第一章30 『一本』
高く飛び上がった三平くん。
対して。
凪は、じっと三平くんから目を離さず、体も動かさずに待っていた。
左手に持っていた《ケリュケイオン》を左右の手で持ち、地面と水平に。そして、三平くんの攻撃を受け止めるように上にかざした。
「パワーの差をみせてくれ。ぼくは勝敗には興味ない」
冷静にそう言う凪にピキッと怒りをみせた三平くんは、技名を唱える。
「みせてやるよ! 《飛び込み斬り》」
力を込めて、剣を振り下ろした。
技名を唱えているところを見ると、魔法を交えた技。鈴ちゃんが使える《氷河を刈る鎌》みたいなものだろう。
鈴ちゃんは審判でありながらも、凪にエールを送った。
「先輩、勝ってください! 馬鹿にされたままは嫌です」
凪は目の端で鈴ちゃんを捉え、小さく息をつく。
「わかったよ。確かに、王子様と魔女っ子は馬鹿にするには的を射ているしさぞ悔しかろう」
ジャンプした三平くんのアタックはすぐ凪に届く距離。
三平くんの剣先が凪まであと一メートルを切ったところで、凪は、《ケリュケイオン》を持つ手を、右手だけにする。
そして。
三平くんの剣が凪の《ケリュケイオン》に触れるタイミングに合わせて――
凪は左足を下げつつ、力を逃がすように《ケリュケイオン》を引いて、柳に風と受け流す。
これにより、三平くんの剣先は、地面に刺さった。
「し、しまった……!」
その間、凪自身は力を逃がすためにくるりと反転して、さらに左手で手刀を、トン、と三平くんの背中に当てた。
「確か、一撃入れたらいいんだよね。ダメージ関係なしでさ」
そう言って、凪は鈴ちゃんを見る。
鈴ちゃんは笑顔で判定を下した。
「凪先輩、一本! よって、勝者は凪先輩です!」
ふっと凪は息をつく。
「やりましたね!」
嬉しそうに鈴ちゃんが凪に駆け寄る。
「一撃勝負だから勝てただけさ」
クールに答える凪。
三平くんは悔しそうに凪を見る。
しかし、声を上げたのは小さな少年のほうだった。
「ずるいぞ! あんな弱っちい攻撃で!」
「一本は一本さ。誰も、武器で一本取るとは言ってない。それに、ぼくの《ケリュケイオン》に触れた瞬間、彼のパワーはある程度だけど把握できた。ぼくとしてはそれで充分さ」
「くそう」
小さな少年が悔しがるが、三平くんは反論しなかった。
負けた、とはっきりわかったからだろう。
しかし、これで一勝。
次に俺が勝てば、こんな無駄なデュエルは終わりだ。
小さな少年が進み出た。
「さっさと出てこい! 次だ次! すぐに終わらせてやるぜ!」
俺も一歩進み出る。
「うん。すぐに終わらせよう」
鈴ちゃんは俺と少年を交互に見て、
「それでは、デュエル開始です!」
宣言した。
俺は背中の剣に手をかけた。
小さな少年は、怒りに任せて駆けてきた。
「うおー! 兄貴の仇討ちだー!」
これなら、負けることはない。
まだ俺は技なんて持ってないけど、胴体がガラ空きで突っ込んでくるやつに負けるほど、間抜けじゃない。
これでも一応、武道のたしなみはあるのだ。
「ッ」
距離を見計らい、俺の一歩分の間合いに相手が入った瞬間、剣を振り抜く。
そして、ガラ空きの胴体を斬る。
「ぐぁあっ」
背中から、少年の声が遅れて聞こえた。
こんなの、ゲームの世界じゃなくても負けるわけがない。
「勝者、開さんです!」
鈴ちゃんのジャッジ。
キン。
金属音を立てて、剣を背中の鞘に収める。
「ふう」
小さく息をついて立ち上がり、みんなのほうを振り返ると、逸美ちゃんが駆け寄ってきた。
「さすが開くんね!」
放心していた少年は、悔しさにまみれた顔で俺を振り返った。
「おっ、おまえ! 剣道とか武道やってただろ! 先に言いやがれ! 隠してたなんてずるいぞ!」
「言う必要もないでしょ。確かに武道はやってたけどさ」
「や、やっぱりやってやがったか……!」
「でも、俺がやっていたのは空手だよ。剣道をやってた人じゃなくても、あんなガラ空きの胴体を見逃す人はいないよ」
小さな少年は三平くんの元へと駆けて行った。
「兄貴~」
「いまのはおまえが悪い。そして、さっきの勝負もおれの負けだ」
仲間を諫めてから、三平くんは俺たちを見て、ビシッと指差した。
「覚えてろよ! 次はこうは行かないからな!」
「そうだそうだ!」
三人は俺たちの横を通り過ぎ、《ドレスフィア》へと歩いて行った。
終始それほど興味なさげだった太っちょの少年が、三平くんに言った。
「《ファフナ大樹》には《天空の剣》に関する情報もイベントもなかったし、準備を整えたらさっさと本筋のルミナリー探しを再開しようか」
「だな。しっかし、ここに来てライバル登場か。おもしろくなってきたじゃねーか」
三平くんはクールにそうつぶやいた。
三人が《ドレスフィア》に向かう後ろ姿を眺める俺に対して、凪は頭の後ろで手を組んで言う。
「ま。大抵どのゲームでも最初の敵っていうのは簡単に勝てるように設定されているもんさ。この先、いつどんな強い相手が現れるかもわからない。開もさっさと強力な武器を手に入れないとね」
やれやれ。こいつはまったく。三平くんの気も知らないでNPC扱いかよ。
俺はみんなに言った。
「さて。俺たちは《ファフナ大樹》を目指して進もう」
「そうね。張り切って行こう~」
「はい。行きますよ、先輩」
かくして。
厄介なデュエルを無事に乗り切った俺たちは、今度こそ《天空の剣》を求めて、《ファフナ大樹》に向かい歩き出した。




