! 俺たち、本当に空を飛んでいるんだ。
最初にこの世界に来たときにも見た広大な景色を視界に収めて、天に向かって飛んでゆく。
すると。
途中で、《ファフナ大樹》に登っているさっきの少年たちの姿があった。
三平くんたち三人組だ。
あのあと《ドレスフィア》で《天空の剣》の情報集めをしているのだと思ったけど、俺たちが水浴びをして楽しんでいる隙に、またここまで戻って自力で登っていたんだ。
彼らは俺たちに気づくと、口々に言った。
「鳥だと!?」
「す、すげぇ……」
驚く小さな少年と太っちょの少年に対して、三平くんは凪を指差す。
「おい、天パー! 勝負だ!」
凪は三平くんを見返して、
「キ、キミは……!」
「ああ」
と、三平くんの目は闘志をたぎらせた。
ひとつ間をおいて、凪は言った。
「だれだっけ」
ズコっとこけそうになって、慌てて三平くんは木にしがみつく。
「三平だよ三平! ふざけてねーでおれと勝負しろい!」
「やめたほうがいいっすよ、兄貴」
「なんでだよ。ライバル同士、再会したら勝負だろ!?」
「いや、あいつに関わるとなんか調子狂うんすよ」
「た、確かにそうだが、放っておけるか! あいつ、このおれを差し置いて、先に《天空の剣》をゲットするつもりだぜ? ズルしねーで降りてこい」
凪はそんな三平くんをチラっと見てから俺に向き直り、
「ねえ、開。あの三人、ぼくたちを知ってるみたいだぜ? これってイベントかい?」
「違うと思いますよ」
と、鈴ちゃんは呆れ顔で言った。俺の代わりに鈴ちゃんが答えてくれたので、俺はただ微苦笑を浮かべる。
少年たちには構わず天に向かって飛ぶメーデスと鈴ちゃん。
どんどん彼らと離れて行く。
三平くんは凪に向かって大声で言った。
「覚えてろよー」
なんて古典的な捨て台詞だ。まあでも、凪相手には覚えてろじゃなくて覚えてくれって頼み込まないと、話も始まらないだろうけど。
「バイバーイ」
と、逸美ちゃんだけがのんきに手を振って、あっという間に少年たちの姿は見えなくなった。
雲を突き抜けるように進むことしばし。
ようやく《ファフナ大樹》のてっぺんに到着した。
頂上は、深い年輪が刻まれた切り株のようになっており、その真ん中には輝きを放つ剣が突き刺さっていた。
これが、《天空の剣》だ!
またの名を、《魔剣グラム》。
そこで、メーデスは翼を羽ばたかせながら言った。
「さあ。ここから飛び移ってください」
「二人ぐらいしか乗れなそうね」
と、逸美ちゃんがつぶやく。
俺は鈴ちゃんに顔を向けて、
「鈴ちゃん、タンタロスを倒してアルタイルを助けたのは鈴ちゃんだ。剣を抜きなよ」
しかし鈴ちゃんはかぶりを振った。
「いいえ。あたしはただ連携の最後の役割を果たしただけですし、とどめを刺したのは開さんです」
「開。キミが剣を手に入れるんだ」
凪がそう言って、鈴ちゃんもうなずく。
うん、そういうことなら。
「わかった。ありがとう」
少し怖いけど、俺は思い切って飛び移った。続いて、逸美ちゃんも飛び移る。
着地する逸美ちゃんを受け止めて、俺は剣に歩み寄った。
「開くん」
「うん。引き抜くよ」
《天空の剣》に手をかける。
力を込めると、
ピカァ
刃が黄金色に輝き、剣が刺さっていた木の裂け目からは、光があふれてくる。そのままゆっくりと引き抜く。
剣からは光が消え、ただただ美しい刀身が、俺の顔を映し出した。
「すごい! これが《天空の剣》」
なんだか手にしっくりくる。馴染む感じだ。
「やったね! 《天空の剣》ゲットだね」
「うん」
すると。
目の前に、『装備しますか?』の画面が出現する。
『YES』を押す。
瞬間――
背中にかけていた剣が消えて、代わりに、《天空の剣》が新たな鞘に収まった形で、俺の背中に装備された。
「この鞘、どこから……」
「細かいことは気にしない。ゲームなんだから」
と、逸美ちゃんが笑う。
ふと、逸美ちゃんは剣が刺さっていた場所に小石が落ちていることに気づき、それを拾い上げた。
「あら、綺麗」
「なにそれ」
「さあ? なんだろう。《謎の石》って書いてある」
アイテム一覧に追加するときにアイテム名の確認もできるけど、その名前じゃ本当に謎だ。まあ、逸美ちゃんが綺麗だって言って気に入ったのならいいか。
そう思っていると、《天空の剣》を手に入れた余韻に浸る間もなく、ゴゴゴゴ……という地響きが聞こえてきた。
「開さん。逸美さん。ワタシの背中にお乗りなさい。そろそろ、役目を果たしたこの大木も消えてなくなります」
「なんだって!? 逸美ちゃん、急ごう」
俺は先にメーデスの背中に乗って、逸美ちゃんに手を貸して引き上げる。
直後、《ファフナ大樹》が崩壊を始めた。
崩れゆく巨大な木を見下ろし、メーデスが言う。
「開さん。あなた方がこの世界を救ってくれることを祈っています」
そして。
《ファフナ大樹》が完全に消滅し、俺たちの目の前に、
『クエスト 天空の剣 CLEAR』
の文字が浮かんだ。
「見てごらんよ、みんな」
凪が空の彼方を指差した。
「あっ、夕日だ」
と、俺も声を漏らす。
「綺麗ね。空で見る夕日ってステキ」
真っ赤に染まる夕日を見て逸美ちゃんもうっとりしたように言った。
鈴ちゃんは達成感に満ちた声で、
「もうそんな時間なんですね。今日だけで大冒険でしたね」
「そうさ。けど、ぼくたちの大冒険はまだ始まったばかりだよ」
「だな」
眼下を一望したところ、大木が消えてなくなったせいで地面に落っこちて尻餅をつく三平くんたち三人組が見えた。
下からは、「おばあちゃーん」と喚く声が聞こえてきた。そこは普通「ママー」だろ。
「開くん」
「ん?」
逸美ちゃんに言われて顔を上げると、目の前には、クエストクリアの文字が消えて、代わりに『このままゲームを続けますか?』という画面が現れていた。
俺はみんなに聞いた。
「どうしようか?」
「キリもいいし、今日はここで終わろうぜ。楽しみは明日に取っておくもんだろ?」
「なに言ってんだよ、凪。今日だって楽しんだだろ?」
俺が凪を見ると、
「そうだった。ぼく初日からすでにちゃっかり楽しんだんだったよ」
「それを言うならしっかりだろ」
あはは、とみんなで笑った。
逸美ちゃんはにっこり微笑んで、
「さあ、明日はもっと楽しむことにして、現実世界に帰りましょうか」
「そうですね。あたしも明日が楽しみです」
「やあー、明日が楽しみだね。バイバイ、《ルミナリーファンタジー》。また明日来るよ」
凪が最後に小学生みたいなことを言って、四人共ログアウトすることにした。
現実に戻ってきたのか、ベッドの感触が身体に浮かび上がってくる。
目を開けて《T3》を外すと、潮戸さんが待っていた。
「おかえりなさい。今日は随分いいペースで進みましたね」
「そうだといいんですが。また明日来てもいいですか?」
「もちろんです。お待ちしてますよ」
こうして、《ルミナリーファンタジー》のプレイ一日目が終わった。




