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ルミナリーファンタジーの迷宮  作者: 蒼城双葉
第一章 旅立ち編
38/187

第一章31  『ファフナ大樹』

 どれくらい歩いたろうか。

 しばらく進むと、山が見えた。

「これが、《ファーブニル連山(れんざん)》か」

 ぽつりと俺はつぶやいた。

 広がり方としては、横に(つら)なった形で、ここからまっすぐ向こう(がわ)へは、(とうげ)を一つか二つ()えれば行けるだろう。

(かい)くん、どうしたの?」

 と、逸美(いつみ)ちゃんが振り返る。

 俺は止めてしまっていた足を動かしみんなの(もと)へ行く。

「いや、いい山だなって思ってさ」

「ですよね。昔パパに連れて行ってもらった、ノルウェーやデンマーク、スウェーデンなど、北欧(ほくおう)の山を思い出します」

 と、(すず)ちゃんはうなずく。

 鈴ちゃんは日本人とイギリス人のクオーターだから、ヨーロッパには何度か行ったことあるらしいし、世界観としても、そっちの山々のイメージのほうが作品には合うよな。

 先頭(せんとう)にいる(なぎ)は言った。

「さあ、相棒(あいぼう)。行くぜ」



 この《ファーブニル連山(れんざん)》を越えると次の(まち)がある。

 山道では、モンスターとエンカウントした。

 見たことないモンスターだ。

 名前は、カギヤンマ。

 オニヤンマのようなフォルムで、尻尾(しつぽ)の部分が鍵状(かぎじょう)になっている。サイズは五十センチくらいだろうか。このモンスターは、これまでの可愛(かわい)らしいデザインと(こと)なり、目つきも(するど)くカッコイイ。動物とか昆虫(こんちゅう)も好きだった俺にとっては、こういうモンスターが登場するのはわくわくする。


挿絵(By みてみん)


「開くん、トンボだね」

 と、逸美ちゃんは(うれ)しそうに言った。逸美ちゃん自身(じしん)がトンボ好きなわけじゃなく、俺がこういうのを小さい(ころ)から好きだって知ってるからわざわざ言っているのである。

「うん。(たお)すよりゲットしたいよ」

「確かに。あいつはカッコイイぞ。それにきっと強い」

 同じくそんな少年心がわかる凪がうなずく。

 ただしここも、ゴールドのためにもカギヤンマを(たお)してアイテムをドロップする。

 また。

 (ほか)にも、山ということで、蝶々(ちょうちょう)のモンスターも出てきた。

 鈴ちゃんは目を(かがや)かせて手を合わせる。

先輩(せんぱい)綺麗(きれい)ですね!」

「ありがとう。柳屋凪(やなぎやなぎ)、こう見えてお(はだ)のお手入れしたことありません」

 ズコッと鈴ちゃんがこけて、(そく)つっこむ。

「違いますよ! 綺麗(きれい)なのはモンスターですっ」

 (いろ)(あざ)やかな黄色い蝶々(ちようちよう)、アゲハチョウに近い見た目だろうか。体長は六十センチほど。丸みのある身体(からだ)で顔つきも可愛(かわい)いが、羽が綺麗(きれい)だ。

 名前は、デンパピヨン。

 電波(でんぱ)、つまり電気魔法(でんきまほう)を使うモンスターだ。初めて魔法を使うモンスターに遭遇(そうぐう)したけど、あまり強くはなく、電気魔法の鱗粉(りんぷん)をくらってピリッとしたくらいだ。


挿絵(By みてみん)


 このあとも、《ファーブニル連山(れんざん)》の自然(しぜん)表現(ひょうげん)するようにカギヤンマやデンパピヨンがいたけど、山道(さんどう)にまでやって来ない(かぎ)りはわざわざ(たお)しに行かず、ここでも登場(とうじょう)するクルックモも(たお)しつつ、俺たちは山を登って行った。



 途中(とちゅう)、川があって、水浴(みずあ)びもした。

 木の()薬草(やくそう)などのアイテムを(ひろ)ったり、()り道も楽しんだ。

 そして。

 さらに()き進んだ山の(おく)には、巨大(きよだい)な木があった。空高く()びて、頂上(ちようじよう)(くも)にまで(とど)くほどの大木(たいぼく)だ。

 これが《ファフナ大樹(たいじゆ)》か。

 凪は《ファフナ大樹(たいじゆ)》を見上げて、

「おそらく、この大木のてっぺんに《天空(てんくう)(つるぎ)》はあると思うんだ。《天空(てんくう)(つるぎ)》は空高くにあるって言ってる人もいたしね。でも、(のぼ)るのは大変そうだぜ。(あきら)めるのが(きち)じゃないかな」

