第一章29 『凪VS三平』
一つ目の街、《アルフベル》で知ったこと。
――他のプレイヤーに対して、使えるアイテムはない。ただし、パーティーメンバー同士であれば、回復アイテムなど、一部のアイテムが使用できる。
すなわち、他のプレイヤーに対して、アイテムを使っての攻撃は不可。
また。
――他のプレイヤーに対して、物理攻撃をしたり魔法を使うことはできない。ただし、パーティーメンバー同士であれば、回復や補助効果のある魔法を使用できる。
このルールは、プレイヤー同士での争いを生まないための仕組み。
物理的に攻撃しようとすると、武器や自らの身体が相手に触れる前に、自身の動きが停止する。
しかし。
これによって全面的にプレイヤー同士での接触が、交流のみに限定されたわけではない。
デュエル。
つまりは決闘。
ルールに基づいたバトルは、認められていた。
初めて申し込まれたデュエル。
凪の頭上には、『デュエルを受けますか?』の文字が表示されている。また、『YES』と『NO』のボタンもある。
俺はなんて返すべきか逡巡したが、凪がさらりと答える。
「おう。いいぜ」
「フッ。やる気だな」
ニヒルな笑みを作る三平くん。
凪は平然とYESのボタンを押した。
「ちょっと待てよ! こいつらと戦っても意味ないって」
「そうですよ、先輩!」
俺と鈴ちゃんの抗議も気にせず、凪は言う。
「いいじゃないか。他プレイヤーの強さが見たい。キミはそこそこ強いだろうけど、他プレイヤーと比べてどうかはわからない。それに、武器や魔法の必要性なんかも把握したいしね。てことで、ぼくは見学させてもらうよ」
「なに勝手なこと言ってんだ! おまえが受けた勝負なんだから、おまえが戦え!」
ビシッと俺が凪を指差すと、凪は親指と人差し指を丸める。
「オッケー」
飄々と返事する凪。
「まったく、おまえはつかみにくいやつだよ」
と、嘆息する俺に、凪は小さく笑みを浮かべて言った。
「ああ。相棒のキミくらいじゃなきゃ、ぼくの動向は理解できまい」
逸美ちゃんが聞いた。
「それで、あと凪くん以外は誰が戦う?」
「俺は戦うよ。逸美ちゃんと鈴ちゃんは、戦うの嫌?」
「あ、あたしはあまり戦いたくないですけど……」
「わたしはいいわよ、戦っても」
鈴ちゃん、逸美ちゃんの意見はそれぞれこうだから、戦うのは凪と俺と逸美ちゃんになった。
俺はプランを口にする。
「一戦目が凪、二戦目が俺で片をつけたいけど、ステータスが絶望的に低い凪は勝てるか微妙だし、逸美ちゃんまで回ったときは気楽にでいいからね」
「うん、わかったわ」
どうせ、デュエルに賭けはできないシステムなのだ。勝とうが負けようが、なにかを失うこともない。
三平くんは言った。
「どうやら作戦は決まったみたいだな。始めるか」
「おう。さーて、ぼくもいっちょやってやりますか」
肘を伸ばすようなストレッチをする凪を見て、三平くんは剣を片手に進み出た。
「おれはおまえと戦うためにデュエルを申し込んだ。だから、一戦目の相手はおれがやってやるよ」
「キミが相手か。ふむ、どこからでもかかってきなさい」
デュエルは一撃を入れたほうが勝ち。
一瞬の勝負。
ひとり対戦しない鈴ちゃんが審判として、二人の間に入った。
「では、デュエルを開始します」
鈴ちゃんは凪と三平くんの顔を交互に見て、
「では、デュエル開始です!」
いよいよ始まったデュエル。
一撃の勝負ということで、三平くんも凪も、見合ったまま動かない。
先に動いたほうが、相手に技を見せることにもつながる。
これはそんな目とスピードの勝負だ。
じり……、と。
凪が、わずかに右にズレるように動いた。そのズレ、数ミリ。
三平くんも凪に合わせて、右に動く。
向かい合う二人の距離、向きは変わらない。
相手に隙を見せないことが大切なこの一撃戦で、三平くんが無言で集中力を研ぎ澄ませる中、凪が口を開いた。
「あのさ」
「……なんだ。デュエル中だぞ」
「キミ、攻撃力はどのくらいだい?」
三平くんはハッと笑った。
「んなモン、教えるわけねーだろ。だが、今回だけは特別に教えてやるよ。おれはつえーぜ? 聞いて驚け。おれの攻撃力は、103だ」
「よっ! さすが兄貴! 攻撃力100以上は伊達じゃねーんだぜ!」
取り巻きの小さな少年が声を上げる。
しかし、凪は無表情に言った。
「なーんだ。開より1だけ低いのか」
「んだと!? 嘘つくな! こんな温室育ちっぽいどこかの王子様みてーなやつが、兄貴より強いはずがないだろ! ね? 兄貴」
小さな少年が三平くんに呼びかける。
「単純な腕力だけならおれより強いことだってあるかもしれねーけど、おれには頭脳と経験がある。負けねーさ。その開ってやつのことはともかくよ? おまえの攻撃力はいくつなんだ? まさか、おれより低いとは言わねーよな?」
三平くんに聞かれて、凪はケロッと、
「言ってほしい? ぼくのも聞きたい? 教えてほしいときは、教えてくださいって言うんだよ」
「……」
思わず三平くんが苦渋の表情で閉口するが、小さな少年が凪に言う。
「いいから言いやがれ! おまえの攻撃力はいくつなんだよ? それとも、その見た目通りの黒魔法使いか? 黒魔法はいくつなんだ?」
凪はやれやれと肩をすくめて、
「一度にいくつも質問しないでおくれよ、弟くん」
「だから兄弟じゃねーよ! いいから答えろ!」
「しょうがない。答えてあげるか。ぼくの攻撃力は10。ちなみに、黒魔法は0。えっへん」
胸を張る凪を見て、三平くんたち三人は一瞬だけ言葉を失い、そして、腹を抱えて笑い出した。
「マジかよ! ありえねー」
「す、すげぇ……逆に」
と、小さい少年と太っちょの少年が言った。
「かはは。んなステでよくこのおれと戦う気になるな。しかも黒魔法0で魔法使いかよ。こんなくだらねーバトルはする意味もねーってわかったぜ。さっさと倒してやる。いくぜ!」
あり得ないほど低い凪のステータスを聞き警戒を緩めた三平くんは、一気に駆け出して凪に迫った。
三平くんは、高くジャンプした。
高さ三メートルくらいは飛んだろうか。
剣を振りかぶって、凪に振り下ろす。
「くらえー!」