「凪先輩(せんぱい)は引き(ぎわ)が早いですね」

 鈴ちゃんが凪の横に来て、《ファフナ大樹(たいじゆ)》を見上げて言った。

効率(こうりつ)の問題だよ。たぶん、体力や筋力系(きんりよくけい)のステをカンストした人が地道(じみち)に上るか空飛ぶじゅうたんみたいな特殊(とくしゆ)アイテムがないと不可能(ふかのう)設定(せつてい)さ。てことで、ちょっと休憩(きゆうけい)~」

 と、凪は頭の後ろで手を組んでトコトコと《ファフナ大樹(たいじゆ)》の根元(ねもと)に歩いて行き、大木に背中を(あず)けて(すわ)った。

 ここで凪が言っていたカンストとは、カウンターストップまたはカウントストップの(りやく)で、数字のカウントが上限(じようげん)(たつ)することを言う。

 ゲームに(くわ)しい人ならよく知っている言葉だ。


「これ、リンゴの木だったんですよね。だいぶ大きく育ったものですね」

 ため息と(とも)にそう言う鈴ちゃん。

「だね。この木の頂上(ちようじよう)から(けん)を引き抜くなんて、難行(なんぎよう)だよ」

 ブドウとか(べつ)の木だったって(せつ)もあるみたいだけど、どの木にしろ、こんなに育つのは相当(そうとう)の時間がかかることだろう。

「開くん、リンゴの木から(けん)を引き抜くってことで思い出したんだけど、同じ条件(じようけん)神話(しんわ)があったわよ」

「へえ。やっぱり設定として使いやすいんだね。どんな話?」

「《魔剣(まけん)グラム》よ」

 なんだって!?

天空(てんくう)(つるぎ)》は、《魔剣(まけん)グラム》だったのか。

 逸美ちゃんの知識(ちしき)がないと見落とすところだった。

「ねえ、逸美ちゃん。グラムって、ドラゴンスレイヤーだったよね?」

「そうよ。北欧神話(ほくおうしんわ)で、英雄(えいゆう)ジークフリートがファフニールというドラゴンを(たお)した(けん)なの。たぶん、この山の名前もそこから来ているわ。《ファフナ大樹(たいじゆ)》のファフナーも英語や現代(げんだい)ドイツ語の読み方だし、《ファーブニル連山(れんざん)》のファーブニルはドイツ語の舞台発音(ぶたいはつおん)っていう発音による読み方なの」

 と、解説(かいせつ)する逸美ちゃん。さすがは《知識(ちしき)(いずみ)》と()ばれる知識量(ちしきりよう)(ゆう)するお姉さんだ。いっしょに旅しているとより冒険(ぼうけん)がおもしろくなる。

「ドイツの舞台(ぶたい)とかで、ニーベルングの指輪(ゆびわ)ってなかったかい?」

 これまた物知りな凪が()うた。

「ワーグナーの楽劇(がくげき)ね。ジークフリートと起源(きげん)を同じくする英雄(えいゆう)ジグルスの物語よ」

 今度は鈴ちゃんが(たず)ねた。

「ええと、ドラゴンスレイヤーってなんですか?」

「ドラゴンを殺すことができる武器(ぶき)だよ」

 凪が答えて、逸美ちゃんがこう補足(ほそく)する。

「あるいは(りゅう)を殺した英雄(えいゆう)のことも()すわね」

「なるほど。そういうことですか」

 俺は《ファフナ大樹(たいじゆ)》に手を置いて、

「つまり、この《天空(てんくう)(つるぎ)》がないと、《ドラゴンの(なみだ)》はゲットできないかもしれないってことだね。これまで誰もこの(けん)を手にした者がいないこと、《ドラゴンの(なみだ)》を入手した者がいないことから、そう推察(すいさつ)される」

「そうですね」

 と、鈴ちゃんはまじまじと《ファフナ大樹(たいじゆ)》を見上げた。

 このゲーム、そういった神話的な知識などもないと、せっかくの裏設定(うらせつてい)見逃(みのが)してしまうことだってあるかもしれない。


 どうやってこの(けん)を手に入れられるだろう、と《ファフナ大樹(たいじゆ)》の根元(ねもと)で考えていると――。

 ゴールド(かせ)ぎをしていたときに助けた白頭ワシ――アルタイルが、こちらに向かって飛んできた。

「…………!」

 それも、別のモンスターから()げるように。

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